3枚目・私のドッペルゲンガーと俺のドッペルゲンガー⑤
読みやすさのため、内容を分割して調整しました。
文章の一部を変更しましたが、物語の内容には変更はありません。
作者:服を着た猫
そんな楽しそうな雰囲気に惹かれたのか、猫のルーンが泉美の足元へやってきた。
「ニャー?」
泉美の足元で首を傾げ、鳴くルーン。
「ん?・・・ああ、ちゃんと君のこともルーンって呼ぶよ」
「ニャー!」
うれしそうに鳴くルーンを見て、微笑む泉美。と、彼女の隣に座っていた大樹が、身を乗り出して話しかけてきた。
「ねえ、泉美お姉ちゃんのことは、お姉ちゃんでいい?それとも、姉ちゃん?それとも、お姉さん?
僕は、お姉ちゃんって呼びたいんだけど・・・」
「フフ、好きに呼んでいいわよ」
笑顔で泉美が応えると、大樹も満面の笑みで応える。
「じゃあ、お姉ちゃんで!
ねえ、お姉ちゃんは、僕のこと、大樹って呼び捨てしてくれるんだよね?」
「ええ、向こうの世界でも大樹のことは呼び捨てにしてたし」
「やっぱり向こうの世界にも僕がいるんだね!
ねえ、向こうの世界の僕ってどんな奴だった?」
「えっと・・・悪口になっちゃうけど、ちょっと生意気だったかな」
「へぇ~、どっちの世界でも生意気なのは、変わりないか~」
泉水がニヤニヤしながら、大樹を見ると彼は顔を真っ赤にして怒った。
「な、生意気なんかじゃないよ!本当のこと言ってるだけだよ!!」
「その本当のことを言うのが、生意気なんだろ?」
「確かに正論ばっかり並べて、こっちがぐぅの音も出ないようなこと言ってくるのが、生意気に感じてたなぁ~」
「うう・・・じゃ、じゃあ、これからは気を付けるよ」
先ほどの笑顔から一転して、しょんぼりした表情になってしまった大樹。
「どうして?」
「僕、昔からお姉ちゃんが欲しかったから、お姉ちゃんには嫌われたくない。
だから、生意気なこと言わないようにするよ」
「へぇー、こっちの世界の大樹は、お姉さんに憧れがあったのかぁ~。
フフ、別に気にしないからいいよ。ちょっとくらい生意気な方がうれしいし」
「ホント!?」
「ええ」
「じゃあ、普通にするね」
「ええ、そうして・・・それにしても、私の知ってる大樹は、いっつも『兄ちゃんが欲しい、兄ちゃんが良かった。姉ちゃんはつまんない!』って言ってたから、なんか新鮮」
「ええ!!こんなに美人のお姉ちゃんがいるのに、そっちの僕ってイヤな奴だね」
「私、美人かな?
フフ、ありがと」
「ど、どういたしまして」
顔を真っ赤にして、照れる大樹を見て、泉水はニヤニヤと笑った。
そんな楽しく話す空気を一掃するように、父が「ゴホン」と咳払いをしてから話を振ってきた。
「それより今後どうするかを話し合わないか?
泉美は向こうの世界で、桜門高校に通っていたのだろ?」
「あ、はい、通っていました」
まじめな話に、泉美は先ほどまでのフランクな話し方ではなく自然と敬語になる。
「こちらでも通わせてあげたいが、実質戸籍がない泉美を、通わせるのは難しいと思うんだ」
「でしょうね。覚悟はしています」
悲しそうに伏し目がちになる泉美。
その姿を見ながら、父は話を続ける。
「でだ、母さん、お義父さんに相談するのは、どうだろう?」
「お父様に?
そうね。お父様は市の政界に顔が利くし、高校転入に関する手続きも何とかしてもらえるかも!」
「そうだろ?
どうだろう、明日にでも尋ねてみるというのは?」
それを聞いて、泉美はうなずいた。
「分かりました。明日本家に行ってみます」
「ちょっと待った、泉美だけじゃ門前払いされる可能性が高いだろう?
行くのは夕方にして、俺も一緒に行くよ」
「あ、じゃあ僕も一緒に行く」
泉水と大樹が名乗りを上げる中、母も立ち上がった。
「私も―――」
「いや、母さんは残ってくれ、そんなに大勢で押し掛けるものでもないだろう?家のこともあるし」
「・・・それもそうね。残念だけど待ってるわ」
「じゃあ、明日は早めに帰ってくるよ。
あと問題になるのは・・・寝る場所か」
「それだったら、僕たちが用意したよ」
胸を張って言う大樹を見て、泉水は父と母を見た。
「それでいなかったのか・・・でも、うちに空き部屋なんかあったけ?」
不思議そうに考える泉水だったが、すぐに顔を曇らせた。
「・・・まさか」
「ああ、仏間として使ってるあの部屋だ。広さとしては問題ない、泉美が嫌でなければだが」
それを聞き、泉水は泉美に視線を移した。
泉水の視線に気づいた彼女は、少しうなずいた。
「心配してくれてありがとう、私は大丈夫、嫌じゃない」
「まぁ、泉美が嫌じゃなければ、俺が文句を言う訳にはいかないな。
あと問題は・・・」
左手で口を覆い考え始める泉水を見て、今度は母が口を開いた。
「あとは着るものね、明日一緒に買いに行きましょう?」
「えっ?でも・・・」
「いつまでも制服のままという訳にもいかないし、お金なら心配ないわ。明日、日中は暇だから時間はあるし、ね?」
「うん・・・分かった」
泉美は遠慮気味にではあるが、母の提案にうなずいた。
「あとは何かあったかしら?」
考え込む母を見て他の4人も考え始める。と、大樹がふと口を開いた。
「ねえ?ご飯まだ食べてないよね?」
大樹の言葉で他の全員が時計を見た。
「もうこんな時間!?泉水が帰ってくるまで、夕飯は後回しにしましょうって言ってて、この騒ぎで、すっかり忘れてたわ」
母は慌てて、キッチンへ駆け込んだ。
「トンカツ揚げたんだけど、すっかり冷めちゃったわね。今温め直すわ」
そう言って、母は電子レンジにトンカツを入れようとする。
「ああ、揚げ物は、しわくちゃにしたアルミホイルに乗せてオーブントースターで温めた方がサクッとなって良いよ」
そう言いながら、泉水はキッチンに入りアルミホイルの箱を差し出した。
「はい、あと手伝えることある?」
「あら、ありがとう。
じゃあ、お皿用意してくれる。五枚お願いね」
「OK、一、二、三、四、五と・・・ねぇ、ふと思ったんだけどさ?」
「ん?何?」
母はトンカツを乗せるアルミホイルをしわくちゃにしながら返事をする。
そんな母に泉水は少し困ったトーンで言った。
「トンカツ、四人分しかないよね」
「えっ?・・・あ」
固まる母。
その時、キッチンから漏れ聞こえる声を聴いて、泉美がある提案をした。
「え、えっと、わ、私カップラーメンでいいよ。というか、カップラーメンがいいな!」
棒読み気味で苦笑しながら話す泉美を見て、母は強く否定する。
「だ、ダメよ。年頃の女の子が夕飯にカップラーメンなんて!!」
「で、でも・・・」
「あなたはトンカツで、お父さんがカップラーメンを食べればいいわ」
「え゛っ?」
突然、自分の名前が出たことで、変な声が出てしまう父。
「何?あなた、文句でも?」
「いや、ないない。自分こそ、カップラーメンがいいな」
千切りキャベツを切る包丁をチラつかせながら目をギラっと光らせ、凄みのある声で言う母に、棒読みで応える父。
「・・・ごめんなさい。私のために」
頭を下げる泉美を見て、父はその頭を手でポンポンとした。
「顔を上げなさい。こんなことで、家族同士、頭を下げるものじゃない」
「家族・・・」
「そうだろ?」
「うん!」
笑顔で話しかけてくる父に、泉美も笑顔で応えた。
「それにしても・・・そっか、これからはご飯も一人分増えるんだ~」
泉美は左手で口を覆い、考え始めた。
「ねえ、明日、本家に行くついでに、食費とかを頼むのは、どうかな?
そうすれば食事の用意とかも今のままでいいし、それに部屋用意してもらって悪いけど、寝泊まりするのも頼むのもありかも、あっちから学校に通った方が近いし、いい考えだと思―――」
「ダメよ!!」
「お、お母さん?」
キッチンから駆け寄ってきた母は、泉美の両肩としっかりと掴んで、険しい表情で言ってきた。
「あなたは、ここから学校に行って、ここに帰ってくるの!いいわね!」
「・・・うん、分かった」
険しい声で言う母に、泉美は何かを悟り、素直にうなずいた。
「そう、それならいいの」
その反応を見て母はほっと胸を撫で下ろし微笑むと、キッチンへと戻っていった。
その姿を見ていた泉水は、カップラーメンの包みを剥がし、中身を取り出していた父に近づいて行った。
「ねえ、母さんおかしくない?」
泉水の言葉に、父は小さくため息をついてから泉水に小声で言った。
「・・・飛世だよ」
「飛世姉ぇ?」
泉水も父に合わせ小声で応える。
「大樹と2人でマットレスにシーツを敷いている間、母さんはずっと飛世の写真を見つめていた。
3人並んで撮った最初で最後の写真を」
「もしかして、泉美と飛世姉ぇを重ねているのか?」
「もしかしなくても、確実にそうだろう。
あの子が生きていたら、今年で20歳だ。泉美に亡き娘の姿を重ねていても不思議じゃない」
「母さん・・・」
泉水はキッチンの母へ視線を移した。
母は楽しそうに笑顔でキャベツを千切りにしていた。




