激闘マーシャル
初めての機動部隊
お使いは成功するのか
マーシャルに向かう第一機動艦隊であったが、不安はいっぱいであった。
マーシャルと本土の間に拠点がサイパンしか無かった。しかも大してデカくないのである。つまり緊急避難先としか使えそうに無かった。
なぜサモアからと思うが、ハワイでは監視がきつくて攻略用大輸送船団と護衛艦隊など組めばすぐに判ってしまう。だからハワイ経由でサモアなのだろうと思う。
サモアからソロモン海へ出て通商破壊戦をやる方が効率は良いと思うのだが、奴らの考えは違うのだろう。
オーストラリア周辺やソロモン周辺で軍事活動をすればオーストラリアやイギリスが驚異と思うだろう。
マーシャルに基地を作ってしまえば、マリアナ諸島まで近いしな。迷惑な話だ。
多分奴らの輸送船の中身は建設資材が大部分なのだろう。
実戦経験者がいない。いてもスペイン内戦を経験した者で艦隊戦などやったことも無い。その点では奴らも同じだ。奴らも不安なのだろう。奴らも拠点はサモアかハワイしか無いな。なんだ同じじゃ無いか。
「発艦訓練始めます」
「宜しい。訓練開始だ」
「発艦始め」
第一機動艦隊では訓練をしながらゆっくり進んでいた。火龍・雷龍・瑞鳳・龍鳳の4艦の艦長からは、揮発油残量に不安があるので訓練は控えめにして欲しい旨の上申が来たが、司令長官は油槽船が随伴していると言う理由で却下した。
白い蒸気を引きながら各機体が発艦していく。練度を少しでも上げれば勝ちに近づく。そう信じて訓練をするしか無かった。
ゆっくり進んでも、奴らは逃げない。いや、逃げることが出来ない状況にするためにゆっくりと進む。
マーシャル諸島に飛行場適地は少ない。建設するなら建設中を襲うのが一番良い。
軍令部の判断では、クェゼリン環礁とエニウェトク環礁くらいしか飛行場適地が無いと言うことだった。
メジュロまで1000kmという地点で最後の補給を済ませ、油槽船と補給船は護衛駆逐隊と共にサイパンまで後退させた。
すでに接触していた潜水艦の内、数隻と連絡が取れなくなっている。やられたのだろう。
こちらも周辺から不審電波が発信されたこともある。お互いに出方を探っているのかも知れない。
昨日から索敵機を出しているが何も発見は出来なかった。行方不明も無いと言うことは敵もいないと言うことだろう。
もう少し踏み込まなければダメか。
メジュロまで三百海里の時点で索敵機が敵機を発見した。こちらが発見されたかどうかは判らない。敵は近い。
昨日に引き続き不審電波が発信されたが、電波源であろう潜水艦はこちらの駆逐艦によって撃沈された。一隻とは限らないので引き続き警戒を厳にするよう引き締める。
「さてどうする」
「踏み込むかどうかですか」
「もちろん踏み込むが、どの程度まで行くか決めよう」
「そうですね。案は二つです。一つ、空母艦載機に全部任せる。二つ、戦艦と巡洋艦で艦砲射撃をする」
「その二つか。他には?」
「まあこの二つしか無いな。で、どうする」
「敵艦隊の行方が判りません。輸送船団は潜水艦が接触を保っていてくれていますので判ります。おそらく空母を含む艦隊です。この艦隊の所在が判らない限り輸送船団のみを狙うのは危険と判断します」
「索敵機を増やすか」
「しかし、それでは攻撃力が減ります」
「見つけなければ攻撃も出来ないだろう」
「索敵攻撃をすれば」
「君は何を言っている。索敵攻撃などと言うのは運を天に任せるが行為では無いか」
「司令長官、索敵機を増やしましょう」
「増やすか。そうだな増やそう。航空参謀、各艦宛て索敵機の割り振りと索敵計画の立案を頼む。本艦と瑞鶴に積んでいる十三試艦攻も出そう。アレは速いと言うことだからな」
「増加試作機ですよ。不安がありますが」
「攻撃に参加させる方が、なお不安だろう。索敵に出してしまえばいい」
「了解しました」
「千歳と千代田の水偵も全部出させろ。敵艦隊が発見された後、千歳と千代田は護衛駆逐艦と共に後退させる」
「了解しました」
翌日、索敵機が次々と発艦していく。昨日の3倍近い密度の索敵線だ。これで見つからないと言うことは無い。と思いたかった。
「敵艦発見という一報が来ませんね」
「どこにいるのかな」
「本当ですね」
その日は見つけることが出来なかった。
翌日、再び同じ規模の索敵を掛ける。今度こそと言う思いは強かった。
索敵機発艦後、空母を含む艦隊発見と言う通信が潜水艦から発信された。通報時点からどのくらい移動しているか判らないが、通常の艦隊巡航速度なら索敵圏内だった。
待望の通信が入電した。だが、敵機にやられたのだろう。「空母四戦艦二」で通信は切れた。無事を祈るのみだ。
「攻撃隊を出しましょう」
「いや遠い、三百海里近くある。戦闘機と艦攻はいけるが、艦爆が帰ってこれない」
「ならいける機体だけでも」
「ダメだ。機数が少なくなる。迎撃されて損害が増えるぞ」
「司令長官、判断を」
「出さない。明朝天文薄明前に索敵機全機発艦。見つかるまでは待機」
「了解しました」
天文薄明前から発艦して行く索敵機。今度こその思いは昨日以上に強い。
本命の索敵線には十三試艦攻を入れた。水偵とは違いある程度逃げ切ることが出来るだろうという可能性に掛けた。
「司令長官。電波管制の解除をお願いします」
「長官、ダメです。電波を出せば見つかってしまいます」
「電探を使って、敵機を早期に見つけましょう」
「電波が見つかったらどうする」
「こちらの存在は相手も判っています。お互いに判らないのは位置だけです。早期発見こそが全てと本官は愚考します」
「しかし、まだ敵に見つかっていません」
「電探を使う。各艦に電探使用の許可を出せ」
「各艦に通達します」
「信号、各艦にオルジスで通達。「電探の使用を許可す」以上だ」
「了解、各艦に通達「電探の使用を許可す」」
各艦で電探が使用され始めた。
この時期、電探が装備されているのは、戦艦全艦、空母全艦(赤城と加賀は付けている最中)、直衛艦全艦、巡洋艦と駆逐艦は、新造時または定期整備の時に随時取り付けられた。
電探の技術だが日本は出足(研究開始が遅かった)で遅れており、満足の行く性能の物は作ることが出来なかった。そこで電探先進国のイギリスから導入を考えた。様々な交渉の末、八木・宇田川アンテナとスーパーマグネトロン管の技術を提供することで、技術導入が出来た。
上記二つの技術の提供でイギリスの電探技術は上がり、日本もその恩恵を受けることが出来た。恩恵の一つPPIスコープが輝点を映し出した。
「こちら電探、一一時の方向距離四十海里に機影」
「電探、敵か?」
「敵です」
敵味方識別装置も恩恵の一つだった
「オルジスは届かんな、隊内無線を使用する。通信、旗艦につなげ」
「こちら阿賀野、十一時の方向距離四十海里に敵機」
「こちら阿賀野、更に機数増える。接近中」
「こちら翔鶴、了解」
「阿賀野の奴勝手に無線を使いました、罰せねばなりません」
「なぜだ、阿賀野から本艦は見えんだろう。敵発見に無線を使うのは当然だ」
「本艦も機影を確認。一一時の方向距離四十海里、敵です」
「直援機の発艦急げ。敵機が来るぞ」
直援機が発艦していく。電探による誘導を受け敵機に肉薄していく。機数が少ない、索敵機だろう。
電探が敵機を発見しても高度が違っていたり方位の指示ミスや航法の誤りなどもあり、接敵出来なかった機体が迎撃網をすり抜けてきた。
対空砲火が炸裂するが、敵機は電波を発し続けていた。結局撃墜は出来ず敵機は逃げていった。行きがけの駄賃とばかりに投弾したが、狙ったものでは無く被害は無かった。
「砲術参謀、無線を使用していなければ、迎撃が遅れ攻撃を受けていたかもしれん。もっと臨機応変な精神で挑め。出なければこの戦争は勝ち抜けんぞ
「は、判りました。しかし」
「索敵機より入電。空母2隻・戦艦2隻・重巡他を含む艦隊、方位***を***へ航行中。速力二〇ノット」
「来たか。少なくないか」
「索敵機より入電。空母2隻・戦艦3隻・重巡他を含む艦隊、方位***を***へ移動中。速力二〇ノット」
「出てきたか。艦隊を2分しているな」
「攻撃隊はどうしますか。両方に出しますか。片方だけにしますか」
「どうするかな」
「本職は両方は止めるべきかと考えます。古来二兎を追う者は一兎をも得ずと申します」
「二兎は追わぬが花か。よし、最初に発見した艦隊に攻撃を掛ける。各艦直援機を残し、対艦装備にて発艦」
「最初の艦隊を甲、2番目の艦隊を乙とする。本艦隊は甲に全力攻撃を行う」
「追伸です。甲はヨークタウン級2隻、艦型不明戦艦2隻、大型巡洋艦4隻、駆逐艦12隻、現在発艦冲」
「乙はどうなった」
「その後入電ありません」
「他の索敵線の機体を回せ。乙に付ける」
「甲に付いている機体は十三試艦攻です。やりますね」
「そうだな。これで索敵機には速度が大事だと言うことが判った。水偵の時代はもう長くないのかもしれん」
「入電です。輸送船団は向きを変えました。北東の方向に向かっていると言うことです」
「北東か、ハワイなのか」
「一時的に待避しているだけかも知れません」
「追撃する。第一目標だ。敵空母発見の報に目的を忘れかけた。敵空母を無力化した上で、輸送船団を攻撃する」
「輸送船団まで二百五十海里です。駆逐艦など燃料不足で追い切れないかも知れません」
「航海参謀・機関参謀、どうか」
「最後に補給をしてからまだ五百海里も来ていません。油はあります。しかし、追撃速度が速ければ五百海里で諦めないといけないかも知れません」
「輸送船団と我々との間に敵艦隊がいます。敵艦隊をどこまでやれるかですね」
攻撃隊の準備は出来た。次々に発艦していく。手空きの者は帽振れで声援を送っていた。
「電探に反応、敵編隊接近中。方位***距離八十海里」
「直援機を上げよ。電探にて誘導する」
「直援機上げます」
「直援機全機ですか」
「いかんか」
「止めるべきかと、半数は上空に残すべきです」
「そうするか。瑞鳳・龍鳳を迎撃に回す。他の直援機は上空待機」
「了解」
敵機は、五十機程度の編隊が4個梯団でやって来た。4隻から二百機、これをしのいでしまえば、次の敵の攻撃は規模が小さくなるはずだ。
激闘と題しておきながら、最後に攻撃隊発艦で終わってしまった。
四千文字前後というペースを守りたいと思いますので、お許しを。




