第十二話 虐殺
沈みゆく夕陽が作り出す幻想的な風景に浸りながら馬車に揺られること早十分。弘次郎の久々に心が休まる穏やかな時間を脅かす間抜けどもが足並み揃えて馬車へ接近してきていた。奴隷を奪おうとする冒険者か、商品を強奪しようとする盗賊か。どちらにしても統率もなにも取れていない有象無象の雑魚ということには変わりはねえが、その数四十とは、また大所帯だな。馬車の扉を開け、御者台に座るミヌスに声を掛ける。
「この馬車に近づいてくる奴らがいる。冒険者か盗賊かどうかわからないが、好意があって近づいているわけではないことは確かだ」
「わかりました。それでは、馬車を止めますので、あとはよろしくお願い出来ますか?」
「ああ」
弘次郎からの返答を聞いたミヌスは追突を防止するため、後続の馬車に連絡を取り、馬車を停車させる。
「それじゃ、行ってくる」
「気をつけてくださいね」
ルリィに一声かけ馬車を降りた弘次郎は、そのまま馬車前へ歩み出る。地平線の彼方には、土埃を巻き上げながらおよそ十台の馬車がこちらへ駆けて来ていた。さぁて、一仕事しますかね。
「ミヌス。これから繰り広げられるのは戦闘じゃねえ。ただの虐殺だ。故に、戦闘よりも悲惨なことになる。生半可な覚悟で見れるものじゃない。見たくなければ目ぇ瞑ってな」
「弘次郎様、商人をなめてもらっては困りますね。覚悟など、弘次郎様と顔を合わせた時から出来ています。判別不可能の化け物と戦闘を繰り広げられる人間など存在しないのですからね」
「なぁるほど。それだけの覚悟が出来てんなら、お前さんとはいい関係を築けそうだ」
統率が取れていないとは言え馬車はかなりの速度を出しているようで、遠くに見えた馬車は、すでに近くに止まっていた。しかし、統率が取れていないということは、弘次郎を相手取る場合はやはり失点だった。馬車で取り囲むことはせず、ただ一直線に止めるだけだった。この盗賊達の愚行に、弘次郎は僅かに嘆息する。相手よりこちらの人数が上回っていた場合、相手を中心に囲むようにするのが定石だ。例え馬車に乗っていようが、それが変わることはない。党族ならばなおさら獲物が逃げないよう、相手の馬車を自分達の馬車で囲む必要があるのだが、目の前の盗賊達にはそのことを理解する知能はどうやら備わっていなかったようだ。
「ギャハギャハァ!金目のものと女を今すぐおいていけ!そしたら命だけは助けてやるぜ」
「お頭ァ、以前にそう言って降伏した商人を殺したじゃないですか」
「あぁ?そうだっけか?」
馬車から降りた盗賊達は下衆びた笑みを浮かべ、呑気に話し合っていた。そんな盗賊達を弘次郎は眺め、ポツリと呟いた。
「この人数を一人ずつ相手するのは、俺でも少し骨が折れる。だから、まとめて相手することにしよう」
「あ?なにいってんだおまーー」
お頭と呼ばれた盗賊が言葉を紡ごうとするが、最後まで紡ぐことは出来なかった。
「この技はかつて俺が師事した女性から教わったものだ。ーー隆元流一ノ太刀 残響」
なぜならお頭を含めた三十人の盗賊達の首が、弘次郎によってすべて切られていたからだ。宙に舞った首は胴体を離れ、地へ転がる。首を失った胴体は、かつて首が存在したところから生温かい血の雨を辺りに降らせ、地へ倒れ伏す。
「一ノ太刀とはいえ、残響で葬れる上限は三十人か。まだまだ俺は精進が足りないな」
目の前で起きたことを受け入れることが出来ない盗賊達を差し置き、弘次郎は大太刀を振り、血糊を落とす。
「まあそれはそれとして、だ。じゃあな」
踵を返し着流しの左裾を風にはためかせ、弘次郎は馬車へ戻る。弘次郎の後ろで再度残響が放たれ、残りの盗賊達の首がはねられる。血が吹き出る音を耳に入れ、弘次郎はパキンと大太刀を納刀した。
「流石ですね、弘次郎様」
「……別に褒められることでもねぇよ。人の命を奪うためのものは、どんなに立派だろうと胸を張れるものじゃねえ。人を殺すために特化した技なら尚更だ」
「それだけの志があれば十分なのでは?」
「どうだかな」
ミヌスとの軽口を終え、馬車の中へ戻る。馬車の中の椅子に腰掛けた弘次郎の足の上に、ルリィが座る。自分で言い出した手前強くいい出すことが出来ず、弘次郎はされるがままになっている。流石の弘次郎もルリィが乗った状態では、少しお尻が痛くなる。
「弘次郎様、次もお願いしますよ?」
「ああ、そのための依頼だ」
既に薄暗くなっている外を見ながら、馬車に揺られる弘次郎とルリィだった。




