二章 〈アカデミー〉 ②
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二人は自宅に到着し、ビアスが玄関ドアの鍵を開ける。
すると、誰も居ないはずの室内から明かりが漏れ、
「遅かったな」
ショコラが台所に立っていた。
クリーム色の上品なセーターに、下はタイツとデニムのショートパンツの組み合わせ。
その服装の上から、可愛いひよこが書かれたデザインのエプロンを着用している。
アーニャは目を丸くし、素っ頓狂な声で、
「な、何でシンクレアがここにいるのよ!」
「何でって、ビアスに夕食を振る舞うために決まっているだろう」
「どうやって入ったの?」
「普通に玄関から」
「今朝、鍵をかけ忘れてたってこと?」
「いや、ちゃんと施錠されていたぞ?」
「じゃあ、どうやって入ったのよ」
これでは堂々巡りだ。
「だから、普通に玄関から鍵を使って入ったのだ。それ以外に方法があるのか?」
「鍵を使ってって……何でシンクレアがこの家の鍵を持っているのよ!」
事情があってアーニャの方が先に帰る場合を除いて、基本的にこの家の鍵はビアスが持っている。
アーニャはビアスを見やり、
「今日学校で鍵をシンクレアに渡したの?」
「いや。ほら、これ」
ビアスはスラックスのポケットから、一本の鍵を取り出した。
この家の鍵だ。
「どういうこと?」
混乱するアーニャに、ショコラはもじもじと照れながら、ビアスが持っている鍵と同じ鍵を、紅潮した顔の前でぶら下げた。
「合鍵だ」
アーニャが大きく息を吸い込み、
「どういうことよおおおおおおおおおおおおおおおお――っ!」
大声で叫んだ。
アーニャはもうパニック状態だ。
「ふざけないでよ! 何? 何が起きてるの? 何なの、この敗北感!」
ビアスは制服を脱ぎ始めながら、
「そんなに騒ぐなって。ご近所迷惑だろ」
「何でシンクレアが合鍵持ってるのよ!」
「俺が一人暮らしするって知って、何かあったときのために作らせてほしいって言ったから。普通に夕食作りに来るとは思わなかったから、俺もちょっと驚いてるよ」
ショコラはほのかに恥ずかしそうに目を伏せ、それを誤魔化すように、
「アーニャこそどうしてここに? 親類関係だから、たまに食事したりするのか?」
ビアスはアーニャに、二人の関係のことは内緒にしてと言われたのを思い出していた。
ここは一芝居打たなければならない。
「そうなんだ。外が多いんだけど、今日はたまたまウチで食べることになったんだ」
そう弁明しようとしたとき、アーニャがそれを遮るように、
「私、ここに住んでるんだから!」
ショコラが愕然とした表情になり、
「な、な、な、何だってええええええええええええええええええええええ――っ!」
あれ、おかしいなと首を傾げるビアスに、ショコラが詰め寄る。
「ビアス、本当なのかっ?」
アーニャが内緒にしてほしいと言ったのに、自分から暴露してしまった。
隷属契約と二人の関係性については別だが、同居に関してはもう隠す意味がない。
元より、アーニャの私物が散見するこの部屋で嘘を突き通すのは無理だったのかも知れない。
「本当だよ。一緒に住んでる」
ショコラがぷるぷると震え出した。
「いくら親戚だからって、年頃の男女が一つ屋根の下で暮らすなど破廉恥だぞ!」
「女の一人暮らしは危険だろ。シンクレアなんて、男の俺が心配だからって合鍵作ったろ」
「それはそうかも知れないが……」
「だいたい、部屋に入って気づかなかったのか。ここの住人が増えてることに。洗面所とかアーニャの分のコップと歯ブラシがあっただろ」
「まさかお揃いなのか?」
「いや、何で揃えなきゃいけないんだよ」
乱心するショコラに向かって、アーニャは得意気な顔を見せ、
「良かったわね、合鍵持ってて。私はここに住んでるけど」
「妹みたいな存在だと思って侮っていた。敵の戦力を見誤るとは、私もまだまだだ……」
睨み合うアーニャとショコラ。
「ショコラ!」
「その名で呼ぶな!」
「まぁまぁ、二人とも落ち着けよ」
ビアスが仲裁に入ると、
「アンタは黙ってて!」
「ビアスは黙っていろ!」
二人の声が重なった。
その後ビアスは殺伐としたテーブルで、無言の食事をした。




