第四十六話:同じ志
川沿いの遊歩道。
お店もあり、店内の明かりも届くので、散歩するには丁度いい。
もっと沢山歩いている人がいてもおかしくないが、今は夕ご飯の時間。
遊歩道より店内が賑わっていた。
「フェリス嬢の食への探求心。特に東方の料理への強い関心。何よりその知識に驚かされます。なぜ東方にそこまで興味をお持ちなのですか?」
ジョーンズ教授にいきなりそう問われ、焦ってしまう。
まさか前世は東方の人間でした!なんて言えるわけがないのだから、ここはこう答えることになる。
「ぐ、偶然ですよ。たまたま読んだ本で、異国の料理が紹介されていました。その中で特に興味を持ったのが、東方の料理。そこでさらに東方について書かれている本を探し、その過程で東方の料理についていろいろ知ることになったのです。食欲は人間だけではなく、生物が基本的に持つ欲求ですよね。その食欲と東方が、ひょんなきっかけで結び付いただけです」
「なるほど。もし東方ではなく、砂漠の国の食文化に触れていたら、そちらへ興味を持ったかもしれないと」
「はい! まさにその通りです!」
そこで人の声が川の方で聞こえ、驚く。
見ると川に小型のボートが見え、そこで乾杯をしている人々の姿が見える。どうやらクルーズをしながら食事を楽しんでいるようだ。
「東方の食への関心はよく分かりました。ですがどうしてあそこまで親身になれるのですか?」
「え……」
「スシの問題はネタではなく、シャリにあると分かった。ならばそこの改善点だけ伝えるのでもよかったはずです。それだけでも十分感謝されるでしょう。でもフェリス嬢は、軒先のスギ玉に始まり、ノレン、店主のキモノのこと……。とても親切にアドバイスしました。さらにスシの後の一品として、チャワンムシを提案。そのレシピを考案し、共に作り上げることまでされました。どうしてそんなに親身にできるのですか?」
どうして……。
問われると困ってしまう。
理由なんて……考えていなかった。
「親身になっているつもりは、特にないんです。ただ、あの店主が玉子焼きをとても丁寧に作っているのが分かりました。この方なら、同じ卵を使った料理もきっと美味しく作れるのではないかと思ったんです」
「あぁ、そういうことですか」
「それにお寿司七貫は、女性には十分な量です。でもピアのような育ち盛り、男性には物足りないかもしれません。シャリの量を増やす工夫も出来ますが、せっかくならと思いついただけです」
これを聞くと、ジョーンズ教授はクスリと笑う。
「分かりました。その説明は実に分かりやすいです。ですが君が言うピアという少女。本人から聞きましたよ。両親を亡くし、路上生活をしていた。そこを君に助けられたと。その詳しい経緯も。君はピアに人を騙したり、盗むことを止めさせた。さらに労働することで対価を得ることの大切さも、理解させたのです」
ジョーンズ教授は遊歩道沿いにあるガゼボで立ち止まった。川にせり出す形のガゼボの中に入り、彼は手すりに手をつく。
「ツケメン作りを学び、いつか店を持ちたいと言うピアの願いを認め、弟子として共に旅することにした。これも『ピアは理解力もよく、物覚えも早い。きっとツケメン屋を切り盛りできろうだろう。だから弟子として迎えた』と言うつもりですか?」
「え、えーと」
思わずたじろくと、ジョーンズ教授はメガネをくいっと上げ、そのレンズ越しで私を見て告げる。
「私は感動しているんですよ」
「?」
「無自覚で誰かのために動けるなんて。君は本当に損得なしで、他者に親切にできるのですね。しかもとても自分に厳しいのでは? ピアという少女の人生。背負う覚悟がなければ、手を差し伸べてはならない。中途半端な助けでは、それは助けにはならない……そう思ったのでは?」
これには驚く。そして思わず「なんで分かったのですか!?」と尋ねてしまう。
「それは私もそういう考えだからです。この国から路上生活をする子供をなくすには、ただの一度食べ物を与えてお終いではいけない。孤児院では子供を保護し、そこで仕事を覚えさせ、自立できるように促す。それが成功している部分もあれば、失敗している部分もあるわけです。失敗があるなら、それは基礎ができていない点にあるのではないでしょうか。基礎となる学び、せめての読み書き計算を学んだ上で、職業スキルを身に着けて行くことが重要なのではないかと」
「そうなんです。まさに私もそう思います。アルシャイン国は国力もあるので、きっとできると思うんです。国土が広いので、その仕組みが行き渡るのに時間はかかるかもしれませんが。……ジョーンズ教授は教育現場に身を置くのですから、きっと改革を推進できるのではないですか!?」
するとジョーンズ教授はガゼボの柱に手をつく。
私は彼と柱の間にすっぽりおさまる状態になった。
「ええ。私の立場であれば、改革を進められる。でも一人では心もとない。志を同じにするフェリス嬢と共に改革を進めたいです」
お読みいただきありがとうございます!
本日もよろしくお願いいたします☆彡
主人公の考えや性格を認め、ジョーンズ教授がした提案。
主人公はどう答えるのでしょう!?
次話は12時頃公開予定です~