第五話:諦めないで!後悔しないで欲しい!
せっかくイースト島までやって来たのに。
行ってみようと思っていた村は、来る人を拒む村になっているという。
しかもその事件というのは……。
「その東方人は親子でその村に住み着いたと聞いています。父親と娘。そしてその娘は村で暮らす男性と恋仲になり、赤ん坊も生まれました。幸せに暮らしていたようなのですが……。余所者が村に現れ、その娘を連れ出そうとしたのだとか。なぜ娘を連れ出そうとしたのか。その理由は伏せられています。ですがその余所者が現れ、ひと悶着あった後、村は閉鎖的になってしまったのです」
「そうなのですね……。詳しいことは分かりませんが、村にとっては衝撃的な出来事だったのでしょう。会っていただけない可能性は高そうですね」
「とはいえ、ここまでいらしたのです。村の近くにはあっさりした味わいのマルベリーの実がなっていますから、それを摘んで帰ってもいいかもしれません。甘過ぎないジャムを作れるので、お酒好きの男性にも喜ばれますよ」
その年配の女性はそんな提案をした後、「おやそろそろ行かないと。ご馳走さまでした」と帰っていく。
この話を聞いてしまうと、どうしたものかと困ってしまうが……。
「フェリスお姉さん!」
ピアが力強い瞳で私を見る。
「どうしたの、ピア?」
「フェリスお姉さんはいつもいろんなことに挑戦している。私はそんなことできるの?って思っちゃうけど、フェリスお姉さんは違う。冷やしラーメンのスープも、頑張って考えたよね。そんなフェリスお姉さんだから、何もせずに諦めるなんて、しないで欲しいな! 行ってみようよ、その村まで。せっかくここまで来たんだから!」
「ピア、あなた……」
このピアの言葉には、とても励まされることになる。
何より近くにいて、私のこともずっと見てくれていたのだ。
そのピアからこんなふうに言ってもらえるのは……とても嬉しい!
「ピアの言う通り、自分もその村へ行った方がいいと思います。人間というのはできなかったことに対し、未練が残ると思うんです。自分がお嬢さんへついて行くことを決めたのも、後から悔やみたくなかったからなんですよ。『あの時、ついて行くと言えばよかった』と後悔したくなかったからです」
「エル……!」
「もし村へ行き『余所者はお断りです』と言われたら、それはそれではないでしょうか、お嬢様。『あの時、村へ行けばよかった』と後悔するより、『行ってみたけど、ダメだった。残念だけど仕方ない』の方が、未練が残らないと思います。ご自身が納得できると思うんです」
エルは自身の経験に基づき、そう言ってくれたけど……。
でもそれは本当に正解だと思う。
私はせっかくこの世界に転生できた。
生きるチャンスを得たのだ。
できれば後悔なんてせずに生きたいと思っていた。
「エル、ピア。二人とも、ありがとう。門前払いされるかもしれない。でも……せっかくここまで来たから、やっぱり行ってみたいわ。今日はこの宿場町に泊り、明日の早朝に出発して、会いに行ってもいいかしら?」
「「勿論!」」
二人が声を揃え、そう答えてくれることに励まされ、翌朝一番でその村に行くことにした。
ちなみにその村の名前も、この宿場町に来て、ようやく分かった。隠者が住む村を意味する、ハーミット村と呼ばれているらしい。
村の名前を聞くだけでも、確かに閉鎖的な村なのだろうとイメージはつく。
だがここで諦めるつもりはない。
エルもピアも行く気満々なのだから!
こうしてこの日は翌日に備え、早寝となる。ピアは私と同室がいいと言うので、一緒の部屋で、同じベッドで仲良く並んで眠ることになった。
これまで二段ベットの上段・下段で眠ることはあったが、同じベッドで眠るのは初めて。ただ二段ベットで寝ている時。お互いにいびきがあるとか、歯ぎしりがあるとか、寝言が激しいとか。音を立てるような寝相の悪さはなかった。よって安心して一緒に眠れると思ったが……。
ピアの寝相は何と可愛いのだろう!
まるで猫のように、掛け布に包まるようにして眠っているのだ。思わず「よし、よし」と頭を撫でてあげていると……。
「お母ちゃん……」
そう声を漏らしたピアは、眠りながら涙をこぼしたのだ。これには思わずピアを抱きしめることになる。
ずっと気がつかなかった。でももしかしたらこれまでもこうやって押し殺した声で涙を流していたのかもしれない。
やはりしっかり者に思えても、ピアはまだ子供だ。ストリート・チルドレンとして逞しく生きてきたが、本当はか弱く、大人が守るべき存在だと思う。
「ピア。大丈夫。もう一人じゃないから」
幼く、頼りないその細い体を慈しむように抱きしめ、眠りについた。
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次話は18時頃公開予定です~