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72話 楽園 32/33

 ナギィは深海にいた。


 (何これ!水の中? ……息が出来ない……!)

 「うぐ!」

 咄嗟に息を止める。


 深海だと思ったのは、薄暗いからだ。


 ナギィは十六夜イザヨイの海を知っていた。

 色とりどりの魚やサンゴや海藻に、イソギンチャク。ヒトデなんかも彩を添えていた。

 十六夜の海は、にぎやかなのだ。


 しかし、今いるこの海は、深い青一色。

 ずっと上の水面らしきところから、時折、木漏れ日のような揺らいだ光がうっすらと差し込む程度だ。



 (メイシアは?メイシアは何処?)

 周りを見渡す。

 (もしかして、息が出来なくて、気を失っているんじゃ…… )

 そう思うと焦りからか、どんどん息苦しくなってくる。


 素潜りの極意は、精神が凪いでいる事。

 分かっているはずなのに、どうしようもなく、心がざわざわと……


 「ナギィ、どうしたの?」

 「え?」


 驚きのあまり、ナギィが口を開けた。

 ボコボコと、口からあぶくが飛び出し、大小のそれはユラユラと水面めざして上昇を始めた。

 (もうだめだ…… 気が遠くな…… )


 「だから、ナギィってば。そんな苦しそうな顔をしてどうしたのって?」


 「何って、息が出来ないからでしょ……って、何これ。なんで喋れるの?」

 「ん?変なナギィ。ねぇ、早く行こう、おばあちゃん探さなきゃ。」



 メイシアが、ナギィの手を引いて泳ぎ出した。

 さながら空でも飛ぶかのように。


 「メイシア、待ってよ、なんで息が出来るの?」

 「やっぱりナギィ、変だよ?いつもと何も変わらないよ、何言っているの?」


 「はぁ?……まぁ、いっか。」

 ナギィはあまりにメイシアが何を言っているの訳が分からない、といったような空気を出しているので、とりあえずはこの話は脇に置いておくことにした。


 そのように受け入れてみると、なんとなく、息も楽にできるような気がした。


 「ナギィ、見て!」


 メイシアが指さした方向に目を凝らす。


 集中して目を凝らさなければいけないほどに、濃い青が視界を遮っているのだ。

 ナギィは泳ぎながら集中した。


 「あ!」

 目線の先に、ついさっき別れたばかりなのに、もう懐かしいように思うシルエットが浮かんだのだ。


 「……ナギィ、急ごう!」

 「うん!」


 ナギィは泳ぎながら、不思議に思っていた。

 どうしてここには御嶽ウタキの入り口を塞いでいたような栓も、まして入り口の大きな、互いにもたれ掛かった巨石も無いのかと。

 ただあるのは水。


 いや、本当に水なのかも定かでは無い。


 一面青く、淡い光が時折揺らぐ世界。

 ただそれだけ。


 そんな事を考えているうちに、もう目的のあの人が、鎮座し祈っている姿がはっきりしてきた。


 鼓動が早まる。


 どんなに、拒まれても連れて帰ろう。ナギィはそう思った。

 メイシアと一緒なら、それが出来る。なぜか、そう思えたのだ。



 「オバア!」

 「おばあちゃん!」


 二人は、大きな声でその人を呼んだ。

 その人は驚いた様子も無く、静かに目を開けると、二人が近づいてくるのただじっと待っていた。


 そして、二人が自分のところまでやってくと、両手を広げて二人を抱きとめた。


 「二人が来たのを感じていたよ。無茶をするンマガやさ。来てはいけないと言っていたのに…… 」

 カマディは、二人をぎゅっと抱きしめた。


 「おばあちゃん、迎えに来たよ!」

 「オバア、帰ろう!」


 「……どこに?どこに帰るさぁ?」

 「それは……、わかんないけど、とにかく、オバアこそ無茶ばかりし過ぎだよ!」


 カマディの目が困っていた。

 「はぁ……。本当にナギィはフンデーやっさぁ。ワシの役目がある。ここを退くわけにはいかないのさ。」


 「おばあちゃん、私なんだってする!私にできる事、何でも言って!だから御嶽ウタキから出て来てよ、お願い。」

 「はぁ…… 」


 またため息をつくと、カマディはメイシアの顔をじっと見つめた。


 「何てことをしてしまったんだろうねぇ。ウンジュをあやつから隠す為に、こうしていたというのに……。でもまぁ、これが運命ってやつだねぇ。」


 「?」


 カマディが、メイシアの頭を撫でた。そして、ナギィの頭も。


 「仕方ないねぇ。ワシがメイシアのオバアを名乗り出て、次こそはウンジュを守ると決めたのだから。……わかったよ。ここから出よう。」


 「ほんと?!」

 「やった!」


 「確か、ユウナが来ているね?あと一人、とても力の強い子がいるはずやさ。」

 「うん。……ウッジの事かな?」


 「ウッジさんというんだね。後、神の力を授かっている子も一人いるようだね。」

 「すごい! おばあちゃん、何でもわかるんだね! そうだよ。チャルカは太陽の神さまの力があるよ。」


 「え!あのおチビちゃん、そんな力があるの?」

 ナギィの驚きに引きつった笑顔しか出てこないが、あんな風だけど本当の事なのだ。


 「……うん。色々あってね。さっきもペンタクルの太陽の神さまが家に来ていたんだよ…… 」

 「うそっ!わぁー!神さま、見たかった!残念過ぎる~!」


 「そうかい。わかった。」


 「ん? 何が分かったの? 」

 「それは、御嶽から出てから話すよ、メイシア。」


 そういうと、カマディはもう一度二人を抱きしめた。


 「あぁ、神さまはなんて運命を与え給うたのだろう。……カナサ。カナサンよー。」


 深い深い青色が、揺らいだ。

 浮遊感。そして確かな繋がっている感覚。


 メイシアとナギィは、気持ちの良い何かに包まれていた。

 それはカマディの愛だったのかもしれない。

 そのまま、二人は意識が遠くなった。






 一方、十六夜イザヨイの空を行くものがいた。


 蒼穹そうきゅうただれた闇に染めながら、ゆっくりと、ゆっくりと進む者。


 もうどれだけ時間をかけようが、問題ないのだ。

 砦が壊された今、全てが手中に落ちるのは約束されたことなのだから。


 喜びをかみしめるように、闇は深く深く、もう何人たりとも塗り替える事が出来ないように、入念に染めながら前進し続ける。


 突然、闇の主が痛快に笑った。

 「フフフ……ハハハハハハハハ!これはいい。」

 

 砦が崩れただけでも慶賀の至り。それに加え、渇求の何かを見つけたようだった。

 「珍しいのがおるなぁ……。シュテフィよ、やっと、ワシらは『楽園』を手に入れられるぞ…… アハハハハ!」


 闇の主は被っていた王冠を手にとり、ニヤリとした。

 王冠にはめられた赤い宝石に、闇の主のいびつに歪んだ口元が映し出されていた。









フンデー / わがままな赤ちゃん

ウンジュ / あなた

カナサ / 愛

カナサン / 愛おしい

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