49.石井光一の中の人
そもそもの始まりは地球歴AD1785年、宇宙人による地球観光がオーバーツーリズム気味になり始めた頃から。
頻繁に過去へ時間遡行をすることによりパラレルワールドが多発しこれを解消しようと東域宇宙和平維持連盟が結成される。
そしてアステロイドベルトに宇宙人のための地球防衛基地を建造した。
基地の運営に落ち着きが見え始めると以前より地球を食い物にしている人類は淘汰すべきと唱える人類排斥派、絶滅危惧種として他の人工惑星に移住を提案する人類保護派、人類と対等な関係を築くことを主張する人類擁護派の争いが目に見えて活性化していく。
人類保護派は選抜された地球人の子供を基地へ召喚し宇宙人としての教育を行い始める。
AD1800年、ルナ・ターミナルオープンセレモニーに参加していたマーロ星ヘデロ大王の一人娘サロメは冥王星に別荘の建設を始めるが5年も経たないうちに資金不足に陥り支援者を求めて地球防衛基地へ行く。
1810年、サロメはジベルと出会いお互いが一目惚れして恋に落ちる。
1820年、ジベルとサロメで反政府組織レッドフラックスを立ち上げ基地内で活動を始めた。
1865年、カシオペア戦艦シェダル艦長と懇意になり北方星域カフ星からの資金援助が得られ冥王星サロメの居城建設が進む。
1875年、酒場で出会ったイノマンの要請を聞き入れ技術協力者として冥王星へ連れて行く。
1880年、冥王星で建造されたサロメの居城は北方星域連盟の思惑が働き反政府組織レッドフラックス冥王星基地と呼ばれる。
そうなると東域宇宙和平維持連盟が黙っている訳がないと危惧したイノマンが バーナード星への移住を提案した。
1883年イノマンを名乗り続ける銭太郎とポンドとリラがサロメ達と共にバーナード星へ行く。
十太郎、ドール、ペニーと北方星域混合艦隊乗員6千人は施設維持のため冥王星に残留する。
1894年、冥王星レッドフラックス基地はサジタリウス艦隊の攻撃を受けスケートリンクの様な更地になってしまう。
1905年、東域宇宙和平維持連盟が新人訓練を兼ねて冥王星調査隊を送り出す。
1922年、十太郎、ドール、ポンドは調査隊に紛れ込んで地球防衛基地へ向かう。
ペニーは研究所に残っている。
それから3年後、輸送艦キャメロットは調査隊の一員となったドールとポンドと石井光一の記憶と幽体を移したクローンの中に同居したままの十太郎を乗せ宇宙人のための地球防衛基地に到着しようとしていた。
「とうとう尻尾を出さなかったな」
医療ベッドで寝ている石井光一を見下ろしながらハービー艦長が後ろに控えてるノリス副官の方へ首を回して同意を求めた。
「あれからずっと寝続けてますしね、それと彼はヒューマノイドタイプ元々尻尾はありません」
「尻尾の有無に拘わらず石井光一をクローン体に移したのが誰なのか、またその目的が解明されるまでは安心できないな」
「彼が目覚めてくれないことには質問もできないですしね」
「そうだなこれを眠り姫だとでも言って引き渡すか」
「言うのは簡単でしょう、しかし変態無能のレッテルが貼られると思いますよ」
「例え間違いでもそういう評価をされてしまうと回復できないのが今のご時世だから嫌だな」
「どうすれば目覚めてくれるのでしょうね」
ハービー艦長とノスリ副官はどうしようもないと言いたげに2人揃って首を振る。
2人が揃って溜め息を吐こうとしていたところで扉が開いた。
「だ、誰だ、なに用か」
「表に使用中の札が掛かってないので入りました。雑用係のポンドです」
(使用中の札があったとは知らなかったな雑用係も最近できた部署だったかな)
ハービー艦長は不思議に思うがそこまで止まり。
雑用係とポンドとドールの名前はペニーが冥王星でキャメロットメインコンピューターに鼻薬を嗅がせて細工したデーター。
ポンドとドールは艦長と副長が揃って眠り続けてる石井光一に会いに来たこのタイミングを逃す訳にはいかなかった。
「ハービー艦長に提案したいことがあるのですが宜しいでしょうか」
時間があまりないので焦り気味に言う。
「提案だと! ふざけるな」
ノスリ副長には余裕がなかった。
「まあいい聞くだけなら聞こう進言を許可する」
ハービー艦長は何でもいいから今の状況を脱するヒントになるかも知れないと一縷の希望を抱く。
「この基地に居る私の知人ならこの眠り姫を目覚めさせることができるのではないかと思います」
「ほう、王子様を連れてきてキスでもさせる気なのかね」
「いいえ連れてくるのは呪い師です。キスをするかどうかは私には分かりません」
至って真面目な表情をして言う。
「呪い師だと?!」
ハービー艦長とノスリ副長は顔を見合せダークサイドに沈んでいく思いをした。
ポンドによって招き入れられた呪い師は一太郎を名乗り呪術道具と言って摩訶不思議な電子機器と等身大の人形を持ち込んでいる。
そして眠ったままの石井光一に得たいの知れない装置が次々と一太郎の指図のもとポンドとドールによって取り付けられていく。
本当は一太郎が連れてきた助手がいたのだけどハービー艦長が乗艦を許可しなかったのでこうなった。
手品は種明かしをしないからこそ面白いのだからとか何とか言って一太郎に説明を省かれたのだけど『現在の石井光一君は均衡された二重人格状態が膠着して目覚められない状態に陥っているのだから競合している方の人格をこの人形に移すことによって目覚めさせる』と一人言みたいに言ってる。
どんな場合でも紙一重向こう側の人たちは自分の主張を言わないことには気が済まないらしい。
今はその作業を2人の責任者が黙って見守っている。
(呪術とか言うからゴマ炊きでも始めるのではないかと心配したがこれならまあ許容範囲かな)
最悪の顔色をしていた2人の表情が時間の経過と共に和らいでゆく。
「準備が整いましたので始めても宜しいでしょうか」
一太郎はじゃらじゃらとした……本人は呪符と言ってるのだがどう見ても安物のアクセサリーにしか見えないガラクタをフード付き白衣の生地も見えないほどにぶら下げている。
だから少しでも動くと衣擦れの音なんて優しくない雑音を発した。
「今なんて言ったんだ」
ハービー艦長が聞き返す。
「始めてもいいですか」
オカルトマニア宜しく両手を上で大きく広げ大声で言う。
当然ガラクタが発する騒音も大きくなったがなんとか聞き取れたみたいで両手を上にあげて丸を作る。
それを合図と見て取った一太郎が石井光一と持ち込んだ人形との間に立ち体を揺らす。
「うんたらかんたら、たなからぼたもち」
呪文めいた言葉も唱える。
そしてドライアイスのスモークによる演出効果。
視界が遮られるとドールが石井光一の耳元で大声を発した。
「十太郎兄さん聞こえますか、今から兄さんの幽体と記憶を新しいクローンに移しますので備えて下さい、いいですね」
言い終わると装置の前にいるポンドに合図する。
床上から立ち上っているスモーク内で稲妻が数度発生するとスモークが薄くなりその中で起き上がろうとしてる人の姿が見えた。
「石井君か!」
ハービー艦長が驚きと期待を混合させた様な声を出す。
「はい出席番号1番訓練生の石井光一です」
まだ思考が不安定みたい。
「良かったぁ~、目覚めてくれたよ」
ハービー艦長も安堵のあまり思考が低下したよう。
「一太郎君とか言ったか、ありがとう本当にありがとう助かった約束のお礼は後日ポンド君を通してで良かったな」
「はい、私としてはこの石井光一君の中に居た二重人格の幽体とここまでの交通費だけ頂ければ満足です」
「それ以上のものを支払うから安心したまえ、それよりその幽体とか言ったかなまさかそれは起き上がってここの秘密をべらべら喋ったりしないだろうな」
「それは私が保証します、何しろこの一太郎は私とポンドの兄なのですからね」
「それはまた初耳なことだ最初から言ってくれれば良かったのではないか」
「身内に変態がいると分かったらここの隊員にはなれませんだったでしょうね、できるだけ伏せていたんですよ表向きは飲食店経営者ですから内緒にしてもらえますか」
「わかったそうしよう、今後も石井光一君のことで助力が必要になるかもしれないしな」
「では帰らせてもらっても宜しいでしょうか」
ドールがハービー艦長と話をしてる間にポンドと一太郎が片付けを済ませていた。
ノスリ副長は再び眠りについた石井光一を見守っている。
(また3年間寝るんじゃないだろうな)
「大丈夫ですよ3時間位で目覚めます。その時はさっき以上に意識がハッキリしてるはずですから今までの経緯を改めて教えて上げて下さい」
ノスリ副長の不安げな表情を読み取った一太郎が安心させるように言い十太郎が乗り移った新たなクローンを乗せたストレッチャーを引っ張るポンドと一緒に部屋を出ていく。
それを見送るドールは後は目の前に居る輸送艦キャメロットの最高責任者2人に軽く掛けた暗示を解くだけだなと安堵の吐息をもらした。
1925年、地球防衛基地でイノマンオリジナルが立ち上げたフリープラネットに9人のクローンきょうだい達が揃う。
1935年、石井光一は行動調査チームへ仮配属された。
1985年、石井光一は輸送艦キャメロットをドロンパ号と改名してキャプテンになる。
1990年、石井光一はチルドレンサーチャーを任命され地上勤務を行う。
1995年、イノマンオリジナルは考えた。
(猪野万太郎はチルドレンサーチャーによって記憶と幽体だけで宇宙へ連れ出されそれからは自分のクローン作りに没頭した。新しく作ったクローンに記憶と幽体を移し続けていけば何百年何千年と未来永劫生きる事ができるだろう、果たしてそれが本当に幸せと言えるのだろうか……地球からは実態を伴ったまま招待された子供も居る、その子らは短命という宿命からは逃れないけど生き生きとして輝いて見える、私もああいう生き方がしてみたい……)
答えは最初から分かっていた。
地球人として生まれそして生きる。
新たな人生といっても白紙から始めるのでは面白味も何もない。
だから新しく生まれる赤ん坊の中に潜みそこから世界を感じようと考える。
1996年8月イノマンオリジナルは鈴木四郎を名乗って羽田空港到着ロビーに立っていた。




