第36話 コンシリウムの本領
オーバーテクノロジーとトキとユウヒを書きたいがための、一話。
「やられた…!」
コンシリウムに、ソウイチの姿は既になかった。
ここにいれば、レリクスは手を出せないだろうとの考えが甘かったのだ。
そして、レリクスに縁のあるシン、リッカに意識を向かされた。
後手後手だ…と、ユウヒはほぞを噛む。
何かを振り払うように顔を振ると、ユウヒはコンシリウムを飛び出して行こうとした。が、それを腕を掴んで止めた者がいた。
ホウジュンだ。
「待て!どうする気だ!」
らしくない態度。言動。
感情のままに動こうとしているユウヒなんて、見たことがなかった。
掴んだのは咄嗟だった。
そして、その腕は、振り払われた。
再度捕まえようとホウジュンは動くが、想像とは違い、ドアの前でユウヒが止まる。
「俺だけじゃ…足りないんだ…」
だから…!そう言って扉を開けようとした時だった。
コツン。と、外から一度、扉が叩かれた。
「ユウヒ…」
声の主は、トキだった。
ユウヒが、今…求めていた人物。
彼は、扉に手を当てた。そして…
「アテンド:トキ!」
ルクスがコンシリウムにルクス以外を招くコードを口にすると、呼応するように、扉が薄くゆっくりと明滅した。
トキがゆっくりとした動作で、扉に同じように手を当てる。
「…トラスト」
招かれた側も答えるようにコードを返すと、扉はゆっくりと薄くなり、そして静かに溶けるように消えた。
視線がぶつかる2人。
泣きそうなユウヒが、絞り出すように、叫ぶように、訴えるように、言葉を吐き出す。
「オーソライズ!…全部やるから!探してくれ!」
「ああ…」
一言だけ返し、すれ違いざまにユウヒの肩を、軽く叩いた。
オーソライズ…それは、コンシリウム機能の全ての使用を許可したコマンド。
余程のことがないと付与されない、最高特権。
コンシリウムを我が物顔で歩くトキの口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。
呆けたホウジュンを横目に、トキはコンシリウムの中枢に入り、ユウヒもそれに続く。
中心にある円卓にたどり着くと、ユウヒは円卓に手を置き、目を瞑ると、一度大きく息を吸った。
そして……
「オーバレイ:レゾナンス」
ユウヒがコードを口にした瞬間、コンシリウム全体が震えるように動き出した。
壁一面に小さなモニターのような映像が無数に現れ、それはまるで光の洪水のようだった。
「なんだ……これ……」
驚愕の声を上げたのはホウジュンだけだった。
2人は、さも当然のように、それらを見る。
「半分、任せた…」
「ああ…ピックしすぎるなよ?」
ユウヒとトキは背中合わせになり、止めどなく流れる映像を調べ始める。
時折、映像に指を刺し、指先からピンを飛ばすかのような動作をすると、それらは後方に回され、動きを止めた。
吟味するように、確実に刺していくトキとは違い、ユウヒは目端に対象と思われるものが映るたびに刺しているようだった。
「やり過ぎんなって言ってんだろ」
呆れるようにトキが言うが、自身も手を、目を止めない。
2人が何をしているのか理解できていないホウジュンは固まるだけ。
それを目端に捉えたトキは、鼻で笑った。
「お前らがここで使ってる機能なんて、ほんの一部なんだよ。これが、本来の姿だ。……宝の持ち腐れ。こんなにぴったりな言葉はねぇな」
嘲るように、憐れむように言うトキは、自身の範囲は終わったとばかりに振り返り、ユウヒの肩を掴んで止めた。
「やりすぎ。ちょっと待て」
「いや、だって…」
「だから、やりすぎ」
十分だろ。と、指で彼の額を弾く。
怯んだユウヒを気にもせず、トキは映像に手を翳した。
「アセンブル:ピック」
声に応じ、先ほど後ろに下がった映像以外はかき消え、残った映像が整列されていく。
「やっぱり取りすぎじゃねぇか」
仕方ねぇな。とため息混じりのトキは、先ほどユウヒの額を弾いたように、今度はそれを映像に向かって弾いた。弾かれたそれらは、選ばれなかった映像同様、その場からかき消えていく。
「アセンブル:リテイク」
澱みなく精査されていくデータに、ホウジュンは言葉を失った。
理解できないのではない。
理解しようとする場所にすら、自分が立てていないことを悟った。
「呆けんな。お前の番だ」
突然声をかけてきたトキに、ホウジュンは驚き、動揺する。
そんな態度を気にせず、トキはホウジュンの前に手を翳す。
目は笑っておらず、口元にだけ笑みを浮かべてるその表情は不気味で、ホウジュンは身構える。
「レンダー」
しかし、彼が思っていることは起こらず、手を目の前で横スライドすると、先ほどまで彼らが整理していたデータがキレイに整えられて表示されただけだった。
「捕捉した。ソウイチ含め、いなくなったのはこの5人。出れるか?ホウジュン」
出れるか?と聞きつつ、有無を言わさぬ声音に、ああ。と反射的に答えた。
「なら、こいつ止めとけ。今いけるやつリストアップする」
ん?とホウジュンが訝しげるが、こいつと示されたユウヒを、トキは手で制していた。
トキは戦闘要員ではない。にもかかわらず、ただ目の前に腕を出されているだけで止まっているユウヒに、ホウジュンは違和感を覚える。
だが、疑問を口にすることはせず、分かったと答えると、トキはくるりと向きを変え、円卓へ引き返した。
飛び出そうとするユウヒの手を咄嗟に掴むと、彼の指先が小さく跳ねた。
振りほどこうとしたわけでもない。
ただ、行き場を失ったような動きだった。
——こんな反応、今までなかった。
ホウジュンは、手に力を込める。
「落ち着け!らしくないぞ!」
「……分かってる」
語気が強めのホウジュンの声に、ユウヒは答えるが、視線が、動きが、落ち着かない。
ホウジュンは、胸の奥に小さなざわめきを覚える。
このまま行かせてるわけにはいかない。
そんな確信だけが、先にあった。
次回更新予定は5/15です。




