第五十八話:彼の推理
この世界でカフェは語らいの場として重要な役割を果たしていた。
カフェに集まる貴族達が夜な夜な議論をしていることもあれば、逆に早朝から営業し、情報収集の場として活用されることもあった。そして宿の近くにあったカフェは、新聞片手に朝食をとりながら、情報交換するための場として使われているようだ。
「朝食は仲間ととるのだろう? とりあえずコーヒーを頼むのでもいいかな?」
「はい……って私、お金の持ち合わせが……」
「大丈夫。寝間着で裸足だったということは。寝ているところを攫われたのだろう? お金なんて持っているわけがない」
そうでもなかった。
もしもに備え、寝間着の裾にコインを数枚縫い付けていたりするが、それは銀貨である。カフェでコーヒーを頼むのに銀貨を使ったら、店員はやめてくれ!と思いそうだ。お釣りを用意するのも、数えるのも手間になるからだ。
よってここは一旦エディに出してもらい、後ほど返すようにしようと心に誓う。
こうしてひとまず席に案内され、コーヒーを注文し、一息つくことになる。
「改めましてエディさん。助けてくださり、ありがとうございます」
「いえいえ。ご無事で何よりでした」
「ですがどうしてあの場に……?」
私の問いにエディは意外な話を始めた。
「このカフェが朝営業をしているけど、通りを挟んだ向かいのカフェは、深夜営業をしているんだ。議論好きの貴族御用達のお店でね。実はそのカフェを僕は手伝っていたんだ。昨晩は君達を助けてくれたゼノビア伯爵がカフェに来て、彼女と話したいと旅行中の貴族が沢山カフェに集まっていた。そして偶然見ることになったんだ。窓から君が泊まる宿へと侵入する怪しい者の姿を。しかも窓から侵入して、裏口から君を担いだ男が出てきた。フードを被り、顔を隠すようにしていたけれど……よく見ると、知った顔だった」
「ポアラン男爵のところの、私設騎士団のカナン団長だったのですね」
「その通り。すぐに僕はゼノビア伯爵に報告した。彼女は『こんな真夜中にこそこそと、一体何をしているのだか』と言い、護衛を連れ、ポアラン男爵の所へ向かった。そして僕に君を追うように頼んだんだ。僕が魔法を使えること、ゼノビア伯爵は気付いていたから。後はこの通り。至る現在というわけだ」
そうなのだ。攫われた私は知った声が聞こえ、驚いたのだけど……。
それこそがカナン団長だったのだ。
「コーヒー、お待たせいたしました」
そこでコーヒーが運ばれてきて、一口飲むと、まさに目覚めの一杯。さらにカフェの外が明るくなり、どうやら日が昇り始めたようだ。変な時間に攫われたが、なんだか清々しく朝を迎えてしまった。
コーヒーを飲みながら、私はエディに尋ねる。
「カナン団長は、ポアラン男爵の屋敷へ向かったわけではないのですか?」
「屋敷とは逆の方向に向かっていた。そこで何となく、分かってしまった。カナン団長が何をしようとしていたのかを」
「!? 私を攫い、何をしたかったのでしょう!?」
エディはフッと口元に笑みを見せた。表情の変化は涙袋のほくろをくっきりと浮かび上がらせる。
「ポアラン男爵、根は悪い人間ではないと思う。この宿場町の活気を見れば、それは君も分かるのでは?」
「それは……そうですね」
「ただ欲しいと思ったり、気に入ったりしたら、手に入れないと気が済まない性分のようだ」
そこでまさか私を好きだから攫ったの!?なんてロマンチックな展開を考えたものの。
そんな気配は皆無だったと思う。
どちらかというと……。
「彼は冷やし中華と麦茶をとても気に入っていた。ゼノビア伯爵を前に、従順になったように見せたが、諦めていなかった」
エディの言葉に私は尋ねる。
「それはつまり自身の屋敷の料理人として、エルを雇うことを諦めていなかった……ということですか? でもそうであれば、なぜエルではなく、私を攫うんですか!?」
もしかすると本当の店長は私であること。ポアラン男爵は気づいたの……?
「カナン団長も一応は魔法を使えるようだが、下級魔法の使い手だ。他の騎士たちは使えたり、使えなかったり。所詮は地方領の私設騎士団。首都にいる騎士団のように、全員が中級魔法以上の使い手ではない」
エディの言葉に「えええっ」と声を出しそうになるのを我慢する。首都アールにいる国王直下の騎士団は全員中級魔法以上の使い手なの!?と。やはりアルシャイン国は、トレリオン王国とは比べものにならない……。
「君の護衛も兼ねているであろうエル。彼は騎士だろう? 咄嗟の時の言動が騎士のそれだ。かなり剣の腕も立つだろう。そうなると全身に贅肉はなく、あるのは筋肉だ。そして筋肉質な男性は、見た目よりも体重が重い。そんな人間をこっそり運び出すのは至難の業だ。転移魔法で移動させることができれば話は別だが」
無駄な贅肉がない……つまりは体脂肪率が低く、筋肉がある人。それは確かに体重が重くなる。脂肪より、筋肉は密度が高いからだ。
「エルを攫うより、君を攫う方が楽だ。エルには自ら出向いてもらいたいと考えたわけだ」
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次話は18時頃公開予定です~
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次話の更新時間を間違えていました。いつも通りの18時です!
【表記について】
食事をして栄養を摂取する場合は「食事を摂る」と表記し、通常の食事をする場合は「食事を取る」という表記で統一することにしました!
 























































