第四十八話:お昼の営業、始めまーす!
「お気をつけて! またこの町に来たら、絶対に顔を出してくださいね! ツケメンは本当に美味しかったです。ピア、店をやるなら一緒にやろう!」
翌朝、泊まっていた宿をチェックアウトし、出発する私達を店主が見送ってくれる。ジョーンズ教授は大学の授業があり、見送りは出来なかった。
「お嬢様、本当に良かったのですか? ジョーンズ教授の提案、お嬢様にとっても悪い話ではなかったのに」
「それは分かっているわ。でもあのお店にお世話になって、評判がよくなり、話題になれば……いろいろ詮索される可能性がある。そして私達の素性を調べる者が、出てくるかもしれない。それに追っ手だって、気づくかもしれないでしょう。そうなった時、私だけがどうにかなるならいいわ。でも絶対にあの気のいい店主やエルやピアに迷惑をかけることになる」
「それは……確かにそうですね……」
「それにジョーンズ教授が考える孤児院の改革に協力しても、『この令嬢は何者なんだ!?』ってなると思うの。そうなったらやっぱり、ジョーンズ教授にも迷惑をかけると思う。それどころか、せっかく進んだ改革が途中でストップしてしまうかもしれないのよ。そのせいで、救える命を救えなくなるかもしれない」
私の説明を聞いたエルは、「そうですよね」と応じつつ、こんな風に言う。
「でもとても悔しいです。お嬢様やピアに巡って来た幸運。それをみすみす逃すなんて……」
「それは……それは私やピアだけではなく、エルだってそうよ。もし私に」
「お嬢様。私について来なかったら……は、言わない約束です。それに繰り返しになりますが、最初にお嬢様について行くと決めたのは、自分ですから」
御者席に座り、幌馬車を走らせているのだ。エルは前を見ているが、その横顔は……。
とてもキリッとして凛々しい。
「それにしてもジョーンズ教授。まだ若いのに、お嬢様に共に孤児院の改革をしましょう──なんて。教授だからこそかもしれませんが、驚きです。お嬢様の美貌に惚れ、さらに志が同じ。だからプロポーズでもした上で、『共に改革をしませんか』と思ったら……色恋沙汰はなかったのですね」
「もう、エルったら! ジョーンズ教授は真面目な方なのよ。そんな世俗な目で見たら失礼よ!」
「すみません。でも本当にすごい方ですね。純粋にお嬢様の価値観や考え方に共感されたわけです。人として、お嬢様に惚れ込んだ……。自分のことをそこまで認めてくれる。まるで自分にとってのお嬢様みたいなものです。得難い方でしたね」
エルにしみじみそう言われると……。
ジョーンズ教授の素晴らしさを改めて考えることになる。
そもそものきっかけは圧力鍋で、彼の頭の良さ、魔力の強さを目の当たりにすることになった。さらに彼は私に、他者に親切に出来ることを褒めてくれたが、ジョーンズ教授だってそうだ。
あのお店の玉子焼きの美味しさに気がつき、それ以外の料理の残念さも理解し、何とか出来ないかと考えた。普通なら玉子焼きは美味しいが、他は不味いからもう利用しないで終わるはず。でもそこで私との出会いを活かし、あのお店と私を繋いだのだ。
ジョーンズ教授が親切だからこそ、あのお店は変わることが出来る。
「お嬢様、そんな顔をなさらないでください。いろいろほとぼりが冷めたら、また会いに行けばいいじゃないですか。教授もそう言っていたのでしょう?」
「そうね」
こうして馬車を進めるが、今日は山越え。次第に標高が上がっていく。昼休憩で辿り着いた休憩所は、まさに展望台とも言える。
「ここの休憩所に売店はなく、井戸があるぐらい。みんなランチボックスを持参するか、この場で煮炊きだと思うのよね。お昼時より早く到着したから、ここでスープのいい匂いを漂わせれば、煮炊きを予定していた人達が、つけ麵を購入してくれるかもしれないわ。一応、店開きしましょうか」
私の提案に「「そうしましょう」」とエルとピアは同意し、早速準備を始めてくれる。
アプリコット色のワンピースを着たピアと、いつもの軽装備のエルは、井戸に水を汲みに行く。アンティークローズ色のワンピースの私は、その間に魔法で用意した竈に火を起こす。
スープがいい香りを漂わせ始めていると、続々と荷馬車や幌馬車が到着した。馬車から降りた人達は、空腹を誘うスープの香りに、鼻をひくひくさせている。
この休憩所に売店はないはず。
それなのにこのいい香りは……。
商機と勝機、その両方があると思う!
「じゃあ、ピア、エル。お昼の営業、始めましょうか!」
私は高らかに告げた。
お読みいただきありがとうございます!
旅は続くよどこまでも。
人情屋台は今日も元気に営業します!
ということで次話は明日の7時頃公開予定です!
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