23.美術室で
文化祭が近付くにつれ、時折右手がズキズキと鈍く痛んだ。精神的に圧迫されている気がする。
文化祭まであと三日しか残っていない。それなのに、犯人はまだわかっていなかった。佐川を泳がせていても、残りの一人に確信が持てなかった。警戒しているのか、あれから動きはない。黒幕も大人しくしていた。
真弓の忠告通り学人先輩に注意を向けていたが、変わったところはなかった。何も変化がないまま、時間だけが過ぎていく。聖さんたちは裏で動いているようだったが、僕には知らされていない。知らない方が安全だから、という配慮からだった。今僕にできることは、歌を仕上げることだけだ。
何か起こるとしたら、文化祭前日か当日になるだろうことは予想できた。
固定された右手が煩わしかった。上手く腕が振れない。万全の体調ならばもっと速く、もっと長く走れた。でも、今はもう息が切れてきた。
足手まといになっている。
「由宇、美術室に入るよ」
並んで走る聖さんが教室を指で示した。教室に入ると逃げ場がなくなる。しかし、このまま走っていても捕まることは確定していた。
それなら、聖さんの指示に従う方が良いに決まっている。
油絵特有の臭いが漂う教室で、薄いカーテンが靡く窓側へと寄った。
開かれたドアから、捕獲者が姿を現した。
「ゲームオーバーだ、伊集院」
ニヤリと楽しそうに笑う顔は、本当の彼を表しているようだった。




