東西関係
まだ開戦しないんですよ
バックグラウンドばかり長くて申し訳ありません
正和一四年夏頃からアメリカ合衆国の嫌がらせかと思うような外交や、貿易規制、新聞社・雑誌・ラジオのメディアで急に日本たたきが増えてきた。
もちろん理性的な声も聞こえるが、日本たたきをする者の声の大きさに埋もれていった。
理由は、日本政府首脳部には思いつかなかった。
アメリカの領土を脅かしたわけでもないし、金融でアメリカ市場を荒らしたわけでもない。
金融については怪しい人間がいるが、本人曰く「向こうのルールに従っている。納税もきちんとしている。何が悪い」
技術水準は一部を除けば全体的には向こうの方が上だ。産業スパイなど、お互い様だろう。
不法移民などしていないし。
わからなかった。
ある日、政府に一人の教授がやって来た。国際政治学だそうだ。
「アメリカは日本が邪魔なのですよ」
「邪魔とは」
「大陸とアメリカの間に何がありますか。日本です。千島・樺太から台湾まで、日本は大陸の蓋になっているのです。壁でもいいでしょう。アメリカが中国や東南アジアに大々的に進出するには、大きな足掛かりが必要です。我が国はその位置にあります。経済的には、我が国を支配できないでしょう。政治的にも無理です。宗教的手段など執ろうものなら。残る手段は一つです。」
「戦争ですか」
「そうです。アメリカは物を作りすぎます。そして作った物は売らなければなりません。その販売市場で有望なのが中国です。その膨大な人口はさぞかし輝いて見えるでしょうね。ただ、現在アメリカは中国市場でほとんどシェアがありません。一番大きなシェアを持つのはどの国ですか」
「我が国ですね。次いでイギリス、ドイツ、フランス、ロシアとなってその後ろにアメリカですね」
「ではアメリカが一番になるために、どうすれば良いのでしょう」
「我が国を始めとする国々を排除するか支配するしかないですね」
「それが判れば、後はなぜこうなったかが判るのではないでしょうか」
「もう取り合うパイは無いというのに」
「遅れてきた植民地主義とでも申しましょうか」
「ありがとうございました。判った気がします。後はどう対応するかですね」
「そうです。私も国民の一人として我が国の未来を信じております」
「お任せください。必ず未来を守ると誓います」
政府首脳は苦慮した。
「ひどい話だ」
「その国際政治学者が、アメリカの回し者と言うことは無いかな」
「無いと思う。公安に調査させてみた所、一切アメリカとの痕跡は無かった」
「昔は話せば判る相手だったのに」
「あの大恐慌以来、話しがたくなっているとはいえ会話は出来ていた。ここに来て会話が出来なくなってきたのは、中国市場を狙っているせいか」
「回避は出来るのか」
「出来ると思うか。ここまで勢いを付けてしまったのだ、無理だろう」
「他に狙いを摺り付けることの出来るような国はないかな。無いな、摺り付けは諦めよう」
「戦争か、あのフランス人の言う通りになったな。二〇年の偽りの平和か」
「腹をくくるしかないのか。まだ出来ることはないか」
「軍備はどうする。向こうがやる気なのだ。こちらも対応できないとあっという間にやられるぞ」
「裏付けは取れたのか」
「向こうの情報が最近とみに入りづらくなってきているのは知っていると思う。その中で、いくつかの情報筋からの知らせだと、産業界が政府に強く働き掛けている事があるらしい。おそらくそれが日本への対応だと思う」
「その情報筋の確度は?」
「政府上層部とOBだ」
「信じられるか?」
「意図的にリークしている可能性もある。日本が先走って外交的な間違いを起こすようにな」
「紛争を回避したくてリークしてくれているのか、こちらのミスリードを誘うためなのか判断が付きかねるな」
「このままでは小田原評定だぞ」
「我々の方針を決めよう」
「そうだな。可能性が無い訳ではない。可能性が有るのなら対応するのが我々の仕事だ」
まず、アメリカ国内の動向を細かく分析することになった。今までもやっていたが、政府広報や企業の発表・新聞記事が主な情報収集先で、真面目にやっていたとは思えなかった。
「まあわからん気がしないでもない。太平洋を挟んで1万キロも向こうの国が仕掛けてくるとは思わんよ」
「間に有るのは小さな島だけだ。恒久的なデカい基地を作ることがで出来そうなのは、マリアナ諸島とハワイだけだ。そのハワイは、対米感情は悪い。ハワイに基地は作れないだろう」
「マリアナは現在日本だし」
「やはり、普通の人間は仕掛けてくるなんて想像できないよ」
「どうする気なのかな」
「デカい船団組んで、どこかの島を攻略・基地化、補給は船団で」
「どんだけ、金掛かるんだよ」
「そうだよな、でもデカい船団なら、動く物資の量も半端じゃないはず。物資の量を追ってみるか」
様々な手段で情報収集に走る日本。
「今、中国で内戦をしているよな」
「中華民国と共産中国な」
「共産中国はソビエトと仲がいいと言うよりはソビエトの弟分だ」
「両方でモンゴルを脅して両者の物資や人員を素通しさせているんだが、その中にアメリカ製の物資が在るらしい。武器ではなく医薬品のようだが」
「それがいつ武器になるか判らないと言うことか」
「でもどこから運び入れてるんだ」
「サンクトペテルブルクまで船で、そこからは鉄道だよ」
「そう言えばニコライ2世がずいぶん頑張って鉄道を引いていたっけ」
「ニコライ2世はどう思っているかな。自分が苦労して引いた鉄道を、我が物顔で奴らに使われるのを」
「面白いわけ無いさ。なんて言ったけ、昔ソウルだった所、ロシア風の名前になっているけど難しくて覚えられない」
「覚える気が無いだけだろ、************だ」
「長いよ、ロシアの地名でもチタとかは良いね。覚えやすい。まあ、その元ソウルでニコライ2世が何を考えているかは知らんが、どうもロシアの大地が懐かしいらしい」
「こっちの方が暖かくて良いんじゃないか」
「やはり故郷があんな銀行強盗どもに支配されているのがいやなんだろう」
「でも奴らの銀行強盗下手だよな。スペインの銀行強盗は日本とフランコ総統で捕まえたし」
「ああ、アレは国内で話題になった。痛快だと。火事場泥棒を許すなと」
「あの事件のおかげで、日本でアカが大分減った」
「で、そのアカなんだが合衆国政府内に結構いるらしい」
「ネタ元は」
「イギリス政府」
「信じていいのか、イギリスだぞ」
「いいんじゃないか、奴らだって中国市場は大切だ。そこにアメリカが大々的に進出するなんていやだろう」
「そうだな、大衆車以外はほぼ製品がかぶるしな」
アメリカ国内の情報源に「合衆国政府部内に共産主義者が多数存在するらしい」と、遠回しに伝えた。情報源をたぐられても判らないとは思うが、判ってしまっても問題ない情報の筈だった。そう、筈だった。
正和15年年明け。
「海軍は、12年計画で建造中の船が次々と完成してきます。問題は人員です。ただでさえ人手不足の折、更に艦艇を増強しろと言われても、船は有っても人がいないという笑えない状況になりかねません」
「陸軍は、対外戦争は想定してあっても戦力がありません。あのヨーロッパの大戦で、死にすぎました。師団数を自主的に削減しても、未だ定数割れしている状態です」
「どちらも人がいないと」
「そうです。しかしこれだけ言うと言うことは戦争を覚悟しろと言うことですか」
「そうです。情報を様々な方向から入手しました。日本を狙っている可能性は高いです」
「どうやってきっかけを作るのでしょうね」
「日本も戦国時代は盛んにやりました。でっち上げです」
「でっち上げですか。そう言えば、米西戦争になったきっかけもでっち上げでしたね」
「警戒しないといけません」
「陸軍は海外に展開していないので、国内でアメリカ国籍の人間を傷つける事だけを注意していれば良い
ですが」
「海軍は、艦艇が各地にいますし、要注意ですね」
「もし戦争になれば、国家総動員法を布告します」
「「国家総動員法ですか?」」
「そうです」
「「本気で?」」
「本気です」
「もしそうなら徴兵制復活ですが、国民の理解は得られるのでしょうか」
「得て見せます。負ければ明日はありません。属国はいやです」
「そうですね、海軍は内部体制を整えることにします」
「陸軍も同じくです」
「よろしくお願いします」
「「我々の存在意義ですから」」
陸軍が出来る事は限られていた。おそらく上陸は無いという勢力が優勢だった。アメリカ軍の勝利条件は簡単だった。日本を封鎖すれば良かった。それで日本は干上がる。上陸して大量の血を流す必要は無いのだ。海軍に勝ち、日本の航空部隊を潰して、艦砲射撃をすれば、最後の一人まで等という馬鹿も黙るだろう。
陸軍の方針は、航空部隊の増強と離島の強化に尽きた。アメリカの艦艇が本土の海岸から見えるようではもう終わりなのだ。少なくともマリアナ諸島と小笠原あたりで阻止しないと、勝ち目はない。海軍の戦いだった。
陸軍も海軍もまずは人員強化であった。人が足りなかった。完全志願制では、軍は不人気にならざるを得なかった。一番簡単に人を増やすには棒給を上げることだが、以前産業界から顰蹙を買った事があるので、出来なかった。
今産業界を敵に回すわけには行かなかった。
現役も予備役も伝をたどってとにかく声を掛けた。完全に退役した者にまで声を掛けていく有様である。
予想される開戦まであと3年半前後、正和18年夏前後。
これは双方の軍備の増強具合から判断したもので、政治とは別だった。3年半後にはアメリカ海軍の艦艇数は太平洋側だけでこちらの5割増しに成り、数の力で押し切られるだろう。と言う海軍の判断だった。
政治や国民感情などを考えない、机上演習的思考で行けば今からでも遅くないと言うか先に行くだけ勝機は薄くなる。
1年後に就役が予定される大型空母2隻と小型空母3隻。他数隻の艦艇。その時点で一時的にアメリカ海軍太平洋艦隊の戦力を大きく上回ることが出来る。戦力化まで半年。その時点での開戦がベストだった。
主戦場の判断は意見が分かれた。ハワイ周辺か、ソロモンからニューギニアか、中部太平洋か。いずれにしてもハワイがなければアメリカ海軍は出てこれないだろう、と言う判断は共通していた。
政府もハワイが重要な地点であることは承知していたし、ハワイ王国も同様であった。アメリカが軍備の増強を始めるとハワイ王国は国内の監視を強めた。
アメリカのやり口は判っている。難癖を付けるか、でっち上げるかだ。だが、観光収入が主要な財源になっている現状では、アメリカ人を閉め出すわけにはいいかなかった。経済的にはアメリカにかなり依存していた。
ハワイ王国内では意見が分かれていた。あくまでも抵抗を主張する者と、かねてから申し込みのある真珠湾の貸与を許可しようという者だった。
結局真珠湾の貸与を決定した。これには日本政府も仕方が無いと諦めるしかなかった。ただ、真珠湾周辺が戦場になる可能性は伝えておいた。王国側もそれはリスクに含めてあったが、王国がアメリカになるのは更にいやだった。国際的にもこの貸与条約は発表されて大きな驚きをもって迎えられた。
正和一五年冬だった。
1話で、ハワイはアメリカになっていないのに、ハワイのエアカバーなどおかしいじゃないかと思われた方。こう言う裏があったのですよ。
元ソウル、ロシア名************だ」作者の頭では、名付け出来ませんでした。キーボードの打ち間違え多発案件ですし、ロシアの地名は。
あまりキーボードを使わなくなってから三年、机の上の飾りに成り果てていたリアルフォースが快調です。あとはATOKが言うことを聞いてくれたら。
日本語FEPはWXGが最高だと未だに思っている作者です。




