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14 オペレーション・カットアウト


 首都バルトサーリの「どこか」にある、参謀情報部三課の隠れ家、通称セーフハウス。

 石造りのアパートではなく、ログハウス調の一戸建てを購入し、三課の兵士たちの衣食住を提供する秘密基地となっている。

 ゆくゆくはもう一つセーフハウスを用意して、そちらは三課の情報が漏洩した際の緊急避難場所に利用したり、秘匿(ひとく)措置が必要となった要人を匿う予定だと、オレル・ダールベックは兵士たちに説明していた。


 今、このセーフハウスにいるのは五人の兵士たち。

 それぞれが物々しい顔つきで広い居間に集まり、夜の隙間風でオレルランプの炎がゆらゆらと揺れる中、長テーブルを挟んで座り、時が来るのを待っている。


 テーブル左側、一番隅に座るのは突入班の先頭である、ポイントマンのハンネス・ベイロン 。

 オレンジ色の髪とソバカスが特徴的な優しげな若者だが、得意のナイフ格闘術で頭角を現した。オレル中佐からコードネーム『バイパー(ガラガラ蛇)』と名付けられた十年歳、三課で最年少の兵士である。


 その隣、真ん中に座るのは突入班のセカンドアタッカー、ベルテ・エーケダール。

 遥か昔、古い時代にこの地を統治していた騎馬民族の地を色濃く残しているのか、精悍な顔付きと艶やかな黒髪が印象的な二十四歳の女性だ。いざと言う時に変幻自在の二丁拳銃使いにシフトする事から、コードネームは『シルバーフォックス(銀狐)』と名付けられた。


 バイパー、シルバーフォックスと並んで、反対側の一番隅には突入班三番手、ライフルマンのトシュテン・ヨハンセンが座っている。三課で唯一の下士官であるトシュテンは、妻子持ちの三十一歳。下士官としての教育をしっかりと受けて来たのか責任感は高く、突入班のしんがりを行くには相応しい人材となっている。そして、そのずんぐりとした体格から、コードネームは『グリズリー(ヒグマ)』と名付けられている。


 そして、テーブルを挟んで反対側に座るのが、アンネリエとブリギッタのハーフエルフの姉妹。二人一組でスナイパー班として三課に迎え入れられ、仮の名称として「ラプター」のコードネームを貰っていた。


 据え置き形の大きな時計が振り子を揺らして時を刻む中、その時計の内部にあるバネや歯車のきしむ音すら聞こえて来そうな静寂の中、ただただ三課のメンバーたちは「何か」のきっかけを待っている。


 私語禁止を言い渡された訳ではなく、あくまでも自由な時間であるのだが、誰もが険しい表情で口をつぐんだまま。

 しかし、セーフハウスの玄関扉がガチャリと開き、人影が入って来た途端、長々とした苦しい静寂は打ち壊された。


「分隊、気をつけっ!」


 士官と言う事もあり、少尉のトシュテン……つまりグリズリーが仲間たちに起立を求める。


「我らが指揮官殿に敬礼!」


 そう、セーフハウスにやって来たのはオレル中佐。昨晩の拉致作戦を実行したのち、いよいよ今宵、三課は初めての戦闘状況を開始するのである。


「休め、全員楽にしろ」


 軽い敬礼で返礼を終えたオレルは、部下たちに敬礼を解くよう命じる。更には、手のひらを軽く上下に振って、席に座るよう促した。


「これよりチャルナコシカ秘密工場の壊滅作戦に関して、オペレーション・カットアウトのブリーフィングを始めるが、その前に彼女を紹介する」


 オレルは自分の背後を振り返り、そっと手を伸ばす。部下たちが目を見張ったのは、そこに見た事の無い少女がいたのだ。そしてオレルはその少女に、前に出るよう軽く背中を押してやる。

 だれが見ても未成年の少女、それも都会慣れしていなさそうな、田舎の匂いがぷんぷんする青臭い少女だ。


「紹介しよう、彼女の名前はマーヤ・ルンテッソン。彼女こそがコードネーム、マザーズネストだ」


 オレルの言葉の後に、マーヤがよろしくお願いしますと弱々しく挨拶した。

 (ああ!この声、聞き覚えがある!)

 三課の兵士たちは誰もが腹の内でそう唸った


「彼女が我が部隊の通信担当だ。ちなみに今までは試用期間と人間社会への順応期間と言う事を鑑みて、君らと顔合わせはしていなかった。だが今回晴れて軍属扱いとなったので、これからはチームの一員として皆と寝食を共にする。仲間として迎えてやってくれ」


 フェーデル姉妹の隣に座りなさいと、オレルはマーヤに指示しながらも、何か自分が言い足りていない事に気付く。

 照れながらおずおずと座るマーヤを……まだ肩に「ポワポワ」の袖が付いたドレスが似合うマーヤを、三課の兵士たちが珍しそうに見詰め、視線で追っていたのだ。


「君たちに言い忘れた事がある。マーヤ・ルンテッソンは君たちが思っている通り、ホビットだ。ホビット族は念話を通じて動物を使役するビーストテイマーを多く輩出している。その念話に私は着目して辺境にいた彼女をスカウトした」


 常に冷静沈着で冷たい空気を漂わせるオレルだが、この時珍しい事が起きた。

 三課の最年少であるバイパーに視線を移し、悪戯っぽい笑みを口元に浮かべたのだ。


「自分たちの方が年上だ、自分たち人間の方が格上だと思って、彼女をないがしろにするな。逆に、彼女ならチョロイだろうと思って気軽に言い寄って愛を迫るな。この中で彼女が一番年上とだけ言っておく」


 そんな事しませんよと顔を真っ赤にしながら左右に振るバイパー。他の者たちはジョークと受け取り一瞬だけは笑うのだが、たちまち真顔になって自分を律し始める。

 ──民族・人種に一切とらわれない、実力主義の戦闘部隊。それが参謀情報部三課──

 自分たちがその一員である事を思い出したのである。つまりは、このホビットの少女も、実力を買われてここにいるのだと悟ったのだ。


「それと君たちに報告がある。昨晩我々が拉致して、そして今朝方君たちが中央公園で二課に引き渡した、公認会計士のカールハインツ・ヘッケンだが、夕方になって他殺体で発見された。南区の水路で発見されたそうだ」


 オレルの言葉にざわつく兵士たち。

 チャルナコシカの秘密工場の全容を自白する代わりに、身の安全を保証したのは三課の自分たちであり、いくら身柄を他の部隊に引き渡したからと言っても、その日の内に殺されてしまうなど後味が悪くてしょうがない。


「ちなみに、麻薬組織チャルナコシカ側に警戒の動きが無い事から、カールハインツの死は組織には伝わっていないものと考えられる」


 オレルの説明を受けて、何かしら思考の迷路にハマり始めていたシルバーフォックスが、モヤモヤが我慢出来ずに手を上げ、オレルに質問の許可を取る。


「つまりカールハインツが情報を提供した事で、麻薬組織を裏切った事実はヤツらに知られていないと言う事ですよね?」

「その通りだ」

「そうなれば……我々の中にカールハインツの抹殺をした者がいると?」

「シルバーフォックス、表現が適当ではないぞ。まずカールハインツを殺したのは我々じゃない。そして我々じゃないが、我々の側がカールハインツを闇に葬ったのだ」


 ──自分たちが直接身柄を引き渡した、参謀情報部二課か、もしくは二課が身辺警護を依頼して彼を保護した首都公安警察か──


「中佐!それじゃあ中佐の命も危ないじゃないですか!」

「そうです!中佐はわざわざ自分の名前をアイツに教えていた。もしアイツから中佐の名前を聞き出したヤツがいるなら……」


 昨晩の拉致の光景、カールハインツに名前を名乗ったオレルの姿を思い出したフェーデル姉妹は、血相を変えてオレルの身を案じる。しかしオレルはあくまでも涼しげな顔付きだ。


「そうなるために名乗ったのだよ」

「中佐?」

「公国の屋台骨である首都バルトサーリにおいて、麻薬密売組織たちが我が世の春を謳歌している。取締りを厳しくしても、絶対に組織の壊滅は無い。つまりは我々の側に裏切り者がいるんだ。だから私はわざわざ名前を教えてやったんだよ、お前らの敵はここにいるぞと」


 シンと静まるリビング

 冴え渡る洞察力も大したものだが、自分を的にしてでも敵を見つけだそうとするオレルの執念に、兵士たちは巨大で圧倒的な恐れを覚えたのだ。


「そう簡単にやられる私でも無かろう。何故なら、アムセルンドの名に忠誠を誓う、勇猛果敢な真の戦士たちが私の味方だからな。違うかい?諸君」


 この一言で兵士たちの気持ちは引き締まった。

 自分たちが頼りにされる兵士である事を誇りに感じ、腹を据えたのである。


「よし、皆良い顔になって来たな。それでは、オペレーション・カットアウトのブリーフィングを始めるぞ」


 オペレーション・カットアウト、作戦名「切り抜き」

 この作戦名をもって、参謀情報部三課は非正規作戦として戦闘を行うのだ。目標はもちろん、麻薬組織チャルナコシカの壊滅である。



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