第十四話:麺とスープを作ります!
「ラーメンの麺は黄金色なんですね! それはとても楽しみです。そのカンスイは自分が用意しましょうか? 水に重曹を溶かせばいいのですよね?」
「ええ。分量はこれぐらいでお願い」
そうしている間にも半熟卵が出来上がる。
すぐに冷水に入れ、冷めるのを待つ間に、煮卵のたれを用意だ。
「カンスイできました!」
「ありがとう、エル。これから煮卵のたれを作るわ」
本来の煮卵のたれは、めんつゆと砂糖や醤油、もしくは醤油、みりん、水、砂糖などで作るもの。だがこの世界には、みりんもなければ、醤油もない。
そこで思いついたのが、このレシピ。
使うのはアンチョビで作られた魚醤、水、白ワイン、蜂蜜だ。これらを混ぜて加熱し、たれとして使うことにした。
たれを冷ます間に半熟卵の殻はエルが剥いてくれることになった。その間に私はついに寸胴鍋を火に掛ける。ガスレンジでもIHでもないので、火力の調整が難しい。そこは魔法を使い、中火の状態にする。
「殻、むけました」
「ありがとう、エル。たれはまだ冷めていないから、麺作りに着手しましょう!」
「はいっ!」
ボウルに小麦粉……強力粉、かん水、塩を入れ、かき混ぜる作業をエルが行うことになった。
エルは小麦粉の感触が新鮮なのかしら? なんだか感動している。
「よく混ざったら、中央に窪みを作って」
「こうですか?」
「そう。いいわ。そこに水を足すから、ざっと混ぜてもらえる?」
「はいっ!」
言われた通りに動けるエルは大変優秀!
「ここからは捏ねる工程よ。手でしっかり生地を捏ねて」
「こうですか?」
「そうそう、いい感じ」
褒められるとエルの表情はぱぁぁぁっと明るくなる。
「表面が滑らかで弾力が感じられる状態まで捏ねてもらえる? 結構な力作業だけど、大丈夫かしら?」
「おまかせください、お嬢様! 白かった小麦が黄金色に近づき、感動しています!」
そこでかき混ぜ始めてすぐにエルが感動していた理由を理解する。かん水と小麦により起きた化学反応に感動していたようだ。
何はともあれ、麺の捏ねる作業はエルに任せ、スープの方を確認する。
いい感じで温まって来ているので、中火から弱火に変え、煮出していく。
ここでは浮かんでくるアクをとるようにする。
しばらくはエルも私も黙々と作業。
「お嬢様、こんな感じでどうでしょうか?」
「いいわ。すごくいい! この布を被せ、少し休ませるわ」
エルは、綺麗に捏ねることができた麺の生地に、湿った生地をそっと被せる。
「エル、手を洗ったら、手伝ってもらいたいことがあるの」
「勿論です。少々お待ちください!」
手を洗ったエルには、スープに入れた玉ねぎなどを濾す作業を手伝ってもらう。
「この大鍋に一度移して、玉ねぎ、乾燥アンチョビ、ニンニクを取り出したいの。この目の細かいざるを通すようにして、スープを大鍋に移してもらえる?」
「なるほど。これは力作業です。手伝います」
エルも私も魔法を使い、なんとか寸胴鍋のスープをザルを経由して大鍋に移すことに成功。そして再び寸胴鍋にスープを戻し、中火にかける。
「なんとも美味しそうな香りですね」
蓋をしていないので、いい香りが辺りに漂う。
「ふふ。でもまだまだこれからよ」
そこで煮卵をたれに入れ、用意したクーラーボックスもどきにいれる。
クーラーボックスもどきは、私が魔法で作ったもの。氷室ほど低温ではなく、湿度も高くない、煮卵や麺を保管するための特製ボックスだった。
「スープはこれからじっくり煮込むから、今のうちに晩御飯を買って来て、食べるようにしましょうか?」
集中して作業をしているうちに、すでに日没が近づいていた。
「そうですね。そうしましょう」
こうして売店でポテトとチキンとパンを手に入れ、ランチの時と同じテーブルと椅子に座り、食べることになる。
休憩所には一晩をここで過ごす荷馬車や幌馬車が続々入って来ていた。まさに日没前のこの時間が、休憩所の混雑のピークだ。
「兄ちゃんと姉ちゃん、なんだか旨そうな物を作っているな!」
近くにとまっている荷馬車の御者に声を掛けられ、エルが「東方伝来のラーメンという食べ物の試作品を作っているんです」と伝える。すると「もう食えるのか?」と問われた。「明日の朝なら食べられます。一晩、寝かせる必要があるんです」と私が答えると……。
「そうか、そうか。なら明日の朝、食べさせてくれよ。ちゃんと金も払うから」
そう言われて、ビックリ。
まだ試作品であり、販売など考えていなかった。
だがこんな風に興味を持ってもらえることは、とても意味がある。何せ試作品での感想も聞けるのだから!
「分かりました。試作品なのでお代は気にしないでください。美味しかったら弾んでください」と私が冗談めかして言うと「ははは。姉ちゃん、面白いな!」と御者は笑う。
「じゃあ、また明日の朝な!」
御者の男性が去り、夕食を再開し、それも終了すると……。
「エル、今度は麺を伸ばすわよ」
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次話は18時頃公開予定です~