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凛として外道のごとく 『ワレ、異世界ニテ特殊部隊ヲ設立セントス』  作者: 振木岳人
◆ レアンドロ六世の直轄領、その正体 編
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76 白い魔女と黒い魔女 前編


 パルナバッシュの王城である通称「水晶宮」は、建国当時に建てられてから、悠久の時を経て今も燦然と輝いている。

 パルナバッシュの統治が始まって以降、国や王都を揺るがす戦乱が無かったと言うのも理由の一つだが、この水晶宮を含めた建国当初の建造物が、今も尚現役として利用されているのには、魔女によるウィッチ・マジックの効果が主な理由であると言えた。


 この水晶宮もウィッチ・マジックによる影響が随所に見られ、魔力機構による上下水道の完備に空調管理、また屋内の調光管理など多彩なギミックに溢れ、住む者にこれ以上無いほどの快適さを提供していた。

 そしてその水晶宮において、ウィッチ・マジックの最高傑作と呼ばれているのが宮殿中層階の西側に設けられた『エルサの空中庭園』。パルナバッシュが建国されてすぐの事、魔女連合の幹部であった白魔女のエルサが、王国の発展を祈念して建立した庭園である。

 城本体からせり出したデッキ構造の庭園は、魔力永久機関を用いて常に地下水が汲み上げられてアクアリウムを形成しながら庭園の植物に供給される。また排水も垂れ流しではなく、やがて綺麗な地下水となるよう地上の浸透升に排出される循環構造。

 ここで綺麗な草花を栽培するだけでなく、穀物や野菜なども栽培するこのエルサの空中庭園は、一つの循環社会と言っても過言では無かった。


 今の時間は午後の四時、王の謁見で起きた異常事態から時計の長針がぐるりと二周回った頃の事。その庭園に今、宮廷魔女のアンナベッラがいる。

 姉のような存在であるコンチェッタとクラリッチェと別れ、アンナベッラはぼんやりと庭園を眺めつつ、もの思いに耽っていたのである。


 謁見の間から追い出されそうになったコンチェッタとクラリッチェは、王の私事であっても魔女は立ち会う権利があると、顔を真っ赤にしながら宰相マファルダに抗議したのだが、いかんせん年の功で勝るマファルダの理屈と勢いに屈してしまい、呆気なく追い出されてしまった。

 鼻息荒いコンチェッタとクラリッチェは「このままでは済まさんぞ!」と、謁見が終わって退出する王立科学研究所所長のアレクセイ・ボローシンを追跡すべく、あらん限りの式神を繰り出しながら城外へと出て行ってしまった。

 そして式神を扱えず、使い魔しか使役していないアンナベッラは、姉貴分たちが使い魔が捕獲される危険を考慮してくれたのか、彼女だけ留守番を命じられたのである。


 ただ、だからと言って、このエルサの空中庭園で無為な時間を過ごしている訳ではない。アンナベッラは今一番自分が興味を抱いている事、それを解き明かそうと知恵を絞り、そのための時間を費やしていたのである。


「……お待たせアンナベッラ、来たのよ」


 しゃがんでアクアリウムを眺めていたアンナベッラの背中に声がかかる。鼻の詰まったようなその特徴的な声でピンと来たのか、アンナベッラは笑顔で立ち上がって振り向いた。


「お久しぶりですフェデリア、呼び出して申し訳ないです」


 フェデリアと呼ばれたのは、アンナベッラと似たような歳の少女。彼女も西海魔女連合の魔女なのか、彼女もとんがり帽子を被っているのだが、宮廷魔女を務めるコンチェッタやクラリッチェ、そしてアンナベッラとは違い、頭のてっぺんから足の先まで黒一色で統一されている。そこからして、どうやら系統の違う魔女ではと推察される。


「珍しいよね、アンナベッラが私を呼ぶなんて。水晶宮に入ったなんて何年ぶりなのよ私?」

「ごめんなさいです。いつもならフェデリアのお家に遊びに行くですが、お留守番命じられたです」


 わざわざ来てくれた友人のためにと、用意しておいたバスケットを開けて、手作りのメレンゲ焼き菓子、ビスコッティ・アマレッティと、レモネードを振る舞うアンナベッラ。

 フェデリアはさっそくそれを美味しそうにほうばりながら、わざわざ私を宮廷に呼ぶくらいだから、『黒い』関係の事が聞きたいんでしょ? と、アンナベッラに質問を促した。


 社会常識や通念の効かない『魔法』を研究する事に人生を捧げる者、真理の解明を最終到達点として魔法探究を行う者を魔法使いと呼ぶ。

 対して、『魔法』を学術として扱わずに、生活水準を向上させる技術と捉える者を魔女と呼ぶ。魔法使いと魔女、一見同じような存在に思えるが、コンセプトが全く違うのである。


 そして世間一般では、魔女と一括りに呼んでいたとしても、その魔女にも様々なジャンルがある。

 薬草の調合や秘薬の知識に長けた者、風水に長けた者、歴を読み農作物の種植えや収穫の期を教える者など、人々の生活に安定を与えるような魔女を『白い魔女』と呼ぶ。

 そして白い魔女とは対照的に、呪術で人の運命を左右したり、毒物をもって人を苦しめたりと、人々に危害を加える可能性のある危険な存在を『黒い魔女』と呼ぶ。

 この黒い魔女の中には、悪魔を呼び出して契約を要求し、絶対的な魔の力を得る者もいる。つまり白い魔女は平和的で、黒い魔女は攻撃的と言われる由縁である。


 そしてアンナベッラの前に現れた少女、全身黒ずくめの魔女フェデリアは、宮廷魔女として招かれなかった魔女……つまり『黒い魔女』である。

 黒い魔女だからといって、必ずしも人々に敵対的な行動を起こす訳ではない。あくまでも黒い魔女たちは手段として攻撃的なスキルを身につけているだけであり、性格破綻したかのような快楽殺人者ではないのだ。

 それが証拠に、パルナバッシュが建国されてから今の今まで、西海の魔女連合に属する黒い魔女が、何かしらの犯罪に手を染めた事実は一切無い。

 怠惰とモラル破壊、享楽のために生きる魔女もいれば、西海の魔女連合のように義に生きる魔女も存在するのである。


「それでどうしたの?いつもアンナベッラはポワンとしてるのに、今日はいつになく真面目さんね」

「そ、そんなにポワンとしてないです!いつも真面目さんです」


 顔を真っ赤にして抗議するアンナベッラを笑いながら、フェデリアはフワフワの菓子をもっしゃもっしゃと美味しそうに食べ続ける。


「ま、どうせ私を呼んだって事は、その道について知りたい事があるんでしょ?今は機嫌が良いから話しても良くってよ」


 お茶会に呼ばれた訳ではないのは、フェデリアも充分承知している。ましてや、水晶宮内の宮廷魔女の控え室ではなく、霊的加護により盗聴や魔法による透視を一切遮断するエルサの空中庭園に呼び出すあたり、白い魔女アンナベッラの並々ならぬ警戒心を感じていたのだ。

 そしてアンナベッラも、このどことなく陰気さが漂う皮肉屋の親友が苦手とする、煌びやかで明るい水晶宮にわざわざ馳せ参じてくれた事を感謝しつつ本題を切り出した。


「ねえフェデリア、あなたは悪魔を召喚した事あるですか?」

「あらら、やっぱりそっちの話題なのね。アンナベッラも知ってる通りあたしゃ召喚術士だけどさ、悪魔だけは呼び出した事無いわよ。ありゃガチだからタブー中のタブーよ」

「そうですか。ですよね、そうですよね……」

「何があったか詳しくは聞かないけど、話してみなさいな。悪魔分野に関しては、知識だけは豊富なのよ」

「分かったです、しっかり話すです」


 決意したアンナベッラは、小さな声ではあるが誤魔化さずにしっかりと話し始めた。

 今、パルナバッシュ王国の裏で起きているかも知れない王国の危機、魔法と科学の融合で生み出されようとしている大量破壊兵器の存在。

 そして、コンチェッタたちはその事実を掴もうと躍起になっているのだが、個人的に気になってどうしようも無い事など。フェデリアに包み隠さず語ったのである。


「なるほどね。アンナベッラはその情報をもたらしたオレル・ダールベックなる人物が気になると」

「悪魔のようなオーラを放ちながら、それでも自分は悪魔ではないと断定したです。ならば本人が言う通り彼は人間なのでしょうが、人間ならば悪魔のオーラなど発しないですし、いくら異世界転生人と言っても……」

「ふむ、それなら前世で悪魔に転生していた可能性があるわね」

「その可能性もあるですが、詮索するなと怒られたです」


 ──あの、底が見えないほどに黒くそして美しく輝く瞳。まるで全てを見透かすようなその瞳は、世界を丸裸にするように見詰めながら、未来をも見詰めているようです。そしてそれは、いかに人類の歴史は愚劣の積み重ねかと嘲笑っているようにも見えるです。

 人は愚かだ、人はいつの時代も変わらない、人はいつまで経っても進歩しないと罵り、そして人類の過去も今も未来も相変わらずだと笑いながら……何故かそれが、物凄く寂しくて悲しんでいるように見えるのです。


「人類の行く末を笑う者、達観した悪魔、時代背景を感じさせない異世界転生人……か」

「何か、心当たりがあるですか?」

「心当たりってほどでも無いけど、多分そのオレルって人物は、ゲヘナ・ウォーカーなのかもね」

「げ、ゲヘナ・ウォーカー?」


 後編に続く



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