第十二話:ラーメンを食べたいから!!!
ローストヴィルと似たような都市で屋敷を手に入れ、暮らし始めると、捕らえられる可能性が高い。
捕らえられたのがシヴェア公国だったら「悪女=魔女、火あぶりにしろ!」だろうが、ここはアルシャイン国。火あぶりはないだろうが、トレリオン王国に強制送還させられる可能性はある。
「もしも捕らえられ、強制送還させられたら、ロスは私を追い払おうとするわよね」
「そうですね。国境まで追い立てられる可能性が高いです」
「そうなった場合、アルシャイン国には二度と入国できないし、残りはノースフォーク帝国しかないけれど……絶対に拒むわよね。どこの国も悪女なんて受け入れたくない。そうなると行く当てのない、非常に厳しい状況になるわね……」
勿論、第二王子の元婚約者として、機密情報を知っている――そうちらかつかせることもできるだろう。だがまだ悪女としての印象が強い中、そんな取引を持ち出せば、ネガティブな印象しかもたれない。もしこのカードを切るなら、ほとぼりが冷めた頃だ。
そうなると……。
「移動しながら、生きて行くしかないわね」
「遊牧民のようにですか?」
「そうね。後は旅のサーカスとか踊り子とか」
父親から工面してもらったお金もやがては底を突く。支出ばかりではなく、収入を増やす必要もあった。
「ですがサーカスであれ、踊り子であれ、大所帯での移動になります。しかも彼らは仲間意識が強いですから、隠し事を嫌がるでしょう。仲間になりたければ、すべてを打ち明けろとなると思います。お嬢様の身分を伏せ、でも後からバレると、報復などされる可能性もあるかと……。かと言って、その身分を明かせば、嫌がられる可能性も高いです」
悪役令嬢としての役目を果たし、なんとか生き延びたが。なんて生きづらいのだろう!
婚約破棄も断罪も受け入れたのだから、ここは「がんばったで賞」で、ヒロインラッキー並みのお裾分けが、元悪役令嬢にもないものなのかしら!?
「不便になるかもしれませんが、人里離れた山奥で暮らす方法もあります。最初は洞窟などで暮らし、その間に自分が小屋を建てれば……」
「エルだったら小屋も建てられると思うわ。そして魚を釣り、狩りをして、木の実を集める、自給自足の生活を成立させることもできると思うの。でもその生活、語るより実際はかなり過酷よね」
「それは……」
「何よりそんな場所で、クマに遭遇したら? 山賊や盗賊やならず者だって、そういう場所を好むでしょう。私も魔法で応戦するけど、それでも数で来られたら……エルの剣だって、さすがに大勢相手だと苦しいはずよ」
そこですっと手を伸ばし、エルの手をぎゅっと握る。
「でもエルが何とかしようと考えてくれるのは、よく分かる。ありがとう。嬉しいわ」
「お嬢様……!」
エルの紺碧色の瞳がうるうるしている。
「でも安心して頂戴。私について来なさいと命じ、エルはついて来てくれたの。その決断を無駄にはさせないわ」
そう話しながら頭をフル稼働させた私は、ついに思いつく。それは前世の記憶を持つ転生者だから思いついたプランだと思う。
「私、屋台をやるわ」
「屋台、ですか?」
「ええ。でもフェスティバルやお祭りにある屋台ではないの。あの幌馬車で移動して、休憩所やどこか人がいそうな場所で、お昼時や夕方にお店を開けるの。でもそれが終わったら、移動する。同じ場所で何日も屋台は開かないわ」
これを聞いたエルはビックリしている。
「フェスティバルやお祭りにある屋台は、イベントごとに移動し、そこでまとまった収入を得ることができます。ですが今、お嬢様の言う方法ですと、例え売り上げがいい場所を見つけても、翌日には移動してしまうんですよね!? しかも、もし常連客になりそうな人がついても、逃すことになるのでは……」
「そうね。でもどこかに留まり、お店をやれば、捕らえられるリスクが高まるわ。だからこそ移動しながら生きて行くわけでしょう。移動しながらの生活で、小銭が稼げる……ぐらいの感覚の方がいいかもしれないわ」
「なるほど……」
そこで頷くエルに、私は詫びることになる。
「気ままに暮らせるはずで、騎士としての修練も自由にできると言ったのに。移動屋台生活では、それも難しいわよね。ごめんなさい、エル」
「! お嬢様、そんなことは気にしないでください。騎士の修練など一日中するものではありません。それにお嬢様について行くと決めたのは、自分自身です。そしてお嬢様について行くと決めたことに、後悔はありません」
「エル、ありがとう……!」
エルとの絆が深まったところで私はその屋台で何を売るかを打ち明けることになる。
「それでその屋台で売る食べ物なのだけど……」
「サンドイッチですか? フライドポテトですか? それともジェラート……?」
エルがこの世界で定番の屋台の食べ物を口にするが、それについては全て違うと答えることになる。そうなるとエルの顔には「???」という表情が浮かぶ。
「私、ラーメンを売ろうと思うの」
なぜラーメンかって?
それは私がラーメンを食べたいから!!!
お読みいただきありがとうございます!
いよいよラーメン屋台が始動ですよ♪
ということで次話は明日の7時頃公開予定です~
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【併読されている読者様へ】
『悪役令嬢は死ぬことにした』の番外編(3)ですが
22時頃に公開します!遅い時間でごめんなさい!
お疲れの方やご予定のある方。ご無理なさらず明日ご覧くださいね~