第六十話:一期一会を体感
「お嬢様、本当に申し訳ございません!」
「何でエルがあやまるの! 寝ている間の出来事。そしてそれは既に解決したのだから。気にしないで!」
「ですがお嬢様は攫われたのですよ! 護衛騎士でありながら、それに気が付かなかったなんて……自分は」
エルが心底悔しそうな顔をするので、ここは懸命に宥めるしかない。そもそもどこか気が緩んでいた私の責任でもあるのだ。それに前世のような特殊部隊はいないわけで、三階の窓から侵入するとは想像していなかった。
「今後、宿に泊まる際は、お嬢様の部屋のベランダで寝ます」
「エル、その必要はないわ」
そんな会話しながら、町を出ることになった。
「しかしそのエディとは何者だったのでしょうか」
「宿の近くのカフェの店員よ」
「本当にそうでしょうか? いくら魔法を使えるとはいえ、追跡も、犯人を制圧するのも、手際が良すぎる気がします」
そんなふうに言われても困ってしまう。
「もしかすると魔法を活かし、用心棒みたいなことをしていたのかもしれないわ。いずれにせよ、エディのおかげで助かった。それには感謝しかない。でもそれだけよ。彼はあの町の住人だから、もう会えないと思うから」
ほっぺにチューはないのだ。あれはあの場のしんみりを払拭するための言葉に過ぎない。
そんなことを御者席でエルと話し、町を出てからしばらく行った休憩所に向かい、そこで朝食となった。
エディはすぐに宿を出て町を出る私達のために、カフェでテイクアウトのサンドイッチを注文してくれていたのだ。
「あー、お腹空いた! サンドイッチ、美味しそう~!」
ピアは大喜びでサンドイッチにかぶりつく。
BLT(ベーコン、レタス、トマト)がサンドされたサンドイッチは、確かにとても美味しいし、サイズも大きいので食べ応えもある。紅茶と共にいただいた後は、満腹になり……。
あくびが漏れる。
「お嬢様、良かったら後ろで休んでください。変な時間に起きて、睡眠不足なんだと思います」
「そうだよ! 私がエルの隣に行くから、フェリスお姉さんは休んで!」
エルもピアもそう言ってくれるので、ならばといつもの棺で休ませてもらうことにした。
こうしてすっかり眠り慣れた棺で爆睡していると、ピアに起こされることになる。
「フェリスお姉さん、次の宿場町に着いたよ!」
南部の海に面した港町、ニーチェに到着した。
◇
「これまでお昼で営業をしていたでしょう。でも冷やし中華はつけ麺に比べ、仕込みに時間がそこまでかからないわ。それに今は日没の時間が遅い。今日は十七時頃から営業にしない?」
ピアは21時には休ませている。よって後片付けはエルと私ですることになるが、それで問題はないだろう。つけ麵と違い、仕込みも手軽であり、片付けも楽だ。
「分かりました。そうなると日中、時間が出来ますね」
「ピアは読み書きや計算の勉強もした方がいいと思うわ。でも自分達の屋台以外のお店に行くことも、ためになると思うの。後は博物館や美術館もあるから、そう言った施設を見てもいいと思うのよ」
ピアはまだまだ成長段階。いろいろなことに触れ、経験を積み、豊かな人生を送ってほしいと思っていたのだ。
「ではこれからお昼を、いずれかのお店に入って、いただくことにしますか?」
「そうしましょう。港町だからきっと美味しい海の幸と出会えると思うわ」
「わーい! 海は初めてだし、楽しみ〜」
世の中もバカンスシーズンに突入したので、宿も混雑していた。ピアと私は同じ部屋となり、外出のために着替えをすることになる。
「フェリスお姉さんのそのドレス、素敵。そういうの着たいな〜」
エディが魔法で変えてくれた元寝巻きだが、確かに素敵なもの。そこでピアが着ているベージュのワンピースに魔法を使うが……。
「ただの布を魔法で変えるって意外と大変だわ! レースや刺繍も難しい……」
「じゃあエディさんはすごかったんだね!」
「そうだと思うわ……!」
何とかピアのワンピースを素敵に出来た後は、アクアブルーのワンピースに着替え、エルと三人で港の近くに向かう。
そこで見つけたレストランでは、パエリアに見た目そっくりの料理を出している。何が違うかと言うと、お米ではなく、ちぎったパスタが使われているのだ。
「このお店にしない?」
「いいと思います!」
「わ~い!」
こうしてパエリアそっくり料理を頼み、食べて見ると……、
「わー、旨みたっぷりって感じで美味しい〜!」
「港町ならではですかね。自分も初めて食べた料理です」
こんな感じでランチをした後は、海の美術館へ向かった。そこは海に面した巨大な窓に、大小様々な形の額縁が飾られており、その額縁の中で見える景色が一つの芸術作品になっていた。
一枚として同じ絵はない。今日見た一枚は、この一度限りなのだ。これは実に面白い!
さらにここは港町だが、もっと南に行くと、そこは美しい海を眺める景勝地になっている。その辺りから運んだ砂浜を使ったサンドアートにも挑戦出来た。サラサラの砂は触り心地がいいが、それ以上に……。
サンドアート。
それはこれまたこの場で作って、また崩すことになるのだ。
まさに一期一会を体感できる美術館だと感慨深くなり、併設されているカフェに向かうと……。カフェに面したテラスで絵を描いている人がいた。
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