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凛として外道のごとく 『ワレ、異世界ニテ特殊部隊ヲ設立セントス』  作者: 振木岳人
◇◆◇ 第2部 核爆弾開発阻止作戦 編
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57 バルトサーリ爆弾テロ事件 後編


「結果としては街が浄化されたが、警察や公安を無視して動くのは越権行為も甚だしい!そもそも参謀情報部に捜査権限はあるのかね?」

「麻薬組織を壊滅させたのは天晴れと評価するところですが、押収した麻薬の行方が分からなくなったのはいただけませんわ」

「管区警察本部の副署長を筆頭に、大量に殉職した警官たちは、麻薬組織と交戦した結果とされているが、ダールベック中佐が絡んでいると言う噂もある」


 ローセンプラド侯爵も、ライル夫人も、ヤーズフェルト公爵も、ここぞとばかりに参謀情報部と繋がりのあるランペルドを追及する。

 ランペルドはランペルドで、ヘルムート・ラーゲルクランツ少将は間違いなく知人だが、仕事の話などに踏み込んだ覚えはないと全面否定で応戦している。


「ラーゲルクランツとは昔からの仲だから、そりゃあ一緒に飯を食ったり酒を飲んだり、鹿狩りに出たりはするよ。でも仕事の話などした事は無い。諸侯らだってそうだろう?友人とビジネスの話をするかい?」


 三人の貴族としては、ここが攻め所であるのだが、ランペルドもそう易々とは首を縦には振らない。まるっきり嘘と言う訳ではないが、持てる誤謬(ごびゅう)を総動員して、ヒラリヒラリと必死に追及をかわしている。


「マルヴァレフト卿、こんな噂を耳にしましたよ。郊外にある卿の自宅に、怪しい青年が頻繁に出入りしていると。それがダールベック中佐ではないのですか?」

「はて、怪しい青年?今年はまだ誰も私邸になど呼んではいないが。ローセンプラド卿いけませんなあ、その者は私邸に出入りするお抱え業者かも知れないのに。噂程度で怪しいと判断するなら、公国の国民全てが怪しくなりますよ」


 軽やかに笑って疑惑を一蹴するランペルド。ローセンプラド侯爵は詰め切れなかった事が悔しいのか、真っ赤な額に血管を浮かばせて歯噛みしている。


「そもそもですよ。そのダールベック大尉……あ、今は中佐ですか?その中佐が麻薬組織を壊滅させた事、それは公国の繁栄を願う者にとっては喜ばしいのではないですか?」


 笑いながら逆襲に転じたランペルドだが、笑顔とは裏腹に背中に冷や汗を滴らせている。

 この瞬間、今だからこそ、マルヴァレフト邸に変装したオレルが訪れた事を思い出し、オレルの危機管理のセンスに感謝しながらも、私は気にしないよと言い放った自分自身の甘さに悔いていたのだ。

 そして、ランペルドのこの問いに対して、ヤーズフェルト公爵たち貴族諸侯は、ついに沈黙してしまった。世間的・社会的には喜ばしい大成果である麻薬密売組織の壊滅も、貴族側にしてみれば裏金の資金源を絶たれた事を意味する以上、胸を張って「何てことしてくれた!」とランペルドを責める訳にはいかず、悪意ある詭弁で責めるしかないのだ。


「大公殿下、この公国は様々な闇を抱えておりますが、そのオレルなる軍人は闇の一つを切り裂いて国民に光明を示したのではないですか?褒める事はあっても罰するのであれば、公国の事の軽重が疑われますぞ」


 腹の底から絞り出したようなランペルドの言葉に耳を傾けていた大公アレクシス・ヘイデンスタム、その場にいる誰よりも真剣な顔付きでうなづきながら、ランペルドが口を閉ざすとニッコリと微笑みながら貴族諸侯の顔を見回した。


「私もマルヴァレフト卿の言に一理あると考える。警察や軍だけでなく、この公国の様々な業界や階級に顔が効く諸侯らの事だ。手柄を横取りされ面目が潰れたと怒ってくれとでも言われたのだろうが、いずれにしても公国繁栄の功労者の足を引っ張ってはいけない。ヤーズフェルト公爵、ライル夫人、そしてローセンプラド侯爵、私が言わんとする事、分かって欲しい」


 ヘルムート・ラーゲンクランツ少将か。マルヴァレフト卿の友人は良い部下を持った。そう言う事ではないかな?ーー大公の鶴の一声でこの議題は終了、何とかこの場は切り抜ける事が出来た


 表面上は平静を取り繕っているが、内心では大きな安堵のため息を吐くランペルド。

 だが、これで全てが終わった訳ではない。五大貴族の内三名がランペルドに詰め寄ったと言う事実は変えようが無く、さらに噂と言うオブラートに包みながら、相当な確信に迫る情報を掴んで責めていたのは事実。

 正直なところ、闇に蠢く貴族の頂点が一体誰なのかまでは掴めていない。もしかしたら、大公が言ったように、派閥の警察関係者から越権行為で抗議してくれと言われているだけかも知れないし、その可能性も百パーセント否定出来ないである。


(いずれにしても、中佐の活動が難しくなった事に間違いはない。我々は見てるぞ……そう釘を刺されたも同然なのだからな)


 敗北感に包まれ憮然としたままのライル夫人が、沈黙したままの場の空気に耐えられなくなったのか、それでは次の議題に参りましょうと口を開いた時、それは起きた。

 この会議室を外界と遮断する全ての窓がガタガタガタ!と突如小刻みに振動し、それから遅れて数秒……地の底が裂けたかのような、ドォンとした破裂音が聞こえて来たのだ。


「何事かっ!」


 若き闘牛、ヤーズフェルト公爵が立ち上がり、廊下に控える使いの者たちに向かって叫ぶ。

 もちろん、壁一つ挟んだ廊下でひたすら主人の動向を気にするだけの召使いたちに、何が起きたのかなど分かるはずもないのだが、それから遅れて数分の事。大公直属の近衛部隊隊長が血相を変えて現れ、大公に向かってこう報告したのだ。


「御報告申し上げます!たった今、八月宮殿の南門近くにて、原因不明の爆発が発生しました。場所は南門通りの飲食街、多数の死傷者が出た模様です!」


 その報告にどよめく五大貴族

 こののち、ランペルド・マルヴァレフト公爵は心より後悔する事になる。近衛部隊がもたらした驚愕のニュースに驚き、一瞬だけ冷静さを失ってしまった自分の甘さを、ひどく後悔するのである。


 ──あの時、報告がもたらされた瞬間、口元に笑みを浮かべた貴族諸侯はいなかったか?それを自分は何故見逃してしまったのか?──


 この自責の念がが、ランペルドを苦しめる事になるのである。



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