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49.石井光一の中の人

 そもそもの始まりはAD1785年、宇宙人による地球観光がオーバーツーリズム気味になり過去への時間遡行を乱発することによるパラレルワールド世界が満ちていく中、これを正常化しようと東域宇宙和平維持連盟を結成してアステロイドベルトに宇宙人のための地球防衛基地を建造したところから。

 基地の運営に落ち着きが見え始めると以前より地球を食い物にしている人類は淘汰すべきと唱える人類排斥派、絶滅危惧種として他の人工惑星に移住を提案する人類保護派、人類と対等な関係を築くことを主張する人類擁護派の争いが目に見えて活性化していった。

 人類保護派は選抜された地球人の子供達を基地へ召喚して教育を行うという既成事実を作っていく。

 地球歴AD1800年にマーロ星ヘデロ大王の一人娘サロメは太陽系観光に来ていたのだけど当時まだ誰も手を付けていない太陽系最外殻を回る氷の惑星に別荘を建てようと思い実行に移す。

 しかし5年も経たないうちに資金と技術力不足に陥り支援者を求めて地球防衛基地へ行く。

 そこで出奔したジベルと出会い一目惚れをして恋に落ち2人で反政府組織レッドフラックスを立ち上げる。

 その後カシオペア艦隊のシェダル艦長と懇意になり北方星域連盟から資金援助をして貰える目処が立つ。

 またその頃酒場で一回だけ会ったイノマンが基地から脱出したいと助けを求めてきたのでそのまま冥王星へ連れていき技術協力者となる。

 冥王星で建造されたサロメの別荘はサロメの居城と名を変え更にはレッドフラックスの本拠地となっていく。

 そうなると東域宇宙和平維持連盟が黙って見ている筈がないと危惧したイノマンが バーナード星への移住を提案した。

 一番近い恒星のケンタウルス座アルファ星は既に地球人の移民星として連盟に属しているアイン星人によって開発されていたから。

 バーナード星へはイノマンを名乗り続ける羽目になった銭太郎とポンドとリラがサロメに同行して行く。

 十太郎、ドール、ペニーの3人は残された冥王星施設の維持のため残留するのだけどサジタリウス艦隊の攻撃を受け地表はスケートリンクの様な更地になってしまう。

 それで連盟のお偉方は冥王星を忘れることができ十太郎達は地下研究所で安穏と過ごす日々を送れた。

 それから21年も過ぎた頃になって連盟は冥王星へ向け調査隊を送り出してる。

 イノマンがケンタウルス星域で逮捕されたと知らせを受けたから。

 十太郎はこの機を利用して調査隊に紛れ込み基地へ戻ることにした。

 ペニーは研究所に残って施設を守る。

 それから3年、輸送艦キャメロットは調査隊の一員となったドールとポンド、また石井光一の記憶と幽体を移した新たなクローンの中に同居したままの十太郎を乗せ宇宙人のための地球防衛基地に到着しようとしていた。

「とうとう尻尾を出さなかったな」

 医療ベッドで寝ている石井光一を見下ろしながらハービー艦長が後ろに控えてるノリス副官の方へ首を回して同意を求めた。

「あれから寝続けてますしね、それに彼はヒューマノイドタイプ元々尻尾はありませんよ、何の収穫もなしと言うのは残念なことですね」

「そんな言葉尻を取らなくても……彼は死んだ筈なのになぜ生きているのだろうと言うんだ」

「石井光一をクローン体に移したのが誰なのかまたその目的が解明されるまでは安心できませんね」

「彼が目覚めてくれないことには質問もできない」

「仕方がないということでこれをこのままで引き渡しますか」

「そうなんだよなー『眠り姫みたいなものです』と報告できると思うか」

「言うのは簡単でしょう、だけど変態の能無しとレッテルが貼られると思いますよ」

「例え間違いでもそういう評価をされてしまうと回復できないのが今のご時世だから嫌だな」

「電気ショックでも効果がなかったのにあと何をすればいいのでしょうかね」

 ハービー艦長とノスリ副官はどうしようもないと言いたげに2人揃って首を振る。

 次に2人が揃って溜め息を吐こうとしていたところで扉が開いた。

「だ、誰だ、なに用か」

「表に使用中の札が掛かってないので入りました。雑用係のポンドです」

(使用中の札があったとは知らなかったな雑用係も最近できた部署だったかな)

 ハービー艦長は不思議に思うがそこまで止まり。

 雑用係とポンドとドールの名前はペニーが冥王星でキャメロットメインコンピューターに鼻薬を嗅がせて細工したデーター。

 その時、艦内に居た全ての人達には集団洗脳を施している。

 ポンドとドールに取って艦長と副長が揃って眠り続けてる石井光一に会いに来たこのタイミングを逃す訳にはいかなかった。

「ハービー艦長に提案したいことがあるのですが宜しいでしょうか」

 時間があまり無いので直球勝負に出る。

「提案だと!ふざけるな」

 ノスリ副長には余裕がなかった。

「まあいい聞くだけなら聞こう進言を許可する」

 ハービー艦長は何でもいいから今の状況を脱するヒントになるかも知れないと一縷の希望を抱く。

「この基地に居る私の知人ならこの眠り姫を目覚めさせることができるのではないかと思います」

「ほう、王子様を連れてきてキスでもさせる気なのかね」

「いいえ連れてくるのは呪い師です。キスをするかどうかは私には分かりません」

 至って真面目な表情をして言う。

「呪い師だと?!」

 ハービー艦長とノスリ副長は顔を見合せダークサイドに沈んでいく思いをした。

 ポンドによって招き入れられた呪い師は一太郎と名乗り呪術道具といって見たことがない電子機器と等身大の人形を持ち込んでいた。

 そして眠り姫ではないのだけど目を覚まさない石井光一に得たいの知れない装置が次々と一太郎の指図のもとポンドとドールによって取り付けられていく。

 本当は一太郎が連れてきた助手がいたのだけどハービー艦長が乗艦を許可しなかったのでこうなった。

 手品は種明かしをしないからこそ面白いのだからとか何とか言って一太郎に説明を省かれたのだけど『現在の石井光一君は均衡された二重人格状態が膠着して目覚められない状態に陥っているのだから競合している方の人格をこの人形に移すことによって目覚めさせる』と一人言みたいにして言ってる。

 どんな場合でも紙一重向こう側の人たちは自分の主張を言わないことには気が済まないらしい。

 今はその作業を2人の責任者が黙って見守っている。

(呪術とか言うからゴマ炊きでも始めるのではないかと心配したがこれならまあ許容範囲かな)

 最悪の顔色をしていた2人の表情が時間の経過と共に和らいでゆく。

「準備が整いましたので始めても宜しいでしょうか」

 一太郎はじゃらじゃらとした得体の知れない……本人は呪符と言ってるのだがどう見ても安物のアクセサリーにしか見えないガラクタをフード付き白衣の生地も見えない程ぶら下げている。

 だから少しでも動くと衣擦れの音なんて優しくない騒音を発した。

「今なんて言ったんだ」

 ハービー艦長が聞き返す。

「始めてもいいですか」

 オカルトマニア宜しく両手を上で大きく広げ言う。

 当然ガラクタが発する騒音も大きくなったが難とか聞き取れたみたいで両手を上にあげて丸を作る。

 ブロックサインでもって返事した。

 それを合図と見て取った一太郎が石井光一と持ち込んだ人形との間に立ち体を揺らす。

「うんたらかんたら、あめんぼあかいなりんごあめ」

 騒音の中で呪文めいた言葉も唱える。

 そしてドライアイスのスモークによる演出効果。

 視界が遮られるとドールが石井光一の耳元で大声を発した。

「十太郎兄さん聞こえますか、今から兄さんの幽体と記憶を新しいクローンに移しますので備えて下さい、いいですね」

 言い終わると装置の前にいるポンドに合図する。

 床上から立ち上っているスモーク内で稲妻が数度発生するとスモークが薄くなりその中で起き上がろうとしてる人の姿が見えた。

「石井君か!」

 ハービー艦長が驚きと期待を混合させた様な声を出す。

「はい出席番号1番訓練生の石井光一です」

 まだ思考が不安定みたい。

「良かったぁ~、目覚めてくれたよ」

 ハービー艦長も安堵のあまり思考が低下したよう。

「一太郎君とか言ったか、ありがとう本当にありがとう助かった、約束のお礼は後日ポンド君を通してで良かったな」

「はい、私としてはこの石井光一君の中に居た二重人格の幽体とここまでの交通費だけ頂ければ満足です」

「それ以上のものを支払うから安心したまえ、それよりその幽体とか言ったかなまさかそれは起き上がってここの秘密をべらべら喋ったりしないだろうな」

「それは私達が保証します。何しろこの一太郎は私とポンドの兄なのですからね」

「それはまた初耳なことだ最初から言ってくれれば良かったのではないか」

「身内に変態がいると分かったらここの隊員にはなれませんだったでしょうね、できるだけ伏せていたんですよ表向きは飲食店経営者ですから、内緒にしてもらえますか」

「わかったそうしよう今後も石井光一君のことで助力が必要になるかもしれないしな」

「では帰らせてもらっても宜しいでしょうか」

 ドールがハービー艦長と話をしてる間にポンドと一太郎が片付けを済ませていた。

 ノスリ副長は再び眠りについた石井光一を見守っている。

(また3年間寝るんじゃないだろうな)

「大丈夫ですよ3時間位で目覚めます。その時はさっき以上に意識がハッキリしてるはずですから今までの経緯を改めて教えて上げて下さい」

 ノスリ副長の不安げな表情を読み取った一太郎が安心させるように言い十太郎が乗り移った新たなクローンを乗せたストレッチャーを引っ張るポンドと一緒に部屋を出ていく。

 それを見送るドールは後は目の前に居る輸送艦キャメロットの最高責任者2人に掛けた暗示を解くだけだなと安堵の吐息をもらした。

そうして地球防衛基地にイノマンオリジナルと9人のクローン達が勢揃いする。

 時が経つとともにイノマンは考えた。

(猪野万太郎は京都の池田屋で死んだ、チルドレンサーチャーによって幽体と記憶を腹話術人形に押し込まれて宇宙へ連れ出されるまでは、そこで女性体のバイオロイドに入れられたけど本当の自分に戻りたくて人形にこびり付いていたDNAを元に自分のクローン作成に没頭した、新しく作ったクローンに記憶と幽体を移し続けていけば何百年何千年と未来永劫生きる事ができると信じていた、果たしてそれが本当の幸せなのだろうか……地球からは実態を伴ったまま招待された子供も居る、その子らは短命という宿命からは逃れないけど生き生きとして輝いて見える、どうすれば私もああいう生き方ができるのだろうか……)

 答えは最初から分かっていた。

 だからそれを実行に移す。

 地球へ行き地球人として生まれそして生きる。

 しかし記憶と幽体を持ったままでは新たな人生を生きる事にはならないことに気づく。

 だからイノマンのDNAを受け継ぐ赤ん坊の中に潜みそこから世界を感じることにした。

 最悪の場合は成長した子供と融合して二重人格者となってしまうがそれも甘んじて受け入れよう。

 順調に進み始めたその計画は鈴木愛鈴、アイリーンが宇宙へ出てゆくことで大きく変わることになる。


挿絵(By みてみん)

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