第三話:私をイースト島に連れてって
『私をスキーに連れてって』というタイトルの昔の邦画風に言うなら、まさに「私をイースト島に連れてって」ということで、船に乗り込んだのだけど。
楽しく船旅……ではなかった。
爆睡の船旅になる。
六時間の移動。それは夜に船に乗り込み、早朝の到着を目指すことになる。つまり乗船と同時にお休みなさいなのだ。
これについてエルは「よかったです。自分は爆睡しますので、船酔いをすることなく島に到着できると思います!」と安堵している。ピアは「えーっ、寝ている間に島に着いちゃうの!? イルカさん見たかったのに……」と残念がっている。
どちらかというと私も後者で、ピアと同じ感想を持ったのだけど……。
冷静に前世記憶を思い出す。
船旅は退屈であると聞く。することがないから、と。
豪華客船であれば、プールがあったり、ショーがあったり、演奏会があったり。沢山のアクティビティが用意され、飽きることはないのかもしれない。
だが今回乗せてもらったのは、商船だ。
お客様を楽しませる用途の船ではない。
寝ている間に島に着いている……それが実は正解ではないか。
ということを悟り、かつ今回、船に乗せてくれた招待主であるパック氏の厚意により、二段ベットのある船員の部屋を借りることが出来た。そこでピアと二人、休むことになる。
「興奮して、眠れないかもしれない」とピアは言っていたが、今回夜営業をして船に乗り込んだ。日中は乗馬体験をして、さらに日傘護身術の特訓も受けている。肉体的に疲労していたので、ピアは爆睡。さらに眠気は連鎖するので、私もすぐに眠りに落ちた。エルは言うまでもない。日々の訓練でどこでも眠れる特技を有している。きっと他の船員との六人部屋だが、問題なく眠っていることだろう。
ということで、寝ている間に――。
ブォーーーーーという汽笛が数秒間隔で聞こえ、目が覚める。
「フェリスお姉さん、何かあったのかな!?」とピアが心配して飛び起き、私も窓から外の様子を確認する。
「ピア、島が見えてきたわ。到着の合図で汽笛を鳴らしたんだわ!」
「本当に!?」
そこからは大急ぎで身支度を整える。顔を洗い、ピアも私もお揃いのブーゲンビリア色のワンピースに着替えた。
すぐに到着かと思ったら、どうやら違うようだ。
船の接近を知らせ、接岸準備をしてもらうため、早めに鳴らしたらしい。
こうして早朝、私達はイースト島に到着した。
◇
イースト島は小さな島で、特産品のワインはあるが、そこまで発展はしてない……と思ったらとんでもない! 船着き場は大きく、広く、ワインの交易のために用意されたと思われるレンガ造りの倉庫もズラリと並んでいる。
「俺達はこの港近くのポート・コーラルという宿に泊まっている。一週間の滞在だ。そしてこの島はそこまで大きくない。馬車でのんびり旅をして三泊四日程度だ。本当は案内できたらいいが、こっちは今回仕事で来ているからな。東方人が住んでいた村に案内したり、珍しい泉に連れて行ったり、そんなことは何もできんが、大丈夫か?」
パックに問われたが、それは無問題だ。
なぜなら今回船に幌馬車も積んでくれたからだ! 当然だが、馬も一緒に。
商人は大切な荷物を運ぶ時、自身の信頼している馬を使う。よって馬や馬車・荷馬車を船に乗せて移動することも珍しくない。だが今回は無料で私達を船に乗せてくれたのだ。その上で幌馬車と馬まで乗せてくれたのは……パックの懐の広さを感じるし、おかげで島では自由に動ける。何せこの幌馬車こそ、私達の衣食住のすべてなのだから!
ということでパックとは別れ、いつも通り、御者席にエルと私が座り、ピアは荷台で移動開始だった。
「もらった地図によると、東方人が住んでいたという村は、どうやらかなり山奥のようですね。こんな場所に住んでいるとは……まるで世捨て人のように思えてしまいます」
私はパックからもらった地図を広げ、そこにつけられた印を見て同意を示す。
「そうね。でもそもそもこの島の東側は断崖絶壁で、その辺りに町も村もない。港のある周辺を中心に、扇子状に発展しているけど……港から離れたところは、ほとんど開拓されていないのね」
「聞いたところ、この島を所有しているモーリス伯爵があえてそうしているのだとか。自然を残したいから……なのでしょうか」
「その可能性もあるわ。もしくは開拓が難しい土地なのかもしれないわ。そもそもぶどうの栽培は痩せた土地で行われるでしょう? 栄養分が少ない土地ではぶどうの樹がストレスを感じ、自身を守るために水分を減らし、果実の糖度が増す――甘い実をつける。しかも栄養を求め根が深く張るから、丈夫で強いぶどうの樹に育つ。それに痩せた土地だからこそ、水はけがよく、根腐れも起こりにくい。だからこの島でぶどうの栽培が盛んになり、ワインが名産品になったんじゃないかしら」
「なるほど。お嬢様はこのイースト島のことを知ったのは、つい先日なのに。そこまで理解が進んでいるとは……。本当にすごいです。尊敬します……」
そう言ってエルが頬を赤くすると、私は嬉しくてならない。
やはり褒められるのは嬉しい!
前世酒好きの豆知識なのだけど(笑)。
何はともあれ、その東方人が住んでいたという村を目指し、馬車を進めていたが。
無人の休憩所に到着し、幌馬車をとめると、ピアの大声が聞こえてきた。
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