来た のか まただと
一二試の開発は難航するのであった
8/4 一部修正
一二試艦戦の基本計画は出来上がった。
三百ノットなんて夢。
一千五百海里+全速三十分は出来ます。多分主翼の三分の二は燃料タンクかな。増槽も二百Lでは無く三百Lで。
高度五千まで六分。夢のまた夢、遙かなる幻成り。八分ならなんとか。
防弾?二号艦攻の人に聞いてきました。
防弾装備だけで四百kg近いよ。
胴体内燃料タンクに防弾すると容量がかなり減るのでなくして、主翼の奴を大型化しました。
武装ですが13mm胴体でないとダメですか。7.7mmよりデカいんで、操縦席を後ろに下げないといけないんですが、そうすると着艦時の前方視界が悪くなると思うんですよ。
エリコン20mmFFLこんなデカいんですか。FFSだと更にデカく重く反動がきついと。
今度はバルーン効果はありません。ほんとです。
翼面荷重が高いので、着陸速度は速いです。翼面荷重ですか、160kg/㎡くらいです。
と言う内容をオブラートに丸め込んだ報告書を航空本部に持って行くのだ。
ねえ、誰かご一緒しませんか。
え?忙しい?僕も忙しいのですよ。
東大航空研究所のTA500番台の翼断面が良さそうだから、模型を作って風洞実験?
NACAの翼型もいくつか試す?
お願いですから誰かいっしょに文句言われてください。胃が痛くなりそうです。最近抜け毛も多いんですよ。
責任者なんだから、しょうが無いですね。誰ですか、そんなこと言う人。
早く行け?なんと会社が飛行機を用意?そんなうるさかった?横空にはもう連絡済みだから早く行け?復座だから一人しか乗れないぞ?
三菱航空機岐阜製作所は今の岐阜県各務ヶ原市に有る。名古屋周辺が良かったのだが、滑走路と工場用地で二千メートル×一千メートルを確保したかったので、名古屋周辺では無理であった。
地主や周辺の農民と苦労して交渉し出来上がった三菱航空機岐阜製作所だが、なぜか北側に海軍と陸軍の基地と当社と隣接する側に小さい滑走路が申し訳程度に出来た。
うん、滑走路貸してではなく貸せですね。海軍・陸軍とも少し後ろめたいのか、滑走路の整備などに人を出してくれます。
九八式陸上偵察機じゃないですか。エンジンを瑞星に乗せ替えた奴じゃないですか。やだ、そんなに早く横空へ行けと。へ?それは横空で試験する奴だ。帰りは東海道線の鈍行ですと。
航空本部に到着、報告書を提出するか。何言われるかわからないが。
「そうか、それが君たちの出した結論ではないな、推定性能か」
「はい、そうです」
「何がいけないのだろうね」
「一番は航続距離ですね。燃料と防弾タンクでかなりの重量になります」
「一千五百海里では無理か」
「一千五百海里だけならなんとかなると思いますが、+戦闘三十分が」
「ん?戦闘三十分?うちはそんな要求出していないぞ」
「しかし、当社が受領した性能要求書には、そうなっていました」
「なに、おかしいな、そんな要求は出していないが。おい、大尉、性能要求書の控えを持ってきてくれ」
「了解」
「ほら見てみなさい。これが性能要求書だ。戦闘三十分などどこにも書いていない」
「本当ですね。では当社が受領したのはなんなんでしょうか」
「おかしいな、実際に見てみる必要があるな。大尉、横空に連絡機の用意をされてくれ。4人乗れる奴を。行き先は岐阜だ」
「了解です」
これは帰りも空で帰るのか。東海道線の鈍行の筈がうれしいじゃないか。しかし、今度は九十六式陸攻か。その日のうちに会社へ帰ってきたのでみんな驚いている。そして会議室に。
すでに連絡が入っており、受領した性能要求書が出されている。
「なんだこの性能要求書は。誰が改ざんしたのだ。おっと、すまない、これは内部の問題だった。あなた方には関係ないです。直ちに調べます」
「こちらの要求した航続距離は巡航一千五百海里のみです。それで設計をお願いします」
それでは失礼と言って海軍さんは帰っていった。あちらに問題があるとさすがに低姿勢だな。
戦闘三十分を除くとさすがに推定性能も上がってくる。それでも足りないが。
それからは開発の日々だった。
この翼断面は抵抗はすごく少なくて良いけれど、少し迎え角が付くと容易に気流が剥離するとか。着艦姿勢の三点姿勢くらいの迎え角で容易に気流が剥離するという危ない翼型だった。
相当推定性能も上がってきた。
今では
速力 二百八十五ノット
航続 一千五百海里(三百L大型増槽×1個装備)
上昇力 五千まで七分
まで上がってきていた。
防弾関連では、新たに開発された自動消火装置の搭載。
海軍さんが要求を下げてくれて、外翼設置の巡航用タンクは消火装置だけで防弾は無しで良いことになった。
上昇力も機内燃料満載ではなく、巡航タンク分はマイナスにしてくれた。
何か海軍さんが優しくて怖い。
軽量化も怠りない。私は一gでも軽量化する男なのだ。ここ穴開けても大丈夫かな。計算上は大丈夫。くっくっく、また穴が増えたぜ。工数が増える?知らん。性能第一だ。
機銃の設置位置だが、胴体銃は命中率が良いので付けたいが、操縦席が後ろになる事で着艦姿勢での前方視界が問題になり、主翼取り付けとなった。20mmの外側である。
ついにやって来ました。モックアップでの審査。
海軍から数人来ている。デカいな。はい、九十六戦より一回り以上デカいです。デカいがスマートで良いじゃないか。機銃はここか。主翼外側が重くなるけど運動性能はどうなんだろうな。
皆勝手なことを言っております。概ね外観の評価は宜しいようです。
モックアップ審査は概ね好評で終わった。
一通り治具類も完成し。いよいよ荷重試験機の製作です。試作工場の人たちも、デカいね、ほんとに戦闘機かい。等と言いつつ組み立ては正確でさすがです。
荷重試験とは、機体各部に荷重をかけていき計算通りの強度が出ているかどうかの確認です。
方法は翼端に錘をぶら下げて錘を少しずつ増やしていく。
無事荷重試験も終わり、試作機製作です。
正和十四年晩秋、ついに試作機完成。そしてお披露目。大勢来ているな。皆好き勝手な感想を言う。一番多いのは、デカい。しょうがないじゃん。次がスマート、うれしいね。
当社テストパイロットによる地上走行から始めだ。
地上走行ではブレーキの効きが甘いという指摘を受けた。方向舵の効きは地上滑走では問題ない。ブレーキの容量アップと。
いよいよジャンプ飛行である。滑走を始め、おー少し浮いた。初離陸です。
この日は、ジャンプ飛行で終わりだ。舵の効きは特に問題ないらしい。
皆駐機場の機体に群がっている。海軍の搭乗員が操縦席に入り込み、デカいが視界は良好だな。とか、この計器配置は・・・とか言いながらじっくり見ていた。
翌日、足出し飛行である。主脚を格納せず、飛行場の上を周回するだけだ。
おお、飛んだ。うん姿勢も安定している。良いね。予定通りの周回を終え、着陸した。
バルーン現象も見た目にはない。
テストパイロットに話を聞く。
「補助翼の効きが良すぎる、あれでは怖い。もう少し弱くならないか」
「良い方がいいのでは?」
「気を付けていればいいが、そんなに疲れる飛行機はいやだぞ。あれでは油断すると、スピンや失速につながる」
困った。低速での機動性を上げようと補助翼が効くように設計した。効き過ぎるとは予想外だった。
これは問題である。設計陣とテストパイロットで相談だ。結局、補助翼周りの設計の見つめ直し(再設計とも言う)することになった。
いろいろ意見が出た。補助翼の面積を減らす、と言うのが多かった。一番実効性が高そうだし。20cm・40sm・60cmと翼幅を減らしたものを製作し、試験することになった。
低速低空での安定性は非常に良い。九十六戦を上回るかも知れないとの言。補助翼の再制作まで試験飛行は中止となった。
数日後、再制作された補助翼と、追加の試験機が出来てきた。一機は海軍北基地に引き取られるそうだ。機銃の実射試験を行うためだという。なぜか陸軍さんまで来たので不思議がっていると、13mmは陸軍のものだそうだ。
海軍北基地というのは、岐阜工場北の海軍基地のことであり、正式名称は有るのだが長ったらしくて誰も言わなくなった。通称、海軍北基地である。陸軍はやはり、陸軍北基地である。
補助翼であるが、20cmはまだ敏感であり、扱いづらい。40cmは穏やかであるが反応はそれなりに良い。60cmは鈍い。結局40cmになった。
何か海軍北基地から人がすっ飛んできた。何かなと思っていると、
「なんだ、あの主翼は!!」
偉い剣幕である。
「どうされました」
「どうしたもこうしたもない、撃った瞬間にゆがんだぞ」
一大事である。その日の試験飛行は中止になり、全員で北基地へ。
デカい掩体壕の中に試験機はあった。
「弾は抜いてあるからな。触ってもいいぞ」
実射試験では、まず反動が小さい13mmの方から行ったらしい。
13mmで問題なかったので、20mmを撃った途端、主翼に皺が入り機銃の軸線が少しずれた。と言う。計算上は大丈夫なはずだった。
当然、試験飛行は原因究明と対策が出来るまで中止だった。
なぜ強度不足なのか、みんなで思考中。そして何人かからやはりアレだろうと、言う意見があった。
アレってなんですか。はっきり言いなさい。
穴です
穴?
そうです。明らかに開けすぎです
そうは言っても、軽量化のためだし計算上は問題ない
でも実際にはああなりました。なんで機銃の脇の構造材まであんなデカい穴開けるんですか
整備性が良くなっていいじゃないか
でも、アレでは柱だけです。家で言えば柱だけで筋交いも無い家です。そんな家は地震に弱いので、建築許可が下りません
君は何か、私の設計した機体が建築基準法違反だとでも言いたいのかね
そうですね、いわば航空機設計基準法違反とでも言いますか
ムキャーー こいつは言うに事欠いてなんてこと言いやがる。でも私は取り乱したりしないぞ。なにしろ大人の男だからな。
ではどういう対策をする。君の意見を言いたまへ
穴を減らします。どうせなら穴は無しにします
穴は過度の応力集中を避けるために開けた物もある。それも止めるのか
いえ、必要な穴は残します。それ以外を止めます
何、軽量孔を止めるだと。それでは機体が重くなる。性能が落ちるぞ
多少重くはなりますが、200kg程度ですよ。それで空中分解、いえ地上分解ですねこの場合は。それを避けられるなら良い事でしょう
1gでも軽くするのが、私のポリシーなのだ。私を否定するのか
いえ、機体の基本設計は素晴らしいと思いますし、軽量化は悪いことではありません
ではなぜ
やり過ぎです。何事も程々が良いかと
あの~
なんだ、横から
言いにくいのですが、軽量孔の開けすぎで工数がものすごい事になっています。会社の方からもっと工数を減らせと言ってきています
私は言われていないぞ
はい、今日渡された通達です。まだ渡していませんので
会社まで、なぜなのだ。
どうも海軍に出した見積もりが、向こうの許容基準を上回ったようで、安くしろと
高性能なら高くても良いだろう
ですから、設計を見つめ直して、不要な工作を減らせと言うことです
くっ、味方がいない。これは一時撤退するか。捲土重来はまたの機会にして今は会社と軍を満足させるとするか。
わかった。軽量孔は必要な物を残し中止とする。至急図面を訂正して試作工場に渡してくれ。私は少し休憩してくる
自分のポリシーを否定された設計主任
しかし彼は一応ちゃんとした社会人であった
会社に従うのである
社畜ではないと信じたい
軽量孔は零戦以上に開けてみました
またですね、次回こそ飛びます。着艦します。
機体構造を強化していくのは、空中分解による殉職者を避けたいためです。
共にテスト中だった、社内パイロットと海軍の下川大尉が殉職されています。
零戦のフラップ部の赤線も引かれないようにしようと思います。




