18枚目・剣の道に生きるということ【泉水】④
読みやすさのため、内容を分割して調整しました。
文章の一部を変更しましたが、物語の内容には変更はありません。
作者:服を着た猫
「やりたいことをやる・・・後悔がないように・・・」
「だろ?
蛍には聞きはしねぇが、答えは同じだろう。
アイツがやりたいだろうことは全部叶えてやる!たとえ無理やりにでもやらせる!
好きな物食わせて、好きな遊びさせて、出来れば恋の一つでもさせてやるんだな」
恋・・・まぁ、俺でもあと僅かの命だったら、恋くらいしてみたいけど・・・
なんだろ・・・泉美が誰かと腕を組んでる想像したら、なんかムカムカしてきた・・・
ん~・・・もしかして泉美は妹みたいなもんだから、兄心みたいな感じなんだろうか?
スズも同じようなもんだし、そういう事だな。
「青春を謳歌させてやれ、学校に通えるんだったら部活もな。
剣道部に入れても大会に出るのは無理だろうけど、あと5ヶ月もあれば学園祭の演劇には出られる可能性はあるだろう」
「・・・それで演劇部・・・」
「ああ、考えられる限りにあの子に・・・蛍に楽しい6ヶ月間だったと思わせてやる。
心残りが無いようにしてやる、それが今の俺らに出来る唯一のことなんだよ」
なるほど・・・学校に通うなら部活もさせてやれ・・・
要は泉美が後悔しない6ヶ月を味わわせてやれ、ってことだろ・・・博士の言いたいことは分かった・・・分かったけど・・・
「分かったら蛍を演劇部に入れてやれ、そして出来れば向こうの世界でやるはずだった役をやらせてやれ、分かったな!」
博士の言いたいことは分かるよ・・・分かるけどさ・・・
そんなの・・・そんな言い方じゃ・・・泉美が絶対に助からねぇって言ってるようなもんじゃねぇか!!
【ズキッ!!】
無意識に両手を握りしめていたんだろう。手に痛みが走ったけど手を開くつもりにはなれなかった。
それどころか、さらに手に力を籠めた。
この痛みが自分の罪だと、罰なんだと思ったから・・・
【ギリギリ!!】
同じくらい顎にも力が入ってたみたいで、奥歯が【ギリギリ】音を立てていたけど、気にしなかった。
博士の言葉は何にも納得できなかった。
・・・納得いかねぇ!!・・・納得いかねぇけど、今俺に出来る事は・・・
「分かり・・・ました」
本当はうなずきたくなんかなかった。だけど、うなずくしかない。
そう自分に言い聞かせて、やっとの思いで俺はうなずいた。
「だけど俺はアイツを元の世界に返すことを諦めるつもりはない!!
6ヶ月間、楽しい思い出を作ってやることは賛成だ。だけど・・・それは心残りを無くすためじゃない!!
6ヶ月後に、元の世界に戻った時に、この世界での思い出を楽しかったって、いい思い出として思い出してもらうため!それ以上でもそれ以下でもない!!
絶対にアイツを・・・泉美を無事に元の世界に戻す!!
だから博士もそのつもりでいてくれ・・・心残りを無くすためなんて言わないでくれ・・・お願いです・・・」
俺は今までしたことが無いくらい深く、頭を下げてみせた。
それが俺の決意を見せることになるって思ったから・・・
そんな俺の態度に、呆れたのか、納得したのか、「ハァー」と小さなため息が聞こえて、俺が顔を上げると博士は肩をすくめていた。
「分かった分かった、お前にはもう後ろ向きなことは言わねぇよ・・・まぁ、もしものことを考えねぇ訳にはいかねぇけどさ・・・少なくともお前の前では言わねぇよ」
「・・・ありがとう・・・ございます」
一応お礼は言った。だけど、博士の考えが変わっていないことを俺は感じ取っていた。
そんな考えが顔に出ていたんだろう。博士は再び「ハァー」とため息をつくと、コーヒーが落ちきったコーヒーフィルターを外して、テーブルに並べたカップにコーヒーを注ぎ始めた。
部屋に広がるコーヒーの匂いが、どこか遠く感じられた。




