第十三話:そうですか、って……!
物見櫓を上っていくエルを見送っていると、マークがこちらへとやって来た。
「報告を受けました。村に近づく騎乗の集団がいると」
「はい。エルと私もそれを聞き、一旦外へ出るのをやめました。エルが今、物見櫓にのぼり、様子を確認しています。エルは騎士の訓練を受けているので、何か分かるかもしれません」
「なるほど! それは心強いです」
まさにマークとそんな会話をした直後、頭上から「お嬢様!」と声が聞こえる。聞こえると思ったら、エルは物見櫓の梯子のかなり上から見事にジャンプし、着地をした。
ここはさすがと拍手をしたくなるが、それよりも……。
「どうだった、エル!?」
「こちらへ向かってくるのは、二十人程の男性で、武器を携行しています。剣です。おそらくは兵士」
「! イースト島にも警備隊がいるわよね? もしかして彼らかしら!?」
私の問いに、マークが「警備隊!?」と驚いている。警備隊が村に来る理由が思い当たらないのだろう。そしてエルも「違うと思います。警備隊であれば隊服を着ているはず。ですがこちらへ向かってくる男達の様子は……あえて言うなら傭兵のように思えます」と答えた。
「つまりは寄せ集めに近いわけね?」
「そうですね。それでもきちんと列を作り、向かって来ているので、統率はとれています。なんというかそれは……別々の場所にいたメンバーが集結し、ここを目指している。そんな感じがしました」
「まさか! シノブさんの娘が村に戻ったと知り、奴らがまた来たんじゃ……」
マークの言葉を、即エルが否定する。
「そんなこと、外部に漏れるわけがないですよね!?」
今日は私達以外の訪問者は村にいない。それに村人の結束は強く、村から町へ向かった人が、そこでピアのことをベラベラと話すとは思えなかった。
「でも、もしかしたら、裏切り者が……」
マークが疑心暗鬼になっているが、ここは何かあった時、村人の心が一枚岩であることが大事に思えた。
「裏切り者がいたら、とっくにこの村はダメになっていたと思います。シノブさんとアントニーさんにまんまと逃げられた追っ手が、復讐をしていた可能性があるんです。でも村はちゃんと問題なく残っている。裏切り者なんていないと思います。むしろ……」
そこでエルと私は目配せをする。
村ではなく、私を追ってきた者たちである可能性が高い気がしたのだ。
「マークさん。申し訳ないです。私は訳ありなんです」
「そうですか」
「そうですか、って、マークさん……」
驚く私にマークは「なぜ驚くのですか?」という顔をしている。
「この村はそもそも訳ありの人が流れ着いて誕生した村です。見るからに貴族令嬢にしか見えない方が、東方料理の屋台、しかも移動屋台をやっているなんて、訳あり以外の何物でもないでしょう。そんな身でありながら、シノブさんの娘を大切にしながら、ここまで連れてきてくれた。そんなあなた方を追う者がもし迫っているなら。それは我々の敵でもあります。大丈夫です。共に戦い、追い払いましょう!」
「でも皆さんは武器もないですよね!? 無茶はなさらないでください」
「エルさんとフェリスさんは我々の客人です。お守りして当然ですよ」
マークの言葉に、胸が熱くなる。
初対面ではかなり警戒され、拘束するなんて言われたが。まだ若いマークはこの村を守るために、まっすぐな人物なのだとよく分かった。
「俺達も手伝います」
「客人は大切にしないと」
「シノブさんの子供が世話になったんだから」
続々と村の男性が、鋤やほし草用のフォーク、中には斧を手に集まってくれた。
「お嬢様、皆さん、何ていい方たちなのでしょうか」
エルの瞳がうるうるしている。
「そうね。皆さん、いい人たちばかり。……巻き込むわけにはいかないわ」
そう言うと私はマークに頼み、桶に入れた水を受け取る。そして呪文を唱え、桶の水の上に素早く手をかざす。
その瞬間。
水しぶきがあがり、その滴が、弾丸のように放たれる。
「な……これは!?」
「水魔法と風魔法を組合わせました。私は上級魔法の使い手です」
これにはマークを含めた村人の全員が目を丸くしている。
「エルも中級魔法の使い手。よってエルと私でまず、応戦します。ですから皆さんは村から出ず、中で待機してください」
さすがに魔法を使えるとなると「守る」ではなく「守られる」ことに同意できたようだ。
「わ、分かりました。まさか魔法を使えるとは……!」
マークにはさっき、風魔法を使い、話すことをできなくしていた。でもマークはこの閉鎖的な村で暮らし、あまり魔法に接することがないからか。自身に魔法が使われたとは思っていないようだ。ゆえにここで初めて私が魔法を使えると認識したようだ。
「すみません。ここで明かすことになり。隠すつもりはなかったんです。冷やしラーメンを作る時は、どの道魔法を使うつもりだったので、そこで気づかれたかもしれないのですが……」
驚くマークに謝罪すると、彼は思いがけないことを口にする。
「いえ、責めているわけではありません。驚いただけです。驚き、魔法の使い手がいることは、心強いと思いました。……魔法を使えるとはいえ、それでもフェリスさんは女性ですから、無理はなさらず」
「ありがとうございます。……ピアやマーガレットおばあさんは、まだ何も知らないのですよね?」
「はい。二人はシノブさんとアントニーさんの部屋にこもり、思い出話に花が咲いていると思うんです。邪魔をしたくないと思い、何も伝えていません」
ピアの幸せな時間を壊すわけにはいかない。
「エル」
「はい、お嬢様」
「用意はいいかしら?」
エルは弓矢も装備し、胸に手を当て微笑む。
「勿論です。二十名であれば、お嬢様と自分で太刀打ちできると思います」
「そうね。この村の皆さんに迷惑をかけるわけにはいかないから、頼んだわよ」
「お任せください!」
こうしてエルと私は、門の横の扉から、村の外へ二人で出た。
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