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善人同士のデスゲーム  作者: 地水火風


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視点 成瀬:異変

 夕暮れ時、ローカル線の電車が、カタンコトンと単調な音を立てながら海岸沿いを走っていた。

 右側には道路が寄り添い、その向こうに海が広がっている。反対側は山。典型的な田舎の単線路線だ。乗務員は、定年間際と思われる初老の男性運転士が一人だけのワンマン電車。乗客はわずか五人だった。


 ここは一応、日本有数の都市である福岡市の隣の市だ。ベッドタウンにはなっているのだが、市の中心部から抜けると、のどかな風景が広がっている。この区間の乗客は少ないが、市の中心までと終点の唐津市の周辺は客が多くなるため、この手の路線では珍しく三両編成で走っている。


 運転士が背筋を伸ばし、度々指差呼称をしている。初老とは思えない姿勢の良さだった。


 高校生らしきカップルが楽しげに肩を寄せ合っている。上等そうなスーツに身を包んだ厳つい顔の中年男性は、くたびれたような顔をしているように見える。最後の一人は、セミロングの黒髪に青いワンピースの、二十代前半と思われる女性だ。彼女はどこか寂しげだ。


 そして、恐らく一番辛気臭い顔をしているのが、自分自身だった。いや、暗い顔をしていると思った他の二人は普通で、自分だけが辛気臭い顔をしているのかもしれない。


 高校生二人が、くすくすと笑いながら話している。


「若いっていいな」


 そう思ったが、自分もまだ三十歳にはなっていない。世間的には十分若いはずだ。 ただ、ここ三ヶ月の地獄で、一気に十歳は老けた気分だった。

 自分は東京の大手総合商社で働いていた。仕事はきつかったが、やりがいもあった。しかし三ヶ月前、電車の中で痴漢をしたという濡れ衣を着せられた。


 完全な冤罪だった。疑いが晴れるまで約一ヶ月間拘留され、会社は辞めざるをえなくなった。書類の上では依願退職だが、クビに近い。やましいことをした覚えはないが、自分だって普通の人間だ。人に知られたくないことの一つや二つはある。それが捜査の名のもと同僚に知らされていた。部署も移動になり、とても仕事を続けられる雰囲気ではなかった。


 付き合っていた彼女にも振られた。正直、彼女は自分をどんな時でも愛してくれると思っていたが、そう思っていたのは自分だけだったようだ。あっけない別れだった。別れ際に、「私にも世間体ってものがあるの」と言われた。世間体……冤罪だというのに世間体はそんなにも悪くなるものなのか……


 せめてもの救いは、相手の女がこういった事件の常習犯だったことが発覚し、逆に逮捕されたことだけだった。もっと早く捕まっていればと思うが、今さら仕方のないことだ。自分を標的にした理由はカモにしやすそうだったから……


 やり切れない。真面目に一生懸命努力して、生きてきたつもりだった。それが全部、無駄になったと感じた。


 幸い、両親は無罪を信じてくれた。「帰ってきて、しばらくゆっくり休め」と言ってくれた言葉に甘え、今は帰省の途中だ。


 仕事が忙しくて給料も良かったおかげで、それなりの貯金はある。二、三年は大丈夫なはずだ。


 当分、何もしたくない。一時期は自殺も考えたが、死ぬことすら面倒くさかった……


 電車がトンネルに入った。東京の地下鉄とは違い、トンネル内は薄暗い。窓から漏れるわずかな光が、古びた灰色のコンクリート壁を照らすだけだ。


 ゴー、という低く重い音が車内に響き渡る。このトンネルを抜ければ、あと五分ほどで地元の駅に着く。五年ぶりの帰省だ。懐かしい。


「あいつら、どうしてるかな……」


 友人たちの顔が浮かぶ。仕事が忙しくてほとんど連絡も取っていなかったのに、冤罪の件では両親とともに奔走してくれたと聞いている。逆の立場なら、自分はあそこまで動けただろうか。そう思うと、胸が熱くなった。感謝しかない。


 ……おかしい。


 ゴー、という音が、まだ続いている。


 このトンネルは山が海岸まで突き出た部分を短くくり抜いただけのものだ。本来なら出口まで十秒とかからないはずなのに、もう五分以上経っている。そう思っていると前方に明るい光が見えた。


 どうやら気のせいだったらしい。時間は楽しい時はあっという間に過ぎるが、逆はこんなにも長く感じるのか、やはり相当落ち込んでいるんだな、と自嘲気味に思う。


 久しぶりに友人たちと朝まで飲んでもいいかもしれない。学生の頃のように羽目を外して、記憶があやふやになるまで。そう考えている間にも、光はどんどん大きくなり、眩しさを増していく。


 ……やっぱりおかしい。


 今は夕暮れだ。いくらトンネルの中が暗くても、外がこんなに白く輝くはずがない。周りを見渡すと、他の四人も異変に気づいたようだった。


 高校生のカップルが不安げに顔を見合わせ、中年男性は眉を寄せ、青いワンピースの女性は唇を噛んでいる。


 光が、さらに近づいてくる。もう、まともに目を開けていられない。思わず両手で顔を覆うが、それでも視界は真っ白に塗りつぶされた。


 光が、収まった。


 目を開けると、そこは何もない真っ白な空間だった。自分を含め、六人の男女がただ立っている。壁も天井もない。ただ真っ白な床だけが広がっている。


「……ここは、どこだ?」


 誰かの小さな呟きが、白い空間に溶けていく。


 俺はまだ、理解できていなかった。これが、過酷なゲームの始まりだということを。

 始めまして、もしくはお久しぶりです。私の作品を過去に読んでくださっている方はだいたい想像できるかと思いますが、基本的にスロースタートです。デスゲームですので一応テンポは良くしたつもりですが、その分心理描写が多いので結果的におんなじぐらいかなという感じです。できれば10話ぐらいまで読んでいただけるとありがたいです。できれば最後までお付き合いしていただけることを願います。

 後、いつものお願いなのですがブックマークやポイントなどで応援していただけると作者のモチベーションにつながります。よろしくお願いします。

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