飛べない鳥
此処はメール・アンテュール海。気が付けばそれは静かにオレンジ色に染まっていくー
「陛下、そろそろ帰りませんと……皆が待っております。」
声を掛けられ、私は我に帰る。
…ヴィオレットの言う通りだ。本当は今日中に帰らなければならない。
(だが、私は………)
「……帰りたく、ない。」
私は我儘を言った。あまり、歳が離れていないヴィオレットだからなのだろうか?
「また、そんなことを言って……。陛下のお気持ちはお察し致します。ですが、妹君がお待ちです。」
いつも、ヴィオレットには苦労を掛けている。それは重々承知しているのだがやはり、帰りたくないと思う。
…民に迷惑を掛けている私が情けなくても。
「あと1日だけ、此処に居させてくれ。」
(フォーリア、最愛の妹。会いたい。だが……)
父との思い出にもう少しだけ、浸っていたかった。此処にいると幼いときに亡くなった父の匂いがしそうで……。
「…本当にあと1日だけですから、ね?」
ヴィオレットは溜め息をつくと苦笑しながらも、承諾してくれた。
……私が衰弱していくことを知っているからだろうか?
(私は……母のように死にたくない。)
そう思う一心で逃げてきた。こうして甲板で思いを巡らせ、方法を探ってはいるのだが……。
私の思いは波にさらわれて、何処か遠くへいってしまう……。
(私には王としての責任は重すぎる。…どうしたら、一族を救えるのだろう?)
しかし、問に答える者はいない。
(……本当に…)
「……王とは空しい者だな、菫姫。」
「陛下………」
そのまま二人は何も言わず、ただ波間を眺めていた。願いが届く日を夢見て。




