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◎道中には。

夜は明け、陽は木々の葉を透かし始める。


木炭となった焚き火を囲い、コアが静かに寝息を立て、サロスは石壁に背中をつけて目を閉じていた。


陽光が洞穴の中へ入ってくるとサロスの目を照らし、朝を告げた。


少し怪訝な顔をして陽を遮ろうと手をかざす。


「コア。ほら、朝だ。出発するぞ。」


コアを揺すり、起こそうとするも即席毛布、葉を縫い合わせたものを引っ張り、眉間に皺を寄せた。


「あと5分だけ。」


「そんなこと言ってないで、ほら、」


無理矢理に掛け布団を剥がそうと手を伸ばすが、コアはまたすやすやと寝てしまった。


「全く、仕方ないか。」


サロスは地面に座り込み、焚き火の準備をし始めた。


5分どころか1時間と過ぎ、コアは起きた。


目を擦りながらサロスの作った焼き魚を頬張り、サロスをなんの気なしに見た。


「どうした。」


その視線に気付いた彼はコアに呼びかけ

た。


コアは寝ぼけ眼のまま思い出したかのようにこう質問した。


「サロスの剣ってなんで紐が巻かれてるの?」


サロスは答え辛そうに脇見し、意味のない繋ぎ言葉を連呼した。


コアに不思議な顔をされ、ようやく観念したのか話し出した。


「剣の刃が錆び付いてるからこれ以上空気に触れさせないようにするためだよ。」


「そこまでしてその剣が使いたいってこと?」


「まぁな。」


余った空気を吐き出した。


素朴ながらに味付けされた川魚を食べ、サロスとコアは洞穴を出た。


荷物も何もなく、サロスの剣だけを持って2人は街道に出た。


街道とは言っても城下町区とは違い、石畳で舗装されていなく、草木が避けてくれた空間を通る踏み跡の道である。


側に小さな集落や商人のキャンプ場が稀にあるのみで他は生い茂った緑色の草原しかない。


そんな道を歩き始め、コアがサロスに聞いた。


「これからどうするの?」


「電気の魔導書を取りに行く。」


「電気の…何?」


「魔導書だって。歴史の授業とかで聞かなかったか。」


コアは首を傾げる。


「なら、説明しよう。」


電気の魔導書は他の火、風、水の魔導書と同じ系列のものである。その中身は名の通り属性に従った基礎から応用までの呪文や会得方法が載っている。


「でも、これはただの魔法の本じゃない。電気のものに限らず、4つ全ての魔導書は国宝として扱われる。」


魔法が必修であるこの世界で魔法の使い方が書かれた本は五万とある。

だが、この4冊の魔導書は別格で、複製することはおろか見ることすら許されない。


「その理由が何か。分かるか。」


突然、サロスはコアに投げかけてみる。


しかし、コアは首を傾けるどころか横に振るばかり。


サロスはため息一つ吐いてからこう言った。


「"今"を作ったからだ。」


火の魔導書を原初として、水、風、電気の順で人々に叡智を与え、人々を進化させた。


火は暗闇を照らし、水は食を支え、風は悪を追い払った。

そして、電気は技術を発展させた。


「魔導書が大事だって分かったけど、どうしてそれを取るの?」


「お前を強くするんだよ。魔王を倒すにはまだ力が足りないからな。長所を伸ばしていくんだ。」


コアは膝を打ち、なるほどと口にした。

ただ、サロスの顔は晴れない。


気になってコアは覗き込むようにして聞いてみる。


その答えは衝撃的でコアの足を止め、再び目を大きく開かせた。


「魔導書がある場所ってのが、ポプルスの中心部にある名実共にポプルスにある建物の中で1番大きい、エクレシア・オブ・デアにあるんだよな。」


「待って。…エクレシアって大王様の城だよね!?」


そんなコアの驚きにサロスは苦笑いで反応するとコアはより一層目が落ちるほどに目を広げる。


「またお城に忍び込むの!?いやいやいや!」


声色は高く、両手を前でブンブンと左右に振り、顔が引き攣って仕方がない。


明らかに嫌がっているコアにサロスは落ち着かせるために声を落とし説明する。


「何も今からってわけじゃない。城に侵入するにも仲間がいる。頭が切れて腕っぷしもあるような仲間がな。」


サロスの一言で多少なりとも冷静を取り戻したコアはサロスに聞く。


「その仲間ってどこにいるの。」


「サピエンス国だったら見つけやすいと思う。」


「なんで?」


「サピエンス国は他国に比べて勇者に寛容だから。」


中途半端な返事をするコアを横目にサロスは続けた。


「だけど、まず俺達が目指すべきなのは家だ。」


「家って。村のこと?」


その通りと頭を縦に振る。


「サピエンスまでも遠いからな。車を取りに行く。」


家という言葉を聞いたコアは視線を落とし、拳を握りしめた。


小石が足裏に突き刺さりながら村まで5キロに差し掛かった頃。


腰を曲げた白髪の年老いた老婆が視線を定めないで辺りを見渡していた。


サロスは迷うことなく老婆に近づいた。

コアも引っ張られるようにして老婆に寄る。


「どうかなさいましたか?」


サロスがそう優しく話しかけると、老婆は申し訳なさそうに困り眉になり事情を話した。


「実は、アイフっていう本屋を探してるんだけど知ってるかい?」


悩む様子もなくサロスは身振り手振りを駆使し、場所を教えた。

しかし、老婆の表情は変わらず、眉をひそめたままである。


「ごめんなさい。私、方向音痴で良ければ連れて行ってくれると嬉しいんだけどね。」


サロスはなら、と老婆に寄り添おうとする。その寸前でコアが手を引いた。


「助けてる暇なんて無いよ。僕達だって早くこの国を出ないといけないんだから。」


コアは相変わらず焦りから来る怒りをサロスにぶつけた。


「分かってる。でも放っては置けない。」


サロスはコアの頭を撫で、大丈夫、とあやした。


コアはその子供対応にも腕を組んだがこの状況で人助けする精神が分からなかった。


「もちろん。俺達が案内しますよ。」


結局、サロスは老婆に手を差し出し、コアの意見は通らなかった。


アイフという本屋は幸い、少し歩けば着く程の距離にある。


サロスを中心に老婆とコアが挟み、本屋がある集落へ向かう。


コアはその間、不服そうな目と態度を貫いた。


サロスが老婆に積極的に話しかけているのを横目に心の中でありったけの文句を言ってみる。


「僕達だって困ってるのに、他の人を助ける暇があるわけない!」

「サロスは僕を勇者にしてくれる気がないんだ!」


色々叫んでみるも、どうにも落ち着かない。


コアはとうとうサロスと老婆の会話に耳を傾けた。


「最近はやっと自分から考えるようになってね。全く困ったもんだよ。」


不満そうに、だが、自慢げに老婆は言った。


「お孫さんもきっと、お婆さんに感謝してますよ。しっかりと怒られてよかったって。」


サロスも笑顔を蓄えながら言う。


その時コアは一言が気になった。


怒られること。


思い返してみればコアは母に、父に怒られたことなんてほぼ無かった。

怒られたのは先日の勇者の件くらいで、他は全て褒められた思い出しかない。


怒られて育つことがあるのか。


その問いに意識を奪われた。


「コア。お前も話してみろよ。」


サロスはコアを入れて話そうと水を向けてみる。


「いや、僕はいい。」


が、跳ね除けられてしまった。

コアは突っぱねるように愛想悪く返す。


空気が重く、コアとサロスの間に壁が出来上がったまま本屋まで歩いた。


小石が靴に擦れる3つの足音が続き、本屋に到着した。


「案内してくれてありがとう。何かお礼をしたいね。」


サロスは数回大丈夫だと言うが、老婆は聞くつもりがない。


「あ、そうだ。2人にそれぞれ好きな本を買ってあげる。」


流石にここまで迫られると断ることもできないため、サロスは微笑みながら頼んだ。

だが、コアは黙して何も応じない。


それでもコアは小屋のような小さい本屋に入って行った。サロスも連なって入店する。


入ると小さい部屋の中に上から下まで僅かの隙間もなく本が押し込まれ、本棚に入れられていた。


背表紙を指でなぞりながら通路を通る。

歴史書に図鑑、小説に辞典まで。

様々であった。


サロスとコアは別れ、それぞれで本を探し始めた。


「勇者の変遷。」


偶々目についたこの本にコアは手を伸ばすが、本に降りていた埃に咳き込んだ。


空気の入る余地もなく詰められているお陰で力を込めて背表紙を引っ張っても取れない。


「私が出そうか?」


老婆がコアにそう提案した。


だが、見るからに力が無い老婆に出来るようなものではない。


コアは手を顔の前で振り無理だ、と老婆を止めた。


それでも老婆は優しく笑って本棚の方を向いた。


しわがれた指の腹で背表紙の上部を斜め上に押し、飛び出してきた部分を持って取り出し、手際よく、滑らかに本をコアに渡した。


「こうやると取り出しやすいし本も傷めないんだよ。」


コアは開いた口を閉じ本を受け取った。


一拍置いてから老婆はコアに言う。


「ごめんなさいね。急いでたのに。」


驚き、首を振り、手を振るコアは弁解した。


「違うんです。気にしないで下さい。」


「でもあなた、ずっと、」


「それは、サロスが悪いんです。僕達は一刻も早くこの国を出なきゃいけないのに、こんな、」


コアは勢い付いて口が滑った。


「ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんです。」


コアの思いを聞き、老婆は心配しないでと温まる声色で言った後、寧ろ安心して眉を下ろした。


「じゃあ、あなた達は前からこんなに仲が良くないわけじゃなかったのね。良かったわ。」


「そんなことお婆さんが気にする必要は、」


コアがそれとなく遠慮してみるも強情に断った。


「いいえ。関係あるわ。少しでも一緒に歩いたんだもの。」


そして、老婆はコアに助言を施した。


「2人はこれからか、これまでか、旅をしてるんでしょ?だったら、仲良くしないとダメよ。頼れるのは仲間しかいないんだから。」


老婆の連続した言葉に圧巻するも、コアは受け取ったその言葉を噛み締めた。


「ありがとうございます。僕を、怒ってくれて。」


老婆は一瞬戸惑ったものの優しい笑顔を見せた。


30分ほど時間をかけて、サロスとコアが本を選び、老婆は2人に本を買って別れた。


その別れ際に一言。


「ここまで送ってくれてありがとう。それに2人とも仲良くね。旅は楽しくないといけないから。」


「はい。」


「…はい。」


少しずれているが、返事が重なった。


本屋を出て村の方へ再び歩き始める。


数歩進んでコアはサロスに話しかけた。


「ごめん。僕、自己中だった。」


軽く微笑み、サロスは応えた。


「心配するな。俺もしっかり言えば良かったな。」


「何を?」


「人を助ける意味だよ。勇者は魔王を倒すことよりも大切なことがある。それが、」


「人助け。」


「その通り。」


サロスは付け加えた。


「それに、人を助ければ自分が報われることだってある。」


老婆から貰った本を出してそう言った。

コアも貰った"本"を見つめる。


草の上を通る風がコアの足元を掠めた。


陽が木々の中に半分埋もれている。


「サロス。お腹空いた。」


サロスはコアの突然の空腹に驚くがその驚きは雰囲気に流された。


「せっかく町に着いたし店で食べるか。」


「うん。そうしよ。」


2人はまた何かのために寄り道を繰り返す。


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