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攻略対象外の推しを救うため、世界を改変することにした  作者: 白露 鶺鴒
第二章 水の洞窟 沈む真実と断罪の継承

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43.教団侵入〈ルヴィニ視点〉


 風側と交渉を持つ前に、神殿の実態だけは確認をしておく必要がある。

 ミオから聞いた風の神殿の地下に繋がる抜け道。邪龍の復活をのぞむ邪教を崇める教団の施設。


 この情報を確認するために、足手纏いとなるミオとカライスを置いて調べに来た。

 一人で行くつもりだったが、サフィロスが譲らなかった。


「本当にきみも行くの?」

「なんだ? ミオに自分だけいい所見せたいのか?」

「そんなんじゃないよ。危険な場所……魔力が使えない可能性があるでしょ」

「あんな玩具でかい? 魔力を使う可能性もある。だいたい、アイオもいないなら君と一緒に行動した方がいいだろう?」


 それを言われると、否定が出来ない。

 ミオが見つけた危険物、呪詛の種――サフィロスの言う玩具で多くの人員を殺された。人員不足が大きい。


 ミオは魔力の扱いについては覚えが早いが、まだ戦力に数えるには難しい。

 そもそも身体的にはどんくさいところがあるので、潜入には向かない。


 戦闘を魔力に頼り過ぎた結果だろう。

 ただ、僕とサフィロスが慣れていたからこそ、その点を鍛えることをしなかった。未熟と責められないだろう。


「解析はした。私なら無効化できる――君にもたいして効果はないだろうけどな」

「いつも制限されてるからね」


 呪詛の種は近くにあるだけでカライスが体調を崩す。

 それでも、ミオが浄化しようとするのを止め、スマラクトの神獣の力を借りて、先に送りつけておいてよかった。

 その効果はあったらしい。しっかりと対策は出来ているようだ。


「はぁ……僕から離れないでよ?」

「わかっているさ」



 ミオの知識による郊外からの入口を探す。


「あったな。まったく、見事なカモフラージュだ」


 ミオから預かった杖を使って、近くを探す。

 そこに、サフィロスがこいこいと仕草をして、僕を呼んだ。


「土魔法は苦手なんだよな」

「あちらにバレると困るんだけど」

「少し時間はかかるが、入口から正攻法で入らず、横から穴をあけるか」


 崖にある入口を土魔法で封じてある。

 これを崩してしまうと、僕らでは元に戻せない。


「できるの?」

「誰に言ってるんだ?」

「はぁ……任せた。周囲の警戒はしておくよ」


 周囲を見張りつつ、サフィロスの様子を窺う。

 高圧力の水魔法により岩肌を削り、新しい通路を作っている。


 無意識に左腕に付けている腕輪に触れる。

 幼い頃からずっと身に着けている腕輪。


 揃いの腕輪に刻まれた文様の効果により、互いの魔力が外に出ないように封じる効果がある。

 身に着けた頃から、僕の魔力よりもサフィロスの魔力のが高い。僕は一切、魔力を外に出すことは出来なくなった。


 サフィロスもその身に宿る魔力の放出は本来の8分の1くらいになっている。

 本来であれば、初級と言われる程度しか魔力の放出が出来ないはずが、魔力操作を磨いた結果、現状ではたいして縛られていない。

 今も魔力を高回転と一点集中で扱い、崖の岩壁を削っている。


「音も出さないってことは、風魔法も使ってるかな」



 数時間かけて、入口の横から侵入できるように通路を作った。


 入口が見つからないように、光魔法と水魔法でカモフラージュもした。

 人通りもほぼないから、見付かることは無いだろう。


「腕輪、外したままで良かったんじゃないの? もっと早く終わったのに」

「こっちの落ち度を探りたい連中ばっかりだ。外せることを知らせない方がいいだろう」

「なら、なんで裁判中は外したんだか」

「決まってる。最悪の状況になれば、ミオではなく君が結界を張れるようにだ。危険だからな」


 ミオの魔力が尽きた場合の保険。

 この杖は、持ち主以外でも扱えるということは本人から聞いていた。


 僕に意図は伝えなくても、もしもの時にはそう動くと確信しての行動。

 実際に裁判は早めに片が付いた。だけど、何度も繰り返せばミオの魔力はつきただろう。


 その場合でも作戦を続けるためだった。

 時間逆行を繰り返し行う方が魔力の消費が少ないというのは意外な結果ではあったけど。


「あの女、厄介だよね」

「やりようはいくらでもあるけどな」


 何度繰り返したところで、魔力量で勝る僕らは近くにいれば記憶を持ち越せる。

 対処する方法をその度、考えればいい。


 今回みたいに、何をやっているのかを周囲に自覚させて、信用をぶち壊すのが一番いい。

 ただ、強硬手段としては毎回、出会う度に切り捨ててもいい。


「あれ、逃げたの?」

「ん? まだ、風の国にいるな。だが、惑わされない程となると、それなりに手練れでないと難しい。追えないだろう」

「……決着をつけに行くには、風もこちらも人員が足りないか」

「そういうことだ」


 侵入した地下通路は人の気配はない。

 普段はあまり使われていないのか、埃くさい。


 不自然ではない程度に埃を払い、足跡が残らないようにしながら歩いていく。

 意外なほどあっさりと神殿の地下へと侵入が出来てしまった。


 地下倉庫から外の部屋に行き、神殿内部であることは確認できた。


 流石に、地下であっても神殿はそれなりに人がいる。

 見つからないように部屋に戻るとサフィロスがいくつかの本を並べていた。


「外を見てきたけど、神殿で間違いないね。でも、これだけなら、緊急避難用の通路でも通じるかな」

「そうでもないな……怪しいところもあったからな。あと、この名簿、役に立ちそうだぞ」


 ひょいっと投げ渡されたのは、この通路を使用した者の名が書かれている。わざわざ名簿を作り管理している。これはいい証拠になる。


「へぇ……」

「ほかにもいくつか興味深い本があったからな。拝借していこう」


 しっかりと教団との繋がりを確認できる本を調べていたらしい。

 そもそもが、この部屋に入れる者を制限してあるのか、教団との繋がりを隠していない。


「魔力、まだあるんだよね?」

「数時間使った程度、何でもないな。一昨日から、風の大陸に魔力を送るのを止めてるしな」


 カライスとミオが拘束されてからは、風の大陸に魔力を送るのを止めた。

 それは、決別を意味している。


 漸くだ。口の端が上がり、にやけるのが止まらない。


 散々、煮え湯を飲まされ続けていた。僕らに不利益を与え続けた相手と漸く手が切れる。

 水側を貶める神殿の者。腹は立つけど、こちらが弱者である以上、我慢するしかなかった。


 実際には世界を滅ぼす計画を立てている教団の者達を風の国の中枢、神殿で飼っていた。

 この事実により、神殿が悪いからこそ、風王も風の神子も、かつて水の民だった者たちを無下に扱えないだけの下地が出来た。


「楽しそうだな」

「大人しく穏便になんて、性に合ってないからね」


 神殿から地下通路に戻る。

 途中、カモフラージュされていた壁の先には、大きな鉄の門。

 目的の場所はこの先だ。



「じゃあ、乗り込もうか」


 最大の敵となるだろう邪龍。

 その復活をさせるための施設と思われる場所へ。



 地下通路の途中に隠されていた道を見つけ出す。先にあったのは、明らかに邪龍を信仰する祭壇。


「予想はしてたけどね」


 ミオの証言が証明された。風の神殿と教団の癒着が確定した。


 明らかに生贄として捧られたのか、血生臭い匂いが鼻につく。

 真ん中の祭壇には、血が飛び散り、こびりついてる。


 神殿からこの施設まで運びだすことは難しくないだろう。

 神殿に安置されていたはずのカライスの姉の死体。その行方を察し、握った拳に爪が食い込み、口の中に鉄の味が広がった。


 サフィロスも同じことを考えたのか、地面についた血を指でなぞっている。


「くそっ……」


 部屋の内部や祭壇を調べるが、異常な魔力の流れが出来ている。

 おそらく、呪詛の種や赤い石についてもここで作っている。

 それほど、異様な磁場が生じていて、体内の感覚が狂うような錯覚もおきている。


「ねぇ、ここ、どうなってる?」

「異常な状態ということくらいしか、魔力の残滓ではわからないな……明らかに、やばそうだけどな」


 サフィロスも判断は出来なかった。


 祭壇に刻まれた文字の判読などもすぐには難しい。

 さらに、この奥にも部屋などもあり、調べたいが――奥から複数の人の気配、さらに人ではない禍々しい気配が現れた。


 まだ距離があるけれど、こちらに向かってきている。

 戦うか――剣に手をかけるが、無理だ。


 今、ここで戦い始めるにはリスクがある。


「サフィロス。下見は十分だから、撤退しよう」

「祭壇以外にも、色々とありそうだけどな……あれだけでも破壊しないか?」

「サフィロス。今回は下見。バレる前に急ぐよ」


 いつもよりも2割増しで真剣な顔をしているサフィロス。

 危険なものを排除する。だが、リスクが大きい。


 近づいてくる存在は一筋縄ではいかない。

 ここに留まることも、潜入がバレるような破壊もできない。


「わかってるでしょ?」

「ままならんな……撤退だ」


 サフィロスが肩を落とし、撤退を開始する。

 音を立てず、速やかに――入口まで戻った。


「ここまで来れば平気かな」

「ああ、こちらに気付いていたわけじゃないから、大丈夫だろう」


 サフィロスと共に、郊外に出て、周囲を探る。

 入口もバレない様にサフィロスが細工してあるから問題はない。


「やれやれ」

「厄介だね。あの気配、どう見る?」

「気配が人ではないのが奥にいるな。強大な力をもつのは2体。あれは、手強いな」


 サフィロスが厳しいと口にした。そのことに眉を寄せる。


 禍々しい気配にまずいとは思ったが、サフィロスも同じであるなら相当だ。

 枷を付けた状態では、勝ち目がないか。


「これを外せば?」

「それでも、私はいいが……」


 サフィロスが言葉を止め、目を泳がせた。


 続く言葉はないが、理解した。

 僕が一人で戦えば、負けるのだろう。


 じわりと嫌な汗が流れる。

 僕が駄目なら、スマラクトや風の神子も駄目だ。風側に全て任せた場合、全滅もあり得る。


「ミオが正しいな」

「サフィロス?」

「水の神子の暗殺。荒唐無稽だと思っていたんだけどな」


 サフィロスの言葉は震えていた。

 お互いに、神子を暗殺する術があるとは考えていなかった。


 だが、実現できる可能性を、たった今、提示された。


「そこまで警戒が必要?」

「正直、一対一であれば、枷を外していれば私も君も問題はない。二体同時は厳しいだろうがな。……事前に聞いていたから、冷静に判断できたが……すでに神子クラスが取り込まれてるのじゃないか」


 ミオの話では、水の神子の死後、神子達が教団側に取り込まれるという話だった。

 だが、すでにあちらはその存在を確保している。


 サフィロスが感じた気配は神子と同格であるなら――何も考えずに、神殿には乗り込めない。


「情報に不備があるね」

「ミオが知っていることは、所詮物語の一部ということだろう。導き手は全知全能ではない」

「教団の動きが予想より早いとは言ってたね。馬鹿げてると切り捨てるのは間違いってことだね」


 サフィロスが頷き、遠くを見るように考え始める。

 こうなると、僕の話はほとんど意味がないだろう。考えがまとまるまで待つしかない。


「戦力強化をするべきだな」

「強ち、ミオの提案も的外れではなかった?」

「ああ、神器を入手し、枷を外した状態で乗り込むべきだ」


 結局、ミオの言うように神器を手に入れ、戦力を強化する必要があると決めた。


 ショウドウに滞在し、教団を糾弾する。それは可能だが、完全に潰すのは無駄だろう。

 このままではノアを逃がしたのと同様、教団も潰すにはいたらない。


 倒しきるには、戦力が足りていない。

 そこまで話しあった後、二人で宿に戻る。



 宿ではミオが消えていて、スマラクトとジェイドがいた。


「どういうこと?」

「ああ。色々な……」


 スマラクトからミオが牢へと捕らわれたことを説明された。

 その原因はジェイドで、その張本人がこの場にいる。


「何でいるの?」

「……」


 ジェイドに聞くが、ぎろりと睨んでくる。ただ、効果はない。

 その程度の威圧に怯むようなら、護衛に付く資格などない。


「……何も知らない状態で神子にはなれない。俺について、学ばせる」

「馬鹿らしい。それを認めたの?」

「お前たちがどちらでもいいと判断したんだろう」

「まあ、そうだけどね」


 どちらが次の神子であっても、構わない。風側の事情に関わる気はないというのは事実ではある。


 僕の返事に、わずかに唇を釣り上げたジェイドはわかりやすい。

 自分が神子となるべきと考えていることが透けて見える。


 実力も伴わない、口だけの存在。

 それでも、構わない。こいつはこちらを見縊っているから、読みやすい。

 逆に、スマラクトは信念はあるが、曲げられるところは曲げるため厄介でもある。


 魔力量が変わらないなら、どちらが扱いやすいか。

 間違いなく、ジェイドだ。


「僕らの情報を神殿側に流されたら困るんだけど」

「神殿が、本当に裏切っているという証拠はあるんですか?」


 ジェイドがこちらを睨んで質問をしてくる。

 水側の妄言と言い切らないのは、ある程度は事情を理解した――つもりでいる。


 神殿内部で入手した証拠を見せると、驚愕に彩られている。

 名簿には副神官長の名前や、それなりの地位のある者が名をつらねている。


 怒りに震えているスマラクトと、ショックを受けてプルプル震えているジェイド。


「……いつ、乗り込む?」


 暗い、重い声での問いスマラクトの問いに首を振る。


「止めとけ」


 サフィロスが止めたことに、スマラクトの眉間に皺が寄った。


「……どういうことだ?」

「私達は神器を取りに行く。なんの準備も無く、倒せる相手じゃないことがわかった」

「そういうこと。まあ、ノアというあの導き手も風の国から消えてないしね。そっちも検討したら? 足手纏いは困るからね、特にジェイド」

「足手纏い? 私がです?」


 馬鹿にされたとこちらを睨んでくるが、事実でしかない。

 アイオも魅了されているが、それでも執拗に時間をかけて落ちただけで、だいぶ耐えていた。

 登場から、即、あっさり陥落されるのは、見た目に好意をいただいたりと、甘さがあったからに他ならない。


「あれに速攻で魅了されるレベルなら話にならないからね。神子になるなら、もう少し腕を磨いたら?」


 僕の言葉にサフィロスとスマラクトが頷きを返す。

 そこは意見が一致している。スマラクトは不足していても、支えるという覚悟のようだ。


 スマラクトを鼻で笑い挑発してみるが、揺れない。心に決めたようだ。

 ジェイドはくやしさに、顔を赤らめてぷるぷると震えてる。


「スマラクト。その口だけで実力を伴わない子どもを連れ歩くなら、考えろよ。教団側に勘付かれて、また逃がすようなら、世界がどうなるかわからないぞ」


 サフィロスの忠告に、スマラクトは大きく頷いた。

 神殿側には何事も無いように過ごす必要がある――準備ができるまで。


 ジェイドが馬鹿にされてると感じ、サフィロスに文句を言おうとした。

 だが、先手を打つようにサフィロスが冷めた目で見つめ、濃密な魔力を投げつけた。


 ジェイドはその魔力に、硬直している。裁判でも浴びただろうに、記憶力も悪いらしい。

 漸く、自分とは覚悟も格も違うことを理解したようだ。


「カライス。シャーナンに戻るよ。準備して」

「は、はい……アイオとミオ、大丈夫なんですね?」

「多分ね。その子供が、わざわざ衛兵に伝えて、警備強化するなら別だろうけど。ミオに任せていい。出来ないことを出来るとは言わないよ」

「……しませんよ」


 悔しそうにつぶやくジェイドを鼻で笑い、スマラクトに向き直る。


「……共に行くつもりだったんだがな」

「きみが? 無理無理。風の国を見捨てられないくせに、付いてこられても困るから」


 裁判前は、確かに揺れていた。

 世界のために、僕らと歩むことも考えていた。


 だが、ジェイドに経験を積ませるために連れてきた時点で、覚悟を決め、ついてくる気などなかったくせに――全く、堅物で融通が利かない。


「一応、あの導き手を追っているということにしておいてくれ。すぐにバレそうだが――じゃあな」

「わかった……健闘を祈る」


 サフィロスがスマラクトに別れを告げ、首都を離れる。

 まずは、戦闘に備え、準備を万全にしよう。




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