第二十七話:驚きの連続
「私は……ジョーンズ教授の時のクラウスさんに話した通り、訳があってこの国にいて、移動しながらラーメンの販売をしています。その旅の先々でトラブルがあり、その度に助けてくれていたのがクラウスさんだったこと。本当に驚いています」
「そうだろうね。驚かせてばかりで、ごめん」
とても自然な流れで、クラウスが私の膝に乗せている手をとった。本来未婚の男女の接触はNGなのだけど……。
クラウスにはあまりにもお世話になり過ぎて、こうやって手を触れ合っていても、悪いことをしている気持ちにならないのが不思議だった。
「ジョーンズ教授として会った時は、大いなる呼び水になって、その日のツケメンの完売の大きなきっかけを作ってくれました。間違った東方の料理を出す店主との出会い、新たなるメニューの開拓も、とても刺激になったと思います」
「おしりがすき、には驚いたよね」
「それは……!」
そこは思い出し笑いになってしまう。
「ようやく笑ってくれたね、フェリス」
「!」
「君は気づいているかな。フェリスの笑顔。とっても素敵なんだ。見ている僕も笑顔になるような。だからあまり緊張せず、笑って話をしょう。僕はエルと同じ。君の味方だから、フェリス」
そう言って私の手をぎゅっと握り、持ち上げると、甲へと誓いのようにキスをしてくれる。
これには盛大に心臓がドキッと反応してしまう。
ドキッとして、ドキドキが続いているが……。
それは嬉しいからだった。
だって私の味方だと、明言してくれたのだから。
「エディとして会った時、最初はナンパかと思いました」
「はは! そうだね。自然に出会うって案外難しいよね」
そう言われると確かにそうだ。見ず知らずの男女が自然に出会うって……簡単なようで難しいかもしれない。どうしたって不自然になりそうだ。
「でもエディの時もちゃんと呼び水になってくれましたし、ポアラン男爵の件では、攫われたところを助けてくれて……本当に助かりました」
「荷馬車を猛スピードで発進させたから、大変なことになっていなかったかな!?」
「大変でした! もう左右にゴロゴロ転がって……!」
少し頰を膨らませてそう言うと、クラウスは慌てた表情になる。
「本当にごめんよ。最初から魔法を使えばよかったな」
「冗談ですよ! クラウスさんの慌てた表情、見てみたくて」
「! ひどいなぁ。大人をからかったな!」
まるで私が子供みたいな言い草だけど、クラウスと私、そんなに年齢は違わないと思う。そこで年齢を尋ねると……。
「二十歳になったばかり。シャインとして君と会った時は、お酒が解禁されたばかりだった」
「初めて飲んだのですか!?」
「そうだね。そこで意外と僕は飲めるかもしれないと、気が付いた」
これには驚きつつ、なぜあの時、ビールをおごると提案したのか。思わず尋ねると……。
「結局、彼らは悪党ではなかった。僕の見立てでは、お酒が好き。飲むことで打ち解けるタイプに思えた。そして実際、飲んでいるといろいろ話も聞けたからね。悪人ではない相手とは穏便に済ませるのが一番だろう?」
「それは……そうですね。シャインさんの時ですら助けていただき、ヨットと今日に至っては、特級魔法を使っていただくことになりました。本当に助けていただいてばかりですが……」
そこで私は気になっている疑問を口にすることになる。
「冷静に考えると不思議です。どうして私のピンチの場面に、毎度毎度、クラウスさんは現れることができたのですか? 一応私はサウスフォレストを目指し、旅をしていました。ゼノビア伯爵もサウスフォレストを目指していたので、道中が重なった。ゼノビア伯爵はピアのことを『ピアちゃん』と可愛がってくれていました。そこで私達のことを気に掛けてくださっていたのでしょうか。そしていち早く、SOSが必要だと察知してくださった……ということです……?」
「フェリスの道中に現れたジョーンズ教授、エディ、シャイン、クルス、そしてクラウス。そのすべてが僕だということは既に明かしている。そうなるとなぜ、手を変え品を変えではないが、自分の前に現れるのか。それを不思議に思う……当然だね。その件について話す前に」
そこで再度、クラウスが私の手をぎゅっと握る。
「僕は君の味方だ。何度も君を救ったのは、フェリス。君を助けたいと、心から思ったからだ。他者を思いやる優しさ。懸命に頑張る姿。そして笑顔。君を応援したいんだ。これは分かってもらえている?」
「それは勿論です。繰り返し、クラウスさんはそう伝えてくれているので、分かっています」
「よかった。それならば安心だ。では打ち明けよう。フェリス。君と僕との出会いは、あの休憩所で君とピアが男達に絡まれた時ではない。ローストヴィル。西部の地方都市。そこで君は僕と顔を合わせる前に、忽然と姿を消した」
この言葉を聞いた瞬間。
本能で、クラウスの手を振り払うようにして、ソファから立ち上がっていた。そして「逃げなきゃ!」と思い、さらに。
まさか、クラウスは……ゼノビアと共に、隣国から来た悪女と言われる私を追っていたの!?――と心の中で叫ぶことになった。
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