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300年の勇者。  作者: 餅米
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9/13

◎一旦は。


一日が経ち、二日目が終わり、時間は思いもよらない早さで過ぎ去った。


遠足前の子供のような心持ちだったのだろうか、それとも死刑囚の命日を待つ気持ちだったか、分からないまま、襲撃日、当日となってしまった。


サロスとコアが並列に並んで、"エルフの城"を出た後、コアが魂の抜けた声で呟く。


「見送りってあんなに豪華なものなの?」


反射的にそういった言葉が出てくるのも無理はない。


なぜなら、昨夜、レスレク団討伐の成功を願い、開催された前夜祭は城の大広間を使い、網で掬い取るようにノビリスの要人が掻き集められた。

たった数時間の式典にしては空振りもいいところの豪勢なものだったからだ。


コアにとって、そういった集まりごとは初めてであったのと同時にコアは世界の風潮との矛盾のようなものを感じた。


「よっぽど俺達に期待してるってことだろうな。」


コアの気持ちを感じてか、サロスは諭すような寄り添うような口調でそう言う。


納得を表す相槌をとっとと済ませるとコアは話題を移した。


「ところで、あの"袋"にはどれくらい入ってたの?」


人差し指と親指をくっつけた手を見せながら、ニヤけた顔をサロスに向ける。


サロスは細めた目と白い歯を見せ返し、昨夜、若町長らから受け取った袋を差し出した。


袋を揺らすと、小さな金属の擦れ合う音が何重にも聞こえてくる。


胸を高鳴らせ、サロスが袋の口に巻かれた紐を緩めたところを我慢できずにコアは覗いた。


「こんなに!?」


目を見開き、更に袋の中へ顔を埋めるように近付いた。


袋の中には、微かな光が差すだけでも反射した金色がコアの顔を照らすくらいの大量のお金、パスが溢れんばかり詰まっていた。


重みが気になり、下から支えようと手を伸ばしたところ、サロスが袋を離した。


その一瞬に伝わった腕への重みで腰が曲がる。


「これ、いくら分なの?」


これら物量の迫力に気遅れし、眉を顰める。


「十万パスあるそうだぞ。」


サロスは顎をしゃくって次にコアの表情がどう変わるのか注目する。


されば、顔を近付けるほど興味を持っていたにもかかわらず、逆にパスが入った袋を顔から遠ざけた。

加えて、目の玉が瞼から飛び出るくらいにひん剥いた。


サロスは予想通りの反応で、最早、口に手を添え顔を背けてしまう。


「な、なに笑ってるんだよ。」


背けてみても笑い声が漏れてコアに怪しまれたが白々しく断った。


その後、コアが何度も理由を聞き出そうと奮闘するも満足したサロスは誰かのように話題を変える。


「とにかく、このお金で装備を買おう。」


不服そうに口を尖らせ、逸らした、と呟いたところ、元に戻ったコアの目に知人のエルフが映った。


「アンバー!」


コアは身を乗り出してそう言った次にはアンバーの立つ木へ走り出した。


サロスは戸惑って辺りを見回し、コアの向かう先へと目を据え、やっと見つけた。


彼女はノビリスに生えている他の木と同じく、秋の紅葉と共に散った葉を地面に広げ、寂しくなった幹に背中を付けて立っている。


目線は下を向いて、顔色も晴れていないが、それでもサロスから預かっている剣を大切に抱き締めて立っている。


サロスはコアの足跡をなぞって走った。


サロスがアンバーの顔を起こす頃にはコアが彼女を質問攻めにしていた。


「今までどこに行ってたの。火災が起こった時もいなかったし、鎮火された時にも見掛けなかったから心配したんだよ。」


「お前はアンバーの母親か。」


サロスはコアのつむじに手刀を振った。


「勇者様。」


頭を摩るコアを尻目に、アンバーが抱き抱える腕を解き、剣を渡す。


「ありがとう。」


その後に続くアンバーからの言葉に備え、サロスは口をつぐんだ。


「勇者様、コア君。私も一緒に行かせて下さい。」


このお願いにいち早く反応を示したのは、コアであった。


「え、どこに行くか知ってるの。」


会議室に出席していないアンバーが知っていることに衝撃を受け、口を開けつつあるサロスに思わず被せてしまった。


「うん。数日前に勇者様から教えて貰ったの。」


アンバーはどうも初対面の時と調子が違う様子ながらコアに弁明し、サロスへと顔を向ける。


「良いんだな。」


向けられたアンバーからの視線に応えるようサロスは鋭い眼差しをもって、彼女の覚悟に問いかけた。


サロスもアンバーと同様、初対面の頃から考えると低く、冷静な声調だった。


「はい。決めましたから。」


その答案に頷くサロスと仄かに笑うアンバーの二人から置いてかれたような心持ちのコアは片眉を上げ、頭を傾げた。


臨時とは言え、アンバーがサロス達の仲間になったことにはあくまで賛成の様子。


話を戻して、サロスは若町長から貰ったパスの入った袋をコアとアンバーの前に出す。


「アンバー。この辺りで質の良い防具屋ってあるか。」


「はい。ありますよ。そこまで案内しますね。」


アンバーの背中を追って、城下町に入って行く。


やはりと言えば当たり前だが、ノビリスに入国した時の街並みとは異なり、国の主要町であるので、あらゆる店が所狭しと肩を寄せ合って建っている。


服だけでも糸売り、染め屋、仕立て屋、呉服屋とそれぞれが五つずつ一角に集まっている場所があり、先の場所には呉服屋が二店舗ある程度だったのに対して桁が違う。


あの若町長が統治する首都であることに納得せざるを得ない。


そうこうしていると、アンバーが立ち止まり、体をくるりと返した。


「到着です!」


デジャブを感じる声を発す彼女の後ろには二階ある木組みの防具屋が悠然と建っている。


丸太を半分そのまま使ったような半円柱のドアの上に"防具屋 デュール・フォルジュ"と力強い文字で書かれている。


「で、でーる、ふるしゅ?」


ところが、コアにとってこの字は暗号のようなもので、思い通り口が動かない。


そこでアンバーがコアの肩を叩いて、こう言った。


「デュール・フォルジュ。硬い溶鉱炉っていう意味だよ。」


コアは軽い接ぎ穂を残せば、丸太のドアを意気揚々と開け、サロスとアンバーを呼ぶ。


あまりのコアの自由奔放さに二人は顔を見合わせ、呆れ半分、笑い半分で首を傾けた。


◇


店に入ると、光量が少なく、窓から入ってくる微かな陽の光のみが飾られている剣や防具を照らしているのが分かる。

そして、おそらく商品であろう更に多くの武器や装備は飾られているものだけではなく棚や樽に乱雑に置かれているものもある。


まるでポプルス国のアリーナで見た武器庫のようで、何層にも鞘すら持たない剣が互いの刃を傷つけ合っている。


共に、この防具屋には人がいない。


薄暗さの中で見えないわけではなく客はおろか、受付には店主すら見当たらない。


サロスは当然、この寂れた店を怪しみ、アンバーに聞かずにはいられなかった。


「なあ。ここ本当に質の良い防具屋なのか。」


壁に掛けられたナイフに恐る恐る手を伸ばすコアを眺めるアンバーにそう言った。


「もちろんです。勇者様。」


だが、疑いの余地なしと言うように屈託のない顔で答えるため、サロスも引き下がる。

とは言え、理由が気になり、サロスは再び、アンバーに言葉を掛ける。


「どうして、ここなんだ。道中にも防具屋はあったのに。」


「簡単です!なんと言ってもルイーザ様の武器がここで作られたからです!私の弓矢もここで作って貰ったんですよ!」


その後も嬉々として自身の弓や鏃(やじり)の材質をルイーザのものと同じにしたことを語っている。


こうなったら、アンバーは止められないことをサロスは知っていた。


なので、それとない相槌をそこら辺に放り投げておいてその場から静かに離れた。


目瞼を閉じ、持ってきた弓を愛でながら言葉を連ねているため、サロスが後退りする姿を見られることはなかった。


サロスは棚を一つ挟んで、腰に下げている剣の柄を握る。


鏡を前に、ぶっきらぼうな笑顔を自分に見せた。


あの人とはまるで違う、短く、黒い髪の毛。ボサボサで嵐の中を進んできたようで、ゴミだって付いてたっておかしくないだろう。


左目下に薄れてしまった黒子(ほくろ)はまだ肌にしがみつくように跡を残している。


肝心の黒いこの目は燻んでしまっている。虹彩だって今まで写してきたもののせいか、何色か見えない。


笑顔を崩し、首に巻かれたマフラーを鏡の上に掛け、鎧を探す。


腰の剣を振るのに精一杯であるので、なるべく軽いものがいい。

そう自分の要望が決まれば壁に沿って飾られた鉄甲冑を眺めて行く。


先述の通りこの店は暗い。

そのため、店主の計らいで消えかかっているランタンが棚の端に置かれているも、甲冑の輪郭しか分からない。


溜め息を溢し、アンバーの判断をやはり疑った。


だが、棚向こうで、アンバーとコアが装備やら武器やらで盛り上がっている声を聞くと、そんな疑念も無視してみる。


この店が間違っていようとそうでなかろうと、壁に沿う鎧たちはサロスの期待には答えられそうにない。


どれも重々しく、これらを着ても木偶の坊になるだけである。


そこで、不良品が積み上げられたような棚に目を移した。


棚の中には想像のままの鉄屑もあったが、三百年間、勇者の遺物回収してきた経験が功を奏した。


諦めずに掘り進め、目当てを見つけるのはサロスの専売特許だろう。


コアが魔法耐性の付いた上着を見つけた頃、サロスも見つけた。


形はアイロン、火の魔法を使うことで服の皺などを伸ばすことができる道具に似たもので、非常に軽く、剣を振る時も邪魔にならない。


また、これは棚の一番底に埋もれていたが、陽に照らして確認してみても表面に傷という傷が無いほどに防具としての頑強さをしっかりと持っていることも、心強い。


サロスはこの運命の胸当てを持ち、同じく運命を引き当てたコアと共に受付に出向いた。


因みに、アンバーはサプライズがあるとかでサロスたち二人に先に買っているよう頼んでいた。


そうして、誰もいない受付の前に客二人が立ち尽くす羽目になった。


テーブルには錆びたベルが一つポツリと置かれているのみ。


サロスとコアは未来の自分の一部を体の前に、顔を向かい合わせる。


「サロスが押してよ。」


コアが身を退きながら、目で示した。


「いやいや、金を払うのは俺だし、呼ぶのはお前に任せるよ。」


「でも、そのお金、サロスのじゃないじゃん。」


コアのカウンターがサロスに見事ヒット。


「分かったよ。」


後ろ髪引かれるような声を呟いて、サロスは胸当てを脇に抱え、ベルを鳴らした。


埃と錆が音の反響を妨げ、何とも心地よくもなければ誰に知らせることもできない無力な音となった。


響きの後とは思えない静寂が続き、コアがもう一度と言うような目線でサロスを見た時、静観が息を吸った。


「客か。」


受付の下から、土を貫く筍(たけのこ)のように老人のエルフが出てきた。


白い、眉毛と髭を藤の葉と見紛うほどに蓄えながら、頭には白髪の一本も生えていない。


更に客か、と言う声はしがれていて、辛うじて聞き取れた母音と子音を組み合わせ、予想して認識したものである。


そして、老人エルフが急に現れたことで、言葉が悪いが幽霊ででも出たのかと驚き固まり、サロスとコアは瞬きをただ繰り返していた。


もちろん、その様子に老人エルフは良い気はしないだろう。


「ほれ。出せ。」


少々の怒りをブレンドした一言で二人は目を覚まし、慌てて胸鎧と上着のパーカーを受付に置き出した。


「ほほう。¥@)@)とdu(7!,¥か。」


商品名を言ったのだろうか。

それとも値段か。


一先ず、サロスは老人の言わんとしていることに耳を傾けた。


「それぞれ1万だ。」


老人の言う通り、袋から二万を表すパス金貨、十枚を取り出し、台に置く。


サロスが金貨を置いた手を引っ込めると、老人の白い苔がピクリと動いた。


「そんな石、持ってるやつがまだいるなんて長生きしてみるもんだな。」


老人は鼻で笑い、金貨十枚きっかり、机の上を滑らせるようにして取った。


「毎度あり。」


老人は金具が錆びた機械に似た動きで店の裏手に入って行く。サロスは思わず追っていた。コアが呼びかけるまで。


店から出て、早速買ったものを装備する。


体の正面に来るように、胸鎧を微調整し、脇の下で紐を縛る。

少し丈の長いコートの隙間からそれが覗くも、マフラーで更に覆い隠す。


コアの方は長袖の服の上からパーカーを羽織る。


両肩には革が使われていて他の部分よりも丈夫で、繊維の一本一本は魔法耐性のある植物で編まれた特別製である。


二人ともに自分のセンスがいかに素晴らしいかを示し、見せ合った。


そうして、五分経った後、アンバーがようやく店から出てきた。


背後に弓だけではなく、剣と盾を背負って。


「お二人とも、どうですか!」


そう腰に手を当て背中をサロスとコアに見せてくる。


矢筒と弓が上半身を斜めに横断し、腰には剣が地面と並行になるように装備、その鞘に重ねて盾が付いている。


一言で言えば、複雑な背中である。


「そんなに背負って重くないのか。」


単純な疑問がサロスの顎の中で膨れ上がって飛び出した。


「ええ。私はこれでも力持ちなので!」


無理矢理にでも腑に落とすしかない答えを言うのだから、サロスは引き攣った顔で感嘆詞を放った。


ともあれ、袋の金を全て使うことなく、つまりは臨時収入を得て、生存率を上げることができたわけだ。


サロス、コア、そしてアンバーの三人はレスレク団の本拠地を探すため、ノビリスを出国した。


愛車はまだ修理が終わっていないので、必然と徒歩となり、歩いて森の中へ入って行く。


やがて足の疲れを紛らわすため、コアとアンバーはまた勇者の話をし盛り上がる。

時折、サロスにも話が振られ、それに答えた。


「アンバーはなんで勇者についてそんなに詳しいの?」


純粋な質問をコアが放った。


「コア君と同じで本を読んだから。」


アンバーは答えた後、サロスの方へ視線を向けた。


「勇者様はどうしてですか。私達と同じようにですか?」


「店をやる過程でな。」


「お店、ですか?」


アンバーが食い付いた。


「そう。勇者の博物館をやってるんだよ。」


コアはまるで自分が、と言うように率先して言った。


「俺がな。」


サロスがコアの顔を覗き見て、付け加えた。


「ですが、なぜ?」


アンバーは知的探究心が捨てられない。


「そうだな。話は俺が魔王から逃げた時まで遡る。」


三百年前、魔王からどうにか逃げることに成功したサロスは仲間達の遺品をそれぞれの地元に持って帰ることにした。


「でも、その時にはあの条約が結ばれ始めていた。」


"非促進勇者誕生条約"が魔王側と女神の領域側で締結。


これのおかげで勇者に関するあらゆるもの、本、道具、彼らの遺体なども全てが国によって管理、処理された。


サロスにとってこの出来事は逆風になることは言わずもがなであるが、彼は諦められなかった。


「今、仲間の村や町に戻っても、捨てられるか燃やされる、そう思った俺は自分で供養しようと思ったんだ。」


地元に帰せなくとも、いなくとも弔うことはできる。


その発想でサロスはある事を思いついた。


「俺達以前の勇者達の遺品が消えてしまう前に集め、彼らが生きた証を残すーー。これが、博物館、"レリク"の所以だ。」


一旦言い終わると、力を抜いて続けた。


「後は想像しやすいと思うが、集めようにも勇者について知らないとダメだからな。色々人伝に聞いたり、本を読んだりして知ったんだ。」


ここで間髪入れずにアンバーが聞く。


「ですが、ルイーザ様とはどうやって会ったんですか?偶々とかですか?」


「それは、俺がそこそこ有名人になったんだ。」


遺品を回収するとなると、村や町に侵入することは免れないし、一人で旅立った勇者は魔王の領域に残っていることもあったので自然と行かざるを得ない。


「そんなこんなで噂が立ったんだ。」


コアとアンバーが首を傾げる。


「魔王の領域を知り尽くした怪盗がいると。」


気恥ずかしそうに頭を掻いて答えるサロスに、コアは目を輝かせ、アンバーは追い討ちをかけるように問いかける。


「ではでは!どうやってルイーザ様と会ったんですか!?」


推し負けたサロスは語る。


◇


今から約250年前。

"レリク"がようやく形になってきた頃、彼女がやって来た。


「ここに"コレクター"はいるか!」


ドアを壊す勢いで開けると共にその大声で館内を響かせた。


大きな音を出す彼女にサロスはボロボロの破れた服を折りたたむ手を止め、ショーケースを盾に覗く。


黒い髪のポニーテール。黄緑色の目となにより尖った耳を持っている。


その瞬間、彼女は覗いたサロスの視線を感じ取り見つめ返した。


「君か!?コレクターっていうのは!」


と思えば次には声の迫力でサロスを立ち上がらせ、両手を挙げさせる。


「こ、コレクターって何ですか!」


吃りながらサロスは聞いた。


「近頃、勇者の遺品を集めている収集家のことだ。」


嫌な予感がして身構え、質問を加える。


「他に特徴とかは。」


「いつも白い剣を腰に挿していて、マフラーを巻いている。」


正に、サロス自身のことだった。


彼女は国の人間か、はたまた味方なのか。


その時、彼女が誰であるか分からなかったサロスは探りを入れてみる。


「知りませんが、その人がどうしたんです?」


「おっと。悪い。警戒させてしまったかな。」


彼女は驚くことにサロスの腹の内を暴いて見せた。


「悪かったな。私はルイーザ。エルフの勇者だ。」


まるで隠すことなくありのままをルイーザは告げる。

その誠意に突っつかれるようにサロスも自分を明かした。


「おー!なら!私と一緒に来てくれ!」


「どうして。」


「君は至る所で有名でな。魔王の領域に関して知識が豊富だと聞いたんだ。そこで案内をして欲しい。」


片眉を上げ、念を押す。


「分かった。付いていく。」


「とまあ、こんな感じだったかな。」


サロスが手を叩き、コアとアンバーの集中を絶った。


「にしても、サロスが怪盗だったなんて。」


それでもコアは会話を止める気はないようだ。


「まあな。その経験があったからこそ、城にも侵入できたんだけどな。」


確かに、と頭を二回上下に揺らすコア。


「その後、ルイーザ様はどうなったんですか。」


アンバーは歩みを止め、声を発した。


勇者の物語の結末は皆が知っているのに、アンバーは聞いた。

その声からは、ろくな結末ではないことを分かっているだろう、調子を感じる。


「本当に聞きたいのか。」


サロスも二つ返事でというわけにはいかない。


「はい。お願いします。」


「……ことの発端はルイーザの誕生日だった。」


ルイーザのためにプレゼントを贈ろうとサロスと当時の仲間は決めた。


その内の一人は特にルイーザを想っていた。

その一人が思い付いたのが、彼女が好きな青い薔薇だった。


しかし、青い薔薇は女神の領域内では自生せず、魔王の領域にしか咲かなかった。


彼は想いゆえに決して正しいとは言えない方法で薔薇を得ようと企んだ。


直接領域内に入り、採取するというもの。


その作戦自体は成功したが、二つの領域間は言わずとも不干渉。


彼は運悪く魔王に仕える竜騎士に捕まった。


不幸中の幸いか、竜騎士は変わった奴で、果し状を送ってきた。


内容は単純。


ルイーザと一対一、サシで勝負する。


もしルイーザが勝てば、仲間は解放する。

もし負ければ、仲間共々、命を奪う。


サロスたちはルイーザにその果し状と経緯を教えると、彼女は有無を言わさず手紙に書いてあった場所に向かった。


魔王の領域内、そこには葉を落とし切ってしまった枯れ木がひび割れた赤土の上に点々と辛うじて生えている。


空気は重く、一呼吸するだけで心臓が潰されてしまいそうになる。


そんな場所で緑色の川が流れる川沿いにルイーザとサロス、その他の仲間達が集まった。


ルイーザが睨む先には、剣を地面に突き立て仁王立ちの竜騎士がいる。


側には捕まった一人が木に括り付けられている。


「サロス。あいつを頼んだ。」


ルイーザがそう耳打ちすると、サロスが頷く前に竜騎士が地面に一回剣を突いた。


乾いた土はもはや岩石、そこに突かれた剣は鈍重な音を響かせる。


「おいおい。勇者ともあろうお方が約束を破るのか?」


奴はツノが生えた兜を被った顔を上げ、見下す目つきでルイーザ達を見る。


「構わないだろ。どうせ私が勝つんだ。」


「いい自信だ。でも、約束は守れ。じゃなきゃ、あいつは、」


竜騎士は手甲を擦らせながら親指を首に持っていき、左から右へ動かした。


ルイーザは腰に挿している剣に手を伸ばす。


「必ず、返してもらう。」


「ああ。その意気だ。」


二人の剣が打ち合い、地獄の世界に新たな音が生まれた。


火花が散り、衝撃で空気が揺れる。

この戦いは熾烈極めるものだった。


正に互角。


ルイーザの攻防一体の戦術と竜騎士の一閃を狙うという間の駆け引き。


だが、力が互角であればあるほど勝負は案外早く決着がつく。


竜騎士は隙をつき、剣ですくった小石をルイーザに投げた。


その瞬間であった。


判断を鈍らせた彼女の腹に一本の剣が突き刺さった。


背中から血を浸した刃が飛び出し、頭が垂れる。


竜騎士の顔は嬉々とし、完全な勝利に体を仰いでいる。


彼は力を誇示するため剣を掲げようとするが抜けない。


力をどんなに込めて腹から抜こうとしてもびくともしない。


「言っただろ。必ず返してもらうと。」


黄緑色の目は真っ直ぐ竜騎士の目を据えていた。


ルイーザは右手の最後の力を振り絞り剣を振い竜騎士の鎧ごと、首を切った。


貫かれた剣を掴む手は落ち、ルイーザも膝から崩れ、地面に倒れた。


「ルイーザは自分の命を顧みずに仲間を救った。」


サロスとコアがアンバーに何か言葉を掛けようと考えを巡らせると、大丈夫だと諭すような声色で、ありがとうこざいます、と口にした。


ただ、気になるのはその言葉の前に頷いていたことだった。


コアはいち早くこの行動を不思議に思い、聞こうと息を吸った途端、アンバーが叫んだ。


「追いかけましょう!」


木と木の間を黒い影が通り過ぎた。


彼女の背中を見て、サロスとコアも人影を追いかける。





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