第三十九話:実に興味深い
山があるからそこにのぼる。
それと同じ(!?)ように。
私が食べたいから、手に入る調味料でレシピを考え、圧力鍋を作ったと激白すると……。
「……実に興味深い」
「へっ……?」
「君はなんて珍しい、いや、面白い! そこまで食べ物に情熱をかけるとは! いずれかの屋敷のシェフだったのですか? 見た目は貴族令嬢のように見えますが」
これには何だか汗が出るが。
「鍋を下ろす時間です!」
「何? あ、そうか。調理の最中でしたね」
私が鍋つかみを用意している間に、ジョーンズ教授は魔法でいとも簡単に鍋を火からおろしてくれた。
当たり前のように魔法を使っているが、もしかして相当な魔力持ちなのだろうか。
「このチャーシューの入った鍋は?」
「減圧します」
「ちゃんとそこまで理解していると。君は化学について学んでいるのですか?」
これには首をぶんぶん振ることになる。
「化学の素地もなく、減圧についても考えたとは……。君がどんな料理を完成させるのか。俄然、気になります」
そこで言葉を切ると、彼はまじまじと私を見て問い掛ける。
「店は昼に合わせて開けるのですね?」
「はい」
ジョーンズ教授はスーツから懐中時計を取り出し、時間を確認する。
「では時間になったら戻って来ましょう。……手慣れた様子からすると、これまで何度も営業しているようですね。君がそれだけの熱意と情熱を込めている。きっと相当売れていると思いますが、どうです?」
「大変ありがたいことに毎度、完売しています。召し上がったお客さんの声が呼び水になり、どんどん行列ができます」
「素晴らしいですね。では早めに戻ってきます。完売で食べられないのは困りますから」
そこでジョーンズ教授は、懐中時計をスーツの内ポケットへしまいながら尋ねる。
「お名前をお聞きしてもいいですか?」
名前をここで聞かれ、一瞬、本当の名を伝えるかどうか迷う。
でもピアには「フェリス」という名を既に伝えてしまっている。この後「ピア、私のことはやっぱりラナと呼んで」と頼んでも……おそらく、営業中、忙しくなれば「フェリスお姉さん」とうっかり呼ぶと思うのだ。それになぜ突然、呼び方を変えるのかと、不思議に思うだろう。
アルシャイン国は大国であり、ここは首都アールからとても遠い。そしてフェリスと言う名は多少珍しいが、フェリーチェやフェリックスという名もあるのだから、大丈夫なはず……!
というかピアを仲間に加えた時、なんのためらいもなくフェリスと名乗ってしまっていた。それだけピアを信頼していたのだろう。
ということを瞬時に考え、私は「フェリスです」と名乗る。
「……フェリスか。珍しい名ですね。確か古い言葉で猫を意味していたような……。ともかくフェリス嬢、後ほど君がその情熱を注いだツケメンを食べさせてもらいます」
そう言ってジョーンズ教授が一旦去って行き、私はスープを火にかけ、開店準備を進める。そうこうしていると、エルとピアが戻って来た。
ジョーンズ教授のことを話したいが、まずはゼノビアが見つかったかどうか。それの確認だ!
「名立たる宿を当たってみましたが、ゼノビア様は見つかりませんでした。もしかすると護衛の名で宿をとっている可能性もあるので、見つけられなかった可能性も高いのですが……」
エルがしょんぼりそう報告する一方で、ピアは明るい笑顔になる。
「エルお兄さん、一生懸命探してくれて、ありがとう! これだけ探して会えないなら、そういう運命だったのかなって思う。お店の営業もあるし、もう無理しないで。フェリスお姉さん、一人で準備させることになり、ごめんね!」
これにはエルと私は切ない気持ちになる。
ピアはゼノビアに絶対会いたいはずだが、それは無理だと悟ってしまった。そこで自分が悲しい顔をすれば、エルも私も困ると分かっている。だから笑顔で、もうゼノビアを探すのは諦めると言ってくれたのだ。
なんとかゼノビアを見つけられないか。
そう思うが、ここにはスマホがなければ、SNSもない。
もしSNSがあれば「昨日助けていただいた者です。ゼノビアさんを探して宿場町へ来ました! 御礼を伝えたいので、つけ麺のお店へ良かったら来てください」と投稿したらそれが拡散され、ゼノビア本人が見てくれる……なんて可能性もあるのだけど。
何か、方法はないのかしら?
「がんばってツケメンを売りましょう!」
エルが笑顔で提案する。
「お昼時であれば、ゼノビア様も昼食を摂るため、出歩くかもしれません。人だかりができれば、目立ちます。何だと思い、のぞいてくれるかもしれません。見ればすぐに自分達に気付くはず。きっと声をかけてくれますよ!」
エルがそう言ってくれたが、まさにそうだと思う!
王都警備隊に所属しているぐらいなのだ。突然できた人だかりには「何事かしら?」と思い、確認するはず。
「ピア、諦めないで、頑張りましょう」
「うん。ありがとう!」
ほどなくして準備は完了し、ゼノビアが気付いてくれることを期待する営業がスタートした。
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