108話 エトランゼ 8/16
「で?その子は誰?どうして走っていたの?」
碧眼の美人が赤髪の子に訪ねる。
「さあ?」
「は?……ちょっと、勘弁してよぉ!私たちは、知り合いでもなけりゃ、一大事でもない用件でこんなに走らされたの?やめてー」
そういうと、ベンチの背もたれに頭を預け、空を仰ぎ首を横に振った。
「今から、その子に色々聞くんだよな。」
男の子が間髪入れず、空気を読んでフォローを入れる。
「そう、そうなの!ねぇ、あなた、町で見ない顔だけど、どこから来たの?」
わしゃわしゃと髪を拭かれていた赤髪の子が、急に思い出したかのようにシュテフィにキラキラと好奇心の目を向けた。
見つめられたシュテフィは、最初は戸惑っていたが、ふと何かに興味が吸い込まれたようで、じっと赤髪の子の目を見つめる。
「……あなたの目、」
「あー、あたしの目?珍しいでしょ……良く言われる。」
へへへ、と赤髪の子が笑った。
メイシアも気になり、どれどれと少女の瞳を覗き込んだ。
『わぁ、きれい……。灰色のようなオリーブのような。光の入り方によって色が変わるのね、』
「ほら、そんな事より名前聞いたらー?」
碧眼の美人が、空を仰いだ姿勢のまま呆れた口調で次の展開を催促する。
「そうね!名前はなんていうの?この島に越してきたんだったら、友達になりましょ!」
シュテフィは予想外の申し入れに一瞬言葉を失ったが、少し躊躇ったあと、赤髪の子のキラキラオーラに押される形でぼそっと名前を口にした。
「……シュテフィ、」
「わぁ!ステキな名前!私はサブリナ。横にいるのがベリル。で、後ろのこれがラズロックよ。あたしたち、いつも一緒なの!」
サブリナに紹介されると、男の子改めラズロックと、碧眼の美人改めベリルが「コレって紹介は無いだろう、」「よろしくー」と、口々に。
和気あいあいとしていて、いつも三人の様子が伺えた。
「ねぇ、シュテフィはどこから来たの?」
『わっ、それは直球……、ユイ加那志、どうする?』
サブリナの無邪気な好奇心が弾けたような笑顔。
しかしその問いにシュテフィが青ざめた。もちろん答えようがない。
「…………、」
『そうだよねぇ、言えるわけないもんねぇ。』
メイシアは、自分がこの島に来た時の事とダブらせる。
メイシアの時は、全てを都合よく受け取ってくれた紅花がいたから助かったが、そうでなければどうなっていたか。
いや、結果は同じだったかもしれないけれど、この島のルールも成り立ちも、島民の素性も分からないのだ。下手なことは言えない。
一度この島に滞在したメイシアですら、未だ何処に地雷があるのか分からない。
ましてやシュテフィは今、丘の上の公園から逃げてきたのだ。
逃亡者だという事も知られては、まずいだろう。
『うーん……そうだなぁ、なんて言おう、』
メイシアが悩んでも仕方がない事なのだが、何かいい方法はないかと思案する。
が、意外なところから助け舟が出された。
ベリルとラズロックだ。
「な、何聞いてんのよ、サブリナ!」
「そうだぞ、この島の人間がそんな事、答えられる訳ないだろう?……な、シュテフィ。」
「えー……、でもぉー!」
「でもじゃないの!この子は本当に。ごめんねぇ、シュテフィ。何の話か分からないでしょ?もうこの話は忘れて。」
「そうそう。そんな事よりオレ、腹減ったわー。なんか食いに行こうぜ。」
頬を膨らませ納得いかない様子のサブリナを無視して話は進む。
「シュテフィもお腹減ってない?一緒に行きましょ。」
「うん。それが良い。おい、行くぞ。」
ラズロックが不貞腐れているサブリナの前にまわって手をさし出した。
「わかったわよぉ……。シュテフィも行こう?ラズがおごってくれるみたいだし。」
サブリナが悪い顔をしながら、ラズロックの手を取り立ち上がった。
「なんでだよっ!」
と速攻手を振り解くラズロックを見て、堪らずシュテフィがフフッと笑った。
(あ、ユイ加那志がやっと笑った。こんな風に笑うのね。……よかった、)
「ほらほら、行くわよ~」
ベリルの先導で、四人とメイシアは町に向けて歩き出した。




