107話 エトランゼ 7/16
「あなた……、大丈夫?」
突然。
聞こえてきたのは、聞き慣れない女の子の声だった。
メイシアが顔を上げると、シュテフィの背中をさすっている女の子がいた。
「うん、ありがとう……、」
「見慣れない子が駆けてるって街の人が噂していたから追いかけてきたの。……どうしたの?何かあった?」
「……べつに何も、」
シュテフィが言葉を濁した。
おいそれと、今体験してきた話をするわけにもいかない。
「とりあえず、あっちにベンチがあるから、行きましょ?……立って歩ける?」
シュテフィは一瞬躊躇したが、小さく頷いて立ち上がった。
メイシアもそれを追って、一緒にベンチまで移動するのだが、女の子の後ろ姿が少し気になった。
(?)
女の子は、快活そうな赤髪の女の子だった。
いつも太陽の下で遊びまわっているのか、少し日に焼けている。
そして気になったのは、何故だか彼女の髪が濡れていて、洋服の背中部分がボトボトだったのだ。
(どうして髪が濡れているんだろう?)
ベンチに腰を掛けたシュテフィに、心配そうな表情の赤髪の子が寄り添う。
「あの……、もう大丈夫です。ありがとうございました。」
「えー。ちっとも大丈夫そうに見えないよぉ、」
どこか迷惑そうなシュテフィに苦笑する赤髪の子を見て、メイシアも苦笑した。
(何を聞かれても、困るもんねぇ……。それにしても、この子の事も背中もびしょ濡れで、風邪をひかないか心配なんだけどなぁ、)
「おーーーーーいっ!」
そこへ、声が響いた。
声の主を確認すると必死にこちらへ駆けて来る。二人いた。
「こっちこっち!」
赤髪の子がそれに気づき手を振った。
(全速力で走って来たのかな。)
二人は到着すると、さっきまでのメイシア同様に膝が崩れるようにしゃがみ込み、肩で息をしながら咽ていた。
なのに赤髪の子は、あっけらかんと言い放つ。
「もー、二人とも遅い!」
「ばかっ!あんたが早すぎるの!私たちが普通!」
一人が絶対言い返したかった事を言うと、また咳き込みゼイゼイ。
「お前なぁ、急に走り出すな。追いかけるこっちの身にもなれ。」
と、もう一人も抗議の後、ゼイゼイ。
「だって、駆けている相手を捕まえるのに、走らないと捕まえられないでしょう?」
二人の抗議も赤髪の子は全く響いていないようだ。
「何を言っているの?」と言わんばかりの不思議そうな顔で宣う。
なので二人は息ぴったりに、大きなため息を吐いた。
「「はぁ~……」」
息が落ち着いたのか、1人が立ち上がるなり仁王立ちで赤髪の子を叱りつける。
「ちょっとぉ。髪をきちんと拭かないから、背中がびちょびちょじゃない!ちょっとそっち詰めて。」
友達のその物言いに有無を言わせない迫力があり、シュテフィと赤髪の子は詰めて座り直し、ベンチに一人分の隙間を用意した。
ベンチは三人掛け。
シュテフィ、赤髪の子、その友達の順で座っている。
メイシアは、その友達の手に髪を拭く用だと思われる布があったので、それで拭いてあげるのかな?と観察していたのだが、どうやら違ったようだ。
「はい。」
その子は当たり前のように、その布をもう一人の人物に差し出した。
「え?オレ?」
布を手渡されたもう一人の友達……、男の子は、これ以上文句を言っても意味が無いと分かっている様で、しぶしぶ布を受け取るとベンチの後ろにまわり、セミロングの赤髪をわしゃわしゃと拭き始めた。
「それを私が運んであげたんだから、拭くのはアンタに決まってるでしょ。」
「へいへい。」
後から来た友達は二人。
先ほどから少し偉そうな口調でベンチに座っている子は、綺麗な女の子だった。
気が強そうな感じが顔に出ているのだが、それを気品と言い換えてしまっても問題が無いと思えるほどの碧眼の美人。
まっすぐで金の糸のように光沢のある髪を、ミディアムボブで潔く切ってしまっている辺り、サバサバした彼女の性格を表しているのかもしれない。
ここに居る誰よりも色が白く、透き通るよう。
その碧眼の美人に指示されて、しぶしぶ赤髪を拭いているのは男の子だ。
一見ヤンチャそうだが、赤髪の子が「ちょっと痛いよー!」と苦情を挟むと「ごめんごめん、これくらいでどうだ?」と謝るあたり、優しい子なのだろう。
無精なのか、少し長くなったこげ茶色の髪を後ろでひとつに縛っていた。
どうやら傍から見るに三人は、気の置けない友達……、幼馴染といった感じだろうか。




