視点 成瀬:異空間
ここにいる六人は、明らかに電車にいた人たちだ。皆、不安そうにしている。ただ不思議と騒ぎ立てる人はいなかった。
「運転手さん。何が起きたか分かりますか?」
自分は運転手に、できるだけ落ち着いた声で問いかけた。何だかわからないが、何かを知っているとしたら、やはり先頭にいた運転手だろう。
「いや、申し訳ない。私にも何がなんだか……。なぜかトンネルを抜け出せないと焦っていたら、目の前に光が現れて、それに包まれた後、気が付いたらここにいたんだよ。何だかわからないが、何か大変なことに巻き込んでしまったようで申し訳ない」
この不思議な現象に、運転手に何か責任があるようには思えないが、申し訳なさそうに頭を下げる。
「いえ、運転手さんのせいじゃないでしょう。そんなに頭を下げないでください」
あまりにも申し訳なさそうにしているので、聞いたこちらが悪いような気がして、慌てて頭を上げるように頼む。
それにしても、再度見渡してみるが、白い床が広がっているばかりで何もない。
「失礼かもしれないが、何かあったとき名前も知らないのでは困るだろうから、簡単な自己紹介をした方がいいと思うのだが、どうだろうか? ずっと『そこの君』とか『運転手さん』とか呼ぶわけにもいかないだろう?」
中年の男性がそう提案する。電車にいたときは冴えない中年男性だと思っていたが、無理やりにしろ笑みを浮かべてそう提案してくる姿に頼もしさを覚える。声も最初の印象と違って張りがある。人に指示を出すことに慣れた人間の特徴がある。年齢や着ているスーツから見て、それなりの地位の人物に違いない。
「まずは言い出しっぺの私からだろうね。私の名前は種山誠一。種山工務店という、ちょっとした会社の社長をやっている。歳も言った方がいいかな。今年で四十五歳になった。普段は車で移動しているんだが、ちょっと色々あってね。電車で家に帰っている途中だったんだ」
ちょっとしたと言うが、種山工務店は地元では大きな会社の部類に入る。子会社もあり、全部含めれば従業員は二百人を超えているはずだ。大都市と違い、グループ会社を含めて二百人というのはそこそこ大きな会社なのだ。歴史があり、堅実な経営をしていると聞いたことがある。道理で人を動かすような雰囲気があるはずだ。と言っても外見は、身長こそ平均くらいだが、白髪がちょっと混じった短髪に、厳つい顔、がっしりとした体格をしており、親方と呼びたい感じである。
「じゃあ次は私ですかね。名前は佐々木敏郎と言います。見た通り、この筑前鉄道の運転手です。もうすぐ六十五歳ですね。定年が延びたんで働いてきましたが、実は今日、この電車で最後だったんですよ」
そう言って寂しそうに笑う。最後の最後にこんな目に遭うなんて、ついていない人だなと思う。帽子を脱いで見えた髪の毛はもう真っ白で、顔には深いしわができている。体形は男性としては普通だ。運転していた時はすっと背筋が伸びていたが、今は若干猫背になって縮こまっているせいか、少し小柄に見える。
「次は自分ですね。私は成瀬拓海。ちょっと前まで、三友総合商社に勤めていました。年齢は二十八、今年で二十九歳になります。私も、まあ色々ありまして、実家に帰省する途中だったんですよ。しばらく地元でぶらぶらするつもりだったんですけどね……」
自分はそう言って苦笑いをし、頭をポリポリとかく。実際にあったことは色々ではなく基本的に一つなのだが、ここで明かす必要はないだろう。
「えっと、じゃあ次は私で。水城玲奈といいます。二十六歳です。大学で初期研修医をやっています。今日は友人と遊びに行きました。友人たちはまだ遊んでますが、私は明日早いので休もうと、途中で友人たちと別れ、帰っていたところでした」
二十代前半だと思ったが、自分と二、三歳しか変わらないことに驚いた。本当に女性の年齢は分からないものだなあと思う。顔立ちが童顔というのもあるのかもしれない。眼鏡をかけており、知的な雰囲気の美人だった。黒髪を肩の少し下あたりまで伸ばしている。どちらかというと図書館の司書という感じで、医者の卵のようには見えない。
「じゃあ、次は俺。名前は高橋壮真だ……じゃなくて、です。修学館高校の二年生です。陸上部所属です。今日は試験前なんで部活休みで、澪、じゃなかった、立花さんと一緒に帰宅途中でした」
ちょっとしどろもどろになりながら自己紹介を済ませる。体格のいい学生だった。自分も身長はそこそこ高いが、それよりさらに十センチほど高い。多分一九〇センチ近いんじゃないだろうか。ひょろりとした高さではなく、横幅も広く、制服の上から筋肉がついているのが分かる。陸上部というより格闘技系が似合いそうな学生だった。しかも修学館は県内でもトップクラスの難関校だ。公立高校で、私学のようにスポーツ推薦なんかはない。頭も相当いいのだろう。
「最後は私ですね。二条院澪と言います。高橋君と同じ修学館高校に通っています。部活は弓道部に所属しています。帰っている理由は高橋君と同じです。もう皆さんお気づきだとは思いますが、高橋君とはお付き合いをしています」
にっこりと笑って最後に自己紹介するのは、いかにも旧家のお嬢様といった感じの女子高校生だ。というか二条院? 自分が思い出す限り、地元というかこの沿線上に二条院という一族は一つしかない。地元二条町の元華族の超大金持ちの家だ。本家は二条町一丁目。番地はない。なぜなら一丁目全部が二条院家の土地だからだ。
「えっと、二条院さんは、あの二条院さんなの?」
自分が驚いて聞くと、
「多分、想像していらっしゃる通りだと思います。この近くだと珍しい苗字ですし」
と、笑顔を崩さず答えてくれる。
我ながら間抜けな質問をしたとは思うが、それで意味は通じたようだ。高橋君以外の四人も驚いている。なんでローカル線なんかに乗っていたの? という感じだ。種山さんだけはちょっと驚き方が違ったが、もしかして顔見知りなのかもしれない。
制服に規定のカバンなので、一見すると普通の女子高生のように見えなくもないが、その他のパーツが違う。例えば腰あたりまで伸ばした髪の輝き。絶対に高いシャンプーやリンスを使っている。失礼な比較かもしれないが、同じ黒髪ながら水城さんとは年齢差でも説明できないほど輝きが違う。なんだか二条院さんの立っている場所だけ、キラキラという感じのエフェクトがかかって見える。その辺のアイドルなんて比べるのもばからしいほどの美少女だ。
自己紹介が終わると、突然パンパカパーンという音が鳴り響く。それと同時に、何もない空中に穴が開いて、そこから十歳くらいの、ツインテールをした赤いゴスロリ服姿の少女が現れる。
「自己紹介が終わりましたかあ。では、改めましてアイカの部屋へようこそ。突然ですが、皆様にはこれから楽しい楽しい生き残りをかけたゲームをやってもらうね。勝ち抜けば元に戻れるよ。もちろん負けたら死んじゃうけどね。あはははっ」
突然現れた少女は、ハイテンションでとんでもないセリフを吐いた。




