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73話 楽園 33/33

 「メイシア!ナギィさん!」

 「メイシアさん!ナギィさん!」

 「マブヤー マブヤー ウーティキミソーリ! メイシアのマブヤー ウーティキミソーリ! ナギィのマブヤー ウーティキミソーリ! 」


 なんだか、とても騒がしかった。


 さっきまで、あんなに凪いだ海の底で心地よかったのに。

 もっと幸せな気分のまま眠っていたいのに、誰かが午睡の邪魔をする。



 「おばあちゃん、もうちょっとだけ寝かせて……」

 「ワーも……」

 メイシアもナギィも、むにゃむにゃと聞き取れない何かを口にすると、寝返りを打った。


 「寝ぼけてるさぁ…… ネーネー!メイシア!ウキユンさぁーーーっ!」


 呆れた森榮しんえいが二人の耳元で大喝を入れた。


 「ひゃぁ!」

 「ぎゃっ!」


 二人は飛び起きた。

 寝ぼけて訳が分からず、キョロキョロする。


 驚きが引くと、片耳がジンジンしてきた。身体が痛い。

 それもそのはず、寝ていたのは、ゴツゴツの岩が所々剥き出しの地面だったのだから。耳に違和感があるのは言わずもがな。


 「ちょっと、森榮!何てことするの!この馬鹿者フリムン! 」

 「フリムンは、ネーネーやっさ!ワンらがどんだけ心配とたと…… 」

 と言いかけて、森榮がプイっと、そっぽを向いてしまった。


 坊主頭なので、そっぽを向いても耳が真っ赤なのは、丸わかりだった。

 「……ごめん、森榮、」


 チャルカが、そんな森榮の頭を撫でる。

 「いい子、いい子。」


 「カシマサンっ!」

 口を尖らせた森榮が、チャルカの手を払いのけた。


 大人たちが、フフッと笑った。


 「メイシア、戻って来て良かった…… 」

 さっきまでワナワナとしていたストローが、メイシアに抱き付いた。


 「ストロー……。心配かけたんだね、ごめ……うんん。ありがとう。もう大丈夫だよ。」


 「ストローは、急にメイシアに対して過保護になったよなぁ。」

 その様子を眺めながらウッジが漏らす。


 「ウッジ、当たり前だろう?メイシアは家族なんだから!これがウッジだったとしても同じことだよ!」

 「……んーーーーーーーー、……まぁ?確かに?オズでは同じ家に住んでいたんだから、家族だけど……?」

 と、ウッジもなぜか腕組みをしてそっぽを向いた。



 「ウッジ、いい子、いい子。」

 チャルカがウッジの頭を撫でに来た。


 「チャルカ、うるさいっ 」


 メイシアは、ふいにストローに言われた「家族」という言葉が心に落ちてきたのを感じた。



 ──── そうか。旅の仲間だけじゃなくて、もう私たち家族だったんだ……



 「もう、これからは危険なことは、絶対にしちゃだめだからね、わかった?メイシア!」

 ストローがメイシアの目を見て念を押してきた。本気の目だ。


 「……う、うん。自重する…… 」

 と言いながら、確かにウッジの言う通り過保護になった気がする、とも思った。




 「ところで、おばあちゃんは?」

 「あぁ、もう御嶽ウタキは開かれたねぇ。ほら、カジが通ってるさぁね」


 ユウナに言われて初めて、周りの者は気が付いた。

 止まっていた時が動いたかのように風が通り、海の音も木々の音も正常に鳴りだしていた。


 「祝女ノロさまのところへ行きましょう!」

 強く決意をしたような、少し強張った声で、マタラが言った。

 それぞれに返事をすると、ぞろぞろと御嶽の中へと急いだ。




 御嶽への巨石のトンネルをくぐる。

 いつも通りの光が満ちた空間。


 鏡の力を失ってもなお、光が満ちて見えるのは、そこにカマディがいるからだろうか。

 カマディの強大な力によって、保たれている光。


 メイシアとナギィ、森榮は、カマディの姿を目にするや否や駆け出した。


 寸前でメイシアが本当の孫二人にその役目譲り、足を止めた。


 孫二人がカマディに抱き付いた。

 カマディは二人を抱きしめ、頭を優しく撫でながら、メイシアを見て優しい笑顔で頷いた。


 そして、ゆっくりと目線をマタラに移した。

 マタラはカマディと目が合わないように、下を向き、小さくなっていたが、カマディが孫たちを横に座られると、マタラの名を呼んだ。


 「マタラ、こちらへ。」


 マタラは躊躇しながらも、カマディの前に座し、目を見れないまま頭を下げた。


 「マタラ、顔をあげなさい。」

 マタラは無言で首を横に振った。


 「……お前のせいではないよ。マタラには、超えられるはずのない過去がある。仕方がない事。そして、ワシの罪。……顔をあげておくれ、マタラ。」


 マタラがおずおずと顔を上げた。

 真っ赤な目でカマディを見た。まだ不安な色が拭いきれないでいる。


 「……とうとう、その時が来てしまったさぁ。」


 そういうとカマディは、一度目を瞑り、御嶽から見える空と海を見た。


 まだ十六夜の海と空は青かった。

 水面が輝き、いつもと変わらず神々しいまでに美しかった。



 そしてカマディは、その場にいる面々に向き直ると、静かに話しはじめた。





  *** *** ***





ウキユン / 起きる

カシマサン / うるさい

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