↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サンシャーラ神話物語 翡翠の皇女  作者: 宝田旗子
序章 翡翠の皇女
1/8

序文

 ここに、編纂者ラトゥナ・ケートが記す。


 かつて、西世界にレムリアという名の帝国があった。


 その帝国は、広大な版図と、整えられた法と、幾多の街道によって栄えた。

 人々は帝国の平和を疑わず、それが永遠に続くものと信じていた。


 だが、帝国は一夜にして裂けたのではない。

 その崩壊は、皇太子夫妻の死から始まった。


 帝国歴263年。


 時の皇帝には、三人の皇子がいた。


 長子ピエトゥス・ヴィリディア。

 次子オルディウス・ヴィリディア。

 三子アンビリオ・ヴィリディア。


 老帝は、長子ピエトゥスを正式な皇太子に指名していた。

 また、ピエトゥスに万一のことがあれば、その正統な子へ皇位継承権を移すことも定められていた。


 ピエトゥスには、一人の娘がいた。


 翡翠色の髪と瞳を持つ皇女。

 フィエリサ・ヴィリディア。


 皇女が七歳の年、皇太子ピエトゥスは妃とともに、帝都の宮廷で命を落とした。


 公には、賊の襲撃による死とされた。


 事件に関わる記録の多くは、後の混乱の中で散逸し、あるいは廃棄された。


 事件の真相が明らかになるまでには、長い歳月を要した。


 老帝は、残された二人の皇子を疑っていた。

 しかし、決定的な証拠は得られなかった。


 オルディウスは東方軍団と官僚機構を、アンビリオは帝都と近衛軍、大貴族を掌握していた。


 どちらか一方を排除すれば、もう一方が兵を挙げる。

 二人を同時に討つだけの力も、もはや老帝には残されていなかった。


 そこで老帝は、軍務長官プルデリウスの献策を受け、苦肉の共同統治令を出した。


 東方をオルディウスに。

 西方をアンビリオに。


 二人を暫定的な共同皇帝とし、帝国を分けて治めさせる。


 ただし、その体制は永続するものではなかった。


 皇女フィエリサが十七歳となった時、帝国会議を招集し、帝国の統治と皇位継承について改めて審議する。


 老帝が望んだのは、皇女が成人するまで帝国を壊さずに残すことであった。


 だが、老帝の死とともに、その望みは潰えた。


 オルディウスとアンビリオは、それぞれ自らこそ唯一の皇帝であると宣言した。


 東の帝国。

 西の帝国。


 どちらも再統一を掲げ、どちらも相手を僭称者と呼んだ。


 戦は十年に及んでいた。


 街道は寸断され、都市は焼かれ、畑は踏み荒らされた。

 兵は給金を待ち、民は供出に耐え、誰もが終わりの見えぬ戦に疲れ果てていた。


 そして、帝国歴273年。


 皇女フィエリサ・ヴィリディアは、十七歳となった。


 二人の皇帝が恐れていたのは、皇女が生きていることではなかった。

 彼女が十七歳になることだった。


 十七歳となった皇族は、自らの名と皇統印で勅令を発することができる。


 そしてフィエリサには、二人の叔父よりも上位の皇位継承権があった。


 両親を失ってからの十年、彼女は西帝国の「保護」のもとで育てられていた。


 表向きは、帝国に愛される皇女。

 実際には、自らの行き先さえ自由には決められない皇位継承者であった。


 彼女には軍団がなかった。

 玉座もなく、都もなく、自らの旗さえなかった。


 あったのは、フィエリサ・ヴィリディアという名。

 父から継いだ皇位継承権。

 皇統印。


 そして、彼女の傍らに残った、わずかな者たちだけだった。


 裂かれた帝国を、再び一つにしたのは誰か。


 東の皇帝ではない。

 西の皇帝でもない。


 一人の皇女と、彼女のもとへ集った人々である。


 傭兵。

 侍女。

 老軍務官。

 地方の兵。

 商人。


 そして、帳面に名を記された、数え切れぬ人々。


 これより記すのは、軍団も持たぬ一人の皇女が、人々と出会い、町々と結び、裂かれた帝国を再び一つに縫い直すまでの物語である。


 時に、帝国歴273年。


 十年の沈黙を破り、翡翠の皇女が歴史の表舞台へ歩み出す。


 ――編纂者ラトゥナ・ケート 識


十年続く内戦のさなか、捕虜交換の停戦地帯へ赴くフィエリサ。

十七歳となった彼女は、東西二人の皇帝にとって無視できない存在となっていた。

そしてその陰で、皇女と《皇統印》を狙う者たちが動き始める。

次回、第1話「十七歳の皇女」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。