第0話 始まり。《前編》
新連載です!!よろしくお願いいたします!!
遥か昔、この世界が種族同士の戦争に覆われていた頃の話だ。
人族、魔族、獣人族、竜族、精霊族――様々な種族がそれぞれの国を築きながらも、互いに争い続けていた。国と国が争うのは当たり前で、種族同士の戦争など珍しくもない。敗れた者は捕らえられ、奴隷として扱われることもあった。
弱者に慈悲などなく、力こそがすべて。それがこの世界の常識だった。そして、その争いの中心にいたのが人族と魔族だった。
神を信仰し秩序を掲げる人族と、圧倒的な魔力と力を持つ戦闘種族である魔族。両者は長い歴史の中で幾度となく戦争を繰り返してきた。
人族は魔族に対抗するため、神の加護を受けた存在を生み出す。人族の希望として崇められる存在――聖女。
そして魔族にもまた、すべての魔族を統べる絶対的な存在がいた。魔族の王――魔王。
本来ならば、この二人が出会うことなど決してない。人族にとって魔族は討つべき敵であり、魔族にとって人族は滅ぼすべき敵だったからだ。
だが、そんな二人が出会ってしまった。
人族を導く聖女と、魔族を統べる魔王。敵対する種族の頂点に立つ者同士の出会いは、本来ならば戦いでどちらかが死んで終わるはずだった。
しかし運命は皮肉なものだ。戦場で出会った二人は、本来ならば剣を交えるはずだった。
だが、殺し合うはずのその瞬間、二人は互いの瞳を見てしまった。そしてその瞬間に理解してしまったのだ。自分と同じ孤独を抱えた存在が、目の前にいるのだと。
その時にはもう遅かった。二人は互いを敵として見ることが出来なくなっていた。そして気付いた時には、剣を振るうことが出来なくなっていた。
人族と魔族。決して結ばれてはならない禁断の恋。それは、この世界で決して起きてはならない出来事だった。それでも二人は想いを止めることができなかった。
そして――その禁断の恋の果てに、一人の子供が生まれる。人族の血と魔族の血、その両方の血を受け継いだ存在‥‥その名は――ディアブロ。
ディアブロはこの世に生を受けた。だが、その出生は魔族・人族から認められるはずもなく、父と母は裏切り者として一家全員が追われる身となった。
そして逃げる手も失い、父と母はディアブロを守る為に必死に戦った。しかし多勢に無勢だった。人族も魔族も関係ない。ただ裏切り者を許さないという意思だけが、その場にいた者たちを動かしていた。
剣が振り下ろされ、魔法が放たれ、斧が叩きつけられる。父の体は幾度も貫かれ、母の体は魔法によって焼かれた。それでも二人は倒れなかった。最後までディアブロを背に庇い続けていたからだ。
だが、それも長くは続かなかった。
次の瞬間――剣、魔法、斧。ありとあらゆる攻撃が二人の体に突き刺さり、血が飛び散り、肉が裂け、やがて二人の体はその場に崩れ落ちた。
その人生に幕を閉じた。
その場に残ったのは父と母が残した‥‥最後の希望だけだった。
生まれて間もないただの赤ん坊には、この事態に術はない。とここにいる全員が確信していたが、それがいけなかった。ディアブロをただ普通の赤ん坊だと考えてしまった。
魔族の王である最強の魔王を父に持ち、人族の希望と呼ばれる聖女を母に持つ子供が普通なわけがない。
ディアブロは言葉も、自分で動くことも出来ない赤子ではあったが、その身に備わっている力は、ありとあらゆる存在を破壊する力だ。なら、後はそれをただ振るえばいいだけだ。
言葉も、手、足、目も要らない。ただ自分の中にある物を全て吐き出せばいいと、ディアブロは思いのままにその力を吐き出した。
その瞬間――世界が静まり返った。
泣き声も、叫びもない。ただディアブロの体の奥から溢れ出した何かが、周囲の全てを飲み込んでいく。
それは言葉では表すことの出来ない力だった。ただただ圧倒的な破壊の塊。だが、その周辺にいた全ての生物は死滅した。土、植物、動物、人間、魔族――力に触れた者は例外なく命を奪われた。
そして、それら全てから奪った生命のエネルギーは”ディアブロ”へと流れ込んでいく。先程まで声も出せないほどの赤子であったはずの存在は、その力を吸い上げるようにして急速に成長し、やがて子供ほどの姿へと変わっていた。
まさに、怪物であった。その小さな怪物が、やがて世界を壊すことになるなど――まだ誰も知らなかった。




