5枚目・親友の定義①
小説の構成順番を直すために投稿し直しました。
2024年7月15日
服を着た猫
イズミ達が水輝家本家で会談をした翌日。
春野家に1人の訪問者が訪れていた。
その訪問者は桜門高校の制服に身を包み、朝早くから仏頂面で玄関前に立つと、仏頂面のままインターホンを鳴らした。
「はーい」
呼び鈴に応答したのは、朝食の用意をしていたイズミ達の母アゲハだった。彼女はインターホンの受話器を取る。
「はい」
『私です。瑞希です』
「あら、瑞希ちゃん。今開けるわね」
アゲハは玄関に行くと鍵を開け、扉を開いた。
「おはようございます」
「はい、おはよう。朝早いのね?何か用事?」
「ええ、まあ・・・」
笑顔であいさつするアゲハに対し、瑞希は無表情で答える。
その時、2階から階段を下りてくる足音が聞こえてきた。
「チャイム聞こえたけど、誰か来たの?」
寝ぼけまなこの目をこすりながら現れたのは、ポニーテールにしていたヘアゴムを外し、髪を下ろした姿の泉美だった。
「あれ?瑞希?
ふぁ~・・・おはよう。何かあった?」
「・・・・・」
「瑞希?」
いつもなら不機嫌そうでも返事をしてくれる瑞希が返事をしてくれないことに、泉美は疑問を感じる。
そんな彼女をいつものようにジト目で睨みつけながら、瑞希は泉美が予想もしない一言を発した。
「あなた誰?」
「へっ?
何言っ―――あっ!」
その瞬間、泉美はこの世界が異世界であったことを思い出した。いくら見慣れた親友である瑞希でも、目の前の彼女は自分を知らない。
泉美は慌てて誤魔化そうと考えを巡らせる。
「え、えっと、わ、私は―――」
「もしかして、あなた・・・イズミ?」
「へっ?」
思いもしない一言に、泉美の思考はパニックを起こしてしまう。
「わ、私が理解できるの?」
「分かる?」
「あ、いや、し、知ってるの?」
「知ってると言うよりも・・・」
「瑞希ちゃん、こ、この子はね」
パニックに陥った泉美に代わり、アゲハは慌ててフォローをしようとするが、瑞希は感情のこもっていない声で答えた。
「おば様、いいです。用事の半分は達成しましたから、あとは彼女に直接聞きます」
「で、でも・・・」
アゲハは瑞希と泉美の顔を交互に見た。
心配そうなアゲハに対し、瑞希は鋭い目つきのまま続ける。
「いいです。
それよりも、おば様は食事の準備中だったのでしょ?焼き魚の匂いがしますから、早く仕事にお戻りを」
「そ、それはそうだけど・・・」
「魚、焦げますよ」
瑞希の言葉にアゲハは渋々、後ろ髪を引かれながら玄関を離れた。
アゲハがリビングに入っていくのを見届けると、瑞希は泉美に視線を移し、その目をジッと見ながら言った。
「・・・一昨日の夜、泉水が変なこと聞いてきたの。
電話で『紫紺の髪でポニーテールにしている女の子に心当たりは無いか?』ってね。
同時に『プリクラを撮ったか?』とか『俺以外にイズミって名前に覚えは?』とかね。
総合すると≪紫紺の髪をポニーテールにしたイズミって名前の女と、プリクラを撮ったか?≫って、ことよね?
つまりあなたがイズミで、あなたとプリクラを撮ったかってことでしょ?」
「そ、それは・・・」
「否定はしないのね。
あなた・・・何者?」
鋭い視線で睨みつけてくる瑞希に、泉美は蛇に睨まれた蛙のように何も言えなくなっていた。
そこへ騒ぎを聞きつけた泉水が、2階から降りてきた。
「何の騒ぎだよ・・・って、瑞希!とい―――」
泉美の名前を言いそうになって慌てて手で口をふさぐ泉水。その様子に瑞希はジト目で彼を見ながら冷たい声で言い放った。
「彼女が、電話で話していたイズミなんでしょ?
私と彼女が一緒にプリクラに写ってた。そういうことよね?」
「そ、それは・・・」
「説明してもらえるのよね?泉水?」
泉美同様、蛇に睨まれた蛙のようになった泉水は、ただうなずく事しか出来なかった。
瑞希をリビングに案内した泉水は、卓上テーブルの椅子に彼女を案内すると、向かい側に自分が座り、その横に泉美を座らせた。
「説明する前に、こっちの質問に答えてもらっていいか?」
「・・・いいわよ」
仏頂面のまま眉一つ動かさず答える瑞希。
「今日は何でこんな朝早くウチに来たんだ?」
「・・・昨日マリア先生に言われたのよ『今日、せっかく体育館の使用許可取ったのに、春野さんったらホームルームが終わったら、さっさと帰ってしまったのよ。瑞希さん理由を聞いてみてくれない?』ってね。
同時に『舞さんも用事が出来たからって、帰ってしまったのよねぇ』とも愚痴ってたわね。
まったく幼馴染だからって、いい迷惑だわ」
「だからって、こんなに早く来なくても・・・」
「嫌がらせの意味もあったけど、問い詰めたいことが有ったから・・・」
「問い詰めたいこと?」
「あの電話に出てきた、イズミって女は何者?ってね。
まさか本人と出くわすとは、思わなかったけど」
瑞希は泉美に視線を移すと、ジト目で睨みつけてきた。
「あなたは私とプリクラに写っているらしい上に、朝私を見た時の反応は私のことを知ってるような口調だった。
だけど私はあなたなんか知らない。
見たこともない女に、なれなれしく話しかけられた時は悪寒がしたわ」
「!!
ごめん、なさい」
冷たく言い放つ瑞希の言葉に、泉美の顔には悲しみの色がありありと滲んでいた。
「けど、その理由くらいは聞いてあげるわ。
その理由を聞いてから、あなたに対する態度を決めさせてもらう」
「わ、私は―――」
鋭い視線を向けてくる瑞希に委縮しながら、泉美が必死に答えようとした時、泉水が手を使って遮る。
「無理に説明しようとしなくていい。俺が話すから」
「う、うん」
「瑞希の言う通り、ちゃんと理由はある。
泉美にとって瑞希はよく知ってる相手・・・親友だから、あんなフランクな口調になったんだ」
「???
どういう、こと?」
真剣な顔で説明してくる泉水の理解しがたい説明に、さすがの瑞希も無表情ではいられず、困惑の表情になり戸惑いを隠せなかった。
困惑する瑞希に泉水は、桜門神社で起きたことから分かっている範囲を話して聞かせた。
「異世界から泉水が引っ張り込んだ、泉水のドッペルゲンガー・・・もう1人のイズミ・・・」
「ああ、そうだ」
「荒唐無稽、バカも休み休み言いなさい!!
・・・って一蹴したいけど、こんなの見せられたら、簡単に否定することは出来ないわね」
テーブルの上には泉水が説明している間に泉美が持ってきた、プリクラ手帳が広げられていた。
そこには笑顔の泉美と、嫌々付き合ったのだろう、泉美に腕を組まれた仏頂面の瑞希が、一緒に写っており≪ずっと親友だよ♡≫のラクガキが書かれていた。
「こんな写真撮った覚えはない、もちろんあなたと写った覚えもない。だけど、こんな写真がある。
合成と言えばそれまででしょうけど、そこまでして写真を作る意味が分からない。
つまり、認めざるを得ないって訳ね、あなたが異世界のイズミだってことを」
「納得してもらってよかった」
ほっと胸を撫で下ろす泉美だが、瑞希はジト目で泉美を見続ける。
「でも、写真を見る限り別世界の私とあなたが、仲がいいようには見えないわね」
「それは・・・」
「それでも、あなたが別世界の私を親友と呼ぶ理由は何?」
泉美はうつむき少し考えた後、鋭い視線を向けてくる瑞希の目をしっかりと見て答えた。
「それは、瑞希が私と親友になりたいと言ってくれたから」
「!!」
ジト目で泉美を見ていた瑞希は、カッと目を見開いた。
「私が・・・親友に・・・なりたいって言った!?」
その瞬間、瑞希の脳裏に幼いころの会話がフラッシュバックされる。
『私、君とは友達よりも仲良くなりたいなって、思って』
『友達よりも仲良く?』
幼い少女の言葉に、こちらも幼い男の子が首を傾げる。
『うん、ママが言ってたんだ。友達よりも仲がいい人のことを親友って呼ぶんだって。
私、君と親友になりたい!!』
泉美はさらに言葉を続ける。
「そして、傷ついたあなたを支えたいと思ったから、私は親友としてあなたを支えていくんだって。
だから、私はあなたの親友で居続けたいと思った」
その言葉に再び、瑞希の脳裏にフラッシュバックが起きる。
『だから私は大切な人なんてもう要らない、私はもう親友なんていない方が良い。
私は親友なんて要らない!!』
少女は少年を睨みつけて、言葉を続ける。
『だからお願い・・・私の大切な人にならないで』
『だけど、やっぱり僕は瑞希ちゃんの親友をやめたくない』
『どうして!?
分かってくれたんじゃないの!?』
『僕は、親友として、友達よりも仲がいい友達として、瑞希ちゃんを支えたい。
もう一度瑞希ちゃんが笑えるように、瑞希ちゃんの心を直したいんだ。
だからお願い、僕を親友で居させて』
瑞希はフラッシュバックが収まると、叫んだ。
「なんで!なんでそのことを、あなたが知ってるの!?」
苛立つ瑞希は、椅子から立ち上がり泉美の腕を掴もうと手を伸ばす。だが、その手は立ち上がった泉水に掴まれ止められた。
腕を掴んで首を横に振る泉水、その姿を見て我に戻った瑞希は椅子に座る。
瑞希が椅子に座ると泉水は話を補足するように話し始めた。
「泉美の居た世界と、こちらの世界はよく似ている。
町並みや住んでいる人だけじゃなく経歴や行動までも、だから俺たちが話して様な内容を、泉美も別世界の瑞希と話したんだろう」
「そう・・・じゃあ、あの日、異世界の私もこの家の隣に引っ越してきたのね」
「うん、小学校の入学式がある2日前、笑顔がまぶしい女の子がウチの隣に引っ越してきた」
「入学式の2日前・・・」




