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終わりと再出発

書いてる途中で消えてしまい、急いで書き直しました。けっこう粗い……。


僕、メネラオスは肌寒さに眼を覚ました。最初に目に入ったのは星々だった。

「……ここは」

僕は辺りを見回す。そこは間違いなく、僕が歩いていた荒野だった。

頭を押さえて出来事を振り返る。

僕は……そうだ、聖堂騎士になるために聖堂騎士育成所入門試験を受けに行ったんだ。

僕の夢は聖堂騎士になって、満足なお金で孤児院のみんなに満足な食事をさせてあげるためだったんだ。

聖堂騎士とは神に仕える聖教会が保有する騎士団のことで、平民でも頑張れば手の届く、夢の職業である。

それになるためにせっせと働き、お金を貯め、みんなに期待される中、胸を張って受けに行って……落ちた。

今更帰るのも怖くて……それでここをフラフラと歩いていたら……。

そうだ、人が落ちて来たんだ。

僕はそこまで思い出して、辺りをまた見回す。

すると僕の横で……女の人が頭を抱えてうずくまっていた。

…………。

女の人はこんなはずでは、とか、よもやここで歴史に終止符が、とかぶつぶつ呟いている。

「あの……大丈夫ですか?」

僕は恐る恐る声を掛けてみた。

「うう……ああ、起きたのか。ハハ……こんにちは」

「えと……こんばんは」

女性は弱々しくも、なにか決めたかのように立ち上がると、

「やぁはじめまして。私は第三十七代魔王、イフィゲニアだ。訳あって君の身体に寄生させてもらった」

などとのたまった。

……え、魔王? 誰が? 寄生? 誰に? どうして? と疑問符ばかりが浮かび上がる。

しかし、そのイフィゲニアの全容を見て息を飲んだ。

漆黒のコートに包まれた身体は普通の子女とは違い、鍛えられていることが伺え、挑発的に釣りあがった眼は紅く、その容姿は毅然さと美しさを醸し出していた。

しかし、その額を見て分かった。魔族の一部族には必ずあると言われている、天へとそびえ立つ双角。

彼女は魔族である、とすぐに確信した。

彼女はその長い黒髪をかき分け、言い放った。

「君には魔王として君臨してもらいたい」

僕はますますわけがわからなくなった。

「えと……寄生って、どういうことですか?」

状況を理解しなくてはならない。情報を引き出しにかかる。

「ふむ、やはりまずはそこからだな。私は魔王である。魔王というのは勇者みたいな部族の象徴という役割だけでなく、軍を率いたり、事務作業もやらねばならん。それは肩が凝るわけだ。息苦しいわけだ。換気するかのごとく、私はまぁ、西の魔王城から散歩してたわけだが……」

たまたま勇者と出くわし、戦闘になったらしい。

「で、ここで死んだら色々大変だし、そもそも散歩中に死んだとか草葉の陰でなんとやら……。だから君に寄生させてもらった」

……正直困るなぁ……。

「だから私と一緒に魔王城に来てくれ」

「え、嫌ですよ」

きっぱりお断りさせてもらった。イフィゲニアはえ、という顔をしていた。

「え、なんで?」

なんでって……。

「なんで僕が敵の手伝いをしなきゃいけないんですか?」

するとイフィゲニアはたじろいだ。

「え……お菓子あげるよ?」

「僕は十六です」

「赤子じゃないか」

「人ではあと四年で大人です」

イフィゲニアは唸ると、

「世界の半分あげるよ?」

「魔族領って北大陸の半分くらいですよね。人族領含めてもまだ半分になりませんよね」

イフィゲニアはさらに唸ると、

「富と名声欲しいよね? 魔族の歴史書に歴代最高魔王とか書かれたいでしょ?」

「人族の歴史書には史上最悪の裏切り者って載りますよね?」

イフィゲニアはうんうん唸ると、

「おっぱいがいっぱいも夢じゃないよ?」

「下ネタにはしらないでください」

「……泣くよ?」

「あなた何歳ですか」

「君の三倍は生きたね」

ならば、とイフィゲニアは呟き、言った。

「君、どちらにしろこの国にいたら死ぬよ?」

また突拍子もないことを言い出した。

「はぁ……」

「いや、本当に……噂をすればかな、来たようだね」

イフィゲニアは真顔だった。すると、遠くを睨んだ。

次第に足音が聞こえてきた。複数だ。

僕もイフィゲニアと同じ方向を見る。

「そういえば、ここはサルジニアだったね」

迫り来る三人の男達、あれは、サルジニアの衛兵。

キッチリとした服装に帯刀した兵士達だ。

「おっと、少年、逃げるぞ」

イフィゲニアはそんなことを言う。

「え、なんでですか?」

するとイフィゲニアはこいつはバカか、と言いたげな顔をした。

「だから、君は今ちょっとした量の魔力を帯びている。たぶん君自身のものだ。この国ではそれは存在自体異端だろう?」

「え、魔力? 僕は人間ですよ?」

人とは本来魔力など持っていない。それこそ魔族との混血とかは別だが、基本はありえない。

「ああ、くそっ、いいから逃げ……あ、もう無理だ」

イフィゲニアはもう終わった、と言う感じの顔をした。

何をそんなに怯えるのか……。

「おい、貴様、魔力を感じる。同行願おう」

衛兵達は僕を囲み、半ば無理やり連行しようとしてきた。

え、魔力? 本当?

「いえ、こちらの女性が魔王がどうとかと……」

「あ? 女? いねえじゃねえか。妄想癖もあるのか」

「え、いやいや、ここに」

僕は地面に突っ伏す魔王を指差す。

「ああ、そういえば寄生してるわけだから君以外には見えないんだ。ハハ、ユカイな人生だった」

…………マジか。

そして僕は拘置所へ歩かされ、イフィゲニアは引きずられた。



……とはいえ、僕は無実である。すぐ解放されるはず、とか思っていたが、事態はそうでもなかったらしい。

僕が街の拘置所に拘束され、約二時間くらい。聖堂騎士が来た。

聖堂騎士。今日僕が試験を受けに行ったのも聖堂騎士養成所入学試験であり、僕の夢は聖堂騎士であった。

身寄りもなく、孤児院で育ててもらっている僕はちょっとでも孤児院に恩返しし、また自立するために、高給で、頑張れば平民でも夢見れる神に仕える聖堂騎士を目指していた。入学金は孤児院の人のツテで仕事しながら貯めていたし、うまくいけば納金免除の特待生にもなれた。

……今となってはもう無理だが。

檻の向こうの聖堂騎士の人は僕を品定めするよう見ると、

「やぁ、私は准聖堂騎士のアイオス。君がメネラオス君だね」

アイオスと名乗った人は准聖堂騎士らしい。養成所の候補生から上がって一年は聖堂騎士の下位、准聖堂騎士となる。

「ど、どうも」

敵意はないと感じてくれたのだろう、アイオスさんは笑顔で言った。

イフィゲニアはなろほどメネラオスというのか、などと呟いている。

「早くに両親亡くし、孤児院で育つ。十六歳、少々流され易いところがあるも、近所では優しく、才能溢れる少年……。今日、聖堂騎士養成所入学試験を幼馴染と受けに来た……しかし、君は神の加護、聖力を受けられず、落ちた。そして帰り道魔力探知を知った衛兵に同行」

つらつらと僕の経歴を述べるアイオスさん。ちなみにイフィゲニアはまだ突っ伏している。

アイオスさんが目線を僕に送ってきた。

「はい……合ってます」

そう、僕は聖力を授からなかったのだ。聖力、魔族が魔力を行使するように、人族も神殿で神と呼ばれる……まぁ、木像なのだけど、それに聖力源と呼ばれる一種のキーを貰い、あとは魔族と同じ、精神力をチカラに変え、それを聖法に変え、闘う。

授からないのは珍しいことじゃない。三人に一人しかなれないのだ。だから珍しくはないのだが……。

ヘクトス。僕と共に孤児院で過ごした幼馴染。彼は選ばれた。共に同じ夢を見て、同じくらい働いて、過ごした親友。彼は選ばれたのに、僕はなれなかった。

そのことが申し訳なくて、羨ましくて、悔しくて……。

「なるほど、汗水流して努力し、周りから期待され、親友と約束し、頑張った十年間。それが無駄になって辛いのか」

隣から声が聞こえた。イフィゲニアだ。当然他の人には見えていない。

僕は彼女を睨む。

「私は君と繋がっているからね。精神も読めるのだよ。まぁ、結構疲れるからあんまりしないけどね」

……僕は何をやってるんだろう。

「メネラオス君、それで、だ。私は准とはいえ聖堂騎士だ。しかも結構有望視されていてね。色々と准騎士に似合わない特権もある。その中には、異端審問も」

僕は、少し、背筋が凍った。異端審問……問答を重ね、相手の有罪無罪を決める審判である。しかし、一方的なもので、ほとんど死ぬらしい。

「さて、君がいたあの現場。あそこには、君以外にも二名ほど確認されている」

アイオスさんは右手の指を三本立てた。うち一本はすぐ折られる。僕のことだろう。

「一人はなんと魔王、あの魔族の王にして我らが宿敵」

中指を折った。いるのはわかる。というより、今、僕の隣で今際のポエムらしきものを唱えている。

「そしてもう一人は、我らが旗印、象徴である勇者様だ」

さて、とアイオスさんは僕を見据える。

「なぜ、君はそこにいた」

「え、あ、帰り道だから……」

「孤児院とは反対の方向だよね?」

そうだ、反対方向だ。でも、期待して待ってくれているおばさん達にどう顔を合わせればいいのかわからなかったのだ。

「それに、君からはちょっと多い魔力を感じる」

…………それはイフィゲニアのだ。

「いや、それは間違いなく君のものだよ」

僕は視線すら逸らさず、イフィゲニアの話を聞く。

「聖力が精神力であるように、魔王の魔力もまた精神力からきている。それも負のな。怒り、憎しみ、悲しみ……。それらが枯渇しない限り、魔王の魔力は底なしだ。これが上限のある普通の魔族と魔王の差だ。そして、私が君に移ったことにより、魔力へと変換するデバイスができた。するとそこに君が放出し続けていた騎士になれなかったという負の感情が魔力へと変換されたというわけさ」

………………。

僕は今度はアイオスさんの話に集中した。

「つまり、こうとれる。騎士になれず腐っていた君は瀕死だった勇者様を半ば八つ当たりに殺した、と」

え……。

「いやいやいや、流石にそれは言いがかりですよ!」

しかし、反論しようとしたそのとき、後ろに控えていた衛兵達に抑えられた。机に顔を叩きつけられる。

「がっ……」

「そもそも、君は孤児らしい。案外片親は魔族だったりね。ま、魔力があるから選ばれなかったんだろうね」

僕はアイオスさんを見上げる。合わさった目は、とても冷ややかだった。その後ろにいる衛兵はニヤニヤと笑っていた。

「君は……有罪」

部屋が一瞬静かになった気がした。

しかし、すぐさま衛兵達の怒声で包まれる。

「……嫌だ、嫌だ!」

死にたくない。

僕は必死で暴れた。しかし、むなしくも、大人数に押さえつけられる。

やっと本性を表したか、魔族、死ね、など、罵声が飛び交う。

嫌だ、死んだら何もできない。恩返しも、なにも。

「ふっ、ぅああああああああ!!!」

僕は恐怖と悔しさでめいっぱい叫んだ。その瞬間、衛兵達が吹っ飛んだ。

「え?」

僕も、衛兵達も理解できない。ただ、イフィゲニアとアイオスさんがニヤニヤと笑っている。

壁も一緒に吹き飛んだらしい、僕は自分の手を見た。なにか、黒いオーラが吹き出ている。

掛けてあったヒビのはいった鏡を見る。

僕の目が、イフィゲニアと同じように、赤くなっていた。

「え?」

よくわからなかった。

しかし、イフィゲニアが、

「少年今のうちだ!」

と怒鳴った。

僕ははっとし、ドアへ向かった。

しかし、

「待てよ」

アイオスさんがいつの間にか回り込んでいた。

僕は恐怖した。

そんな僕を見てか、アイオスさんはふ、と笑い、

「これ、いくらか入ってるから持ってけ」

腰の皮袋を投げ渡してきた。ジャラ、と音がなる。……お金だ。

「逃げるなら必死で逃げろ。ただ、もうこの国では人扱いされないと思え」

アイオスさんはニィッと笑うと、ドアから退いた。

砕けた印象を感じる。たぶんこれが本来の彼なのだろう。

僕は怖くなって、急ぎ足になり、外へ出た。

ああ、ヤバイ。逃げなきゃ。まずは孤児院へ行って……事情を話せばわかってくれる。孤児院のみんなは僕をよく知ってる。

「メネラオス、街から出るぞ!」

イフィゲニアがそんなことをのたまう。

「なに言ってるのさ! 孤児院へ行こう! そこなら……」

「なにを言っている! そんな所が助けるわけがないだろう!」

そうイフィゲニアに遮られた。

「大丈夫だよ! あの人たちも僕をよく知ってるから! 誤解だってわかってくれるよ!」

走り続ける僕に前に半透明のイフィゲニアが両腕を広げ、静止を促す。

「孤児院の資金がどこから出てるか知っているか!? 聖教会だぞ! 君を追っているのは誰だ!?」

僕はハッとなって立ち止まる。

教会の手先とも言えるあの人達、きっと僕を追い出すだろう。そうでなくとも、僕なんかをかくまえばあの人達に被害が及ぶ。資金援助だって停められるだろう。

僕は立ち尽くし、うすく寒い気分になった。

…………。

「わかった。逃げよう」

僕は右へ回り、歩き出した。歩みを早歩き、そして走りに変える。きっとこの方向へ走ることが僕とみんなが助かる道だろうから。

イフィゲニアは何も言わなかった。そもそも、彼女が僕に乗り移らなければこんなことにはならなかった。……そう思うと、怒りが湧いてきた。なんだかその怒りが全身へ吹き出ているような気がした。これが魔王のチカラなのだろうか。さらに嫌悪感が湧いた。

僕は西の森へ逃げ込んだ。



僕は眩しい陽射しを浴びて目が覚めた。

辺りを見回しても……やはり森。となりにはイフィゲニアが寝息を立てていた。

「……畜生」

僕は頭を押さえながら呟いた。

「……おや、おはよう、メネラオス」

起きたイフィゲニアを見て、僕はちょっと怒りが湧いた。

「その……悪かったな。巻き込んでしまって」

イフィゲニアは申し訳なさそうに謝罪した。

僕はさらに怒りが湧いた。だから少し強い語気となってしまい、

「……いいですよ」

と返した。

「近くに君しかいなかったから……本当にすまない」

頭を下げたまま言ってくるイフィゲニア。

「もう過ぎたことですし……いいですよ」

「しかし、君の人生を……」

「もういいって言ってるでしょう!?」

なかなか引き下がらないイフィゲニアに怒鳴ってしまう。僕の怒鳴り声が森に木霊す。それから、黒い奔流のようなものが身体中から発せられる。

「人生? そんなのもう詰んでるんだよ! もう遅いんだ! 終わったんだ! それを受け止めて、仕方なかったと言い聞かせてるのにあなたは! そんなに苦しんで欲しいか!?」

イフィゲニアを睨み据え、叫ぶ。

イフィゲニアはさらに暗い顔をしていた。

親に捨てられ、努力も砕かれ、運にも見放され、居場所も消えた。全てお終いじゃないか。

「申し訳ないと思うなら消えろよ! ……ああ、そうか、僕が死ねば良いのか。そうすれば全部おわるじゃないか」

僕はそう口走り、自分が何を言ってるのかちゃんと理解し、立ち上がる。

枝を折って尖った部分を喉に刺せばいい。それ意外にも滝に落ちるとか色々方法があるじゃないか。

「待て! 早まるな!」

イフィゲニアが歩き出す僕の前に現れ、静止を促す。

僕は歩みを止めず、イフィゲニアをすり抜ける。

水の落ちる音がする。その方向へ歩みを進める。

イフィゲニアがなにか言っているが、聞きたくない。

すると、案の定、滝の前の崖へ辿り着いた。

「待ってくれ! まだ別に道がある! 死なないでくれ私はまだ……こんなところで死にたくない!」

また僕の前に出て、両腕を広げている。真っ直ぐ僕を見据えている。

「触れることすらできないのに、生きたい……ははっ、意味がわかりませんよ」

別の道なんて、どうせ魔王の手伝いに決まっている。なら、なおさら死ぬべきじゃないか。

「お願いだ! こんなところで死んでは、全てが終わりよりも悲惨なことになってしまう! 私はまだ仲間を……同胞の未来を変えてない! お願いだ!」

涙が舞った。

僕は虚ろながらもそれを見て、ドキっとしてしまった。

その眼は、そう、聖堂騎士試験を受けに行くまでの僕が毎朝鏡で見ていた眼に似ていた。

今日も頑張ろう、失敗した、でもまだ巻き返せる。諦めたくない。みんなに満足な食事をさせたい。そう決意しながら生きていた……昨日までの僕の眼。

「でも……僕は人間で、これ以上迷惑はかけられなくて……」

そういう弱気なところからもきていたのかもしれない。

しかしイフィゲニアは、柔らかく笑い、

「メネラオス、私はね、みんなの笑顔を見たいんだ。それは魔族だけじゃない。エルフ族、獣人族、魚人族、ドワーフ族、妖精族、そして、人族。その全ての笑顔を見たい 」

…………みんなの笑顔?

イフィゲニアはそして真面目な顔になると、

「だから私は死ねない。他部族が他部族に虐げられるなんて死んでも嫌だから」

けど、とイフィゲニアは続ける。

「なにも関係ない君を巻き込んだのも事実だ。だから……選択は君に任せる」

イフィゲニアは覚悟を決めたかのように、目を瞑った。

「……僕は、どうすれば良いの?」

イフィゲニアの夢は解るし、賛同したい。けど、やはり悪いことはしたくない。

「君は、魔王のチカラを持っている」

それだけの返答が来た。

「僕は……」

僕とイフィゲニアの夢は似ている。大きさが違うだけだ。一騎士だったら人族の平和だけで満足できるが、魔王だ。それだけのチカラがある。だから世界平和だって……。でも、僕にはそのためになんでもするという覚悟がない。騎士だったら全部正しいと見えるだろう。僕は、できるだけ明るく綺麗な道を歩みたい。

だから……、

「イフィゲニア、僕は死ぬよ」

そう答えた。

イフィゲニアは目を開き、悲しそうな顔をしていた。

僕はその顔に笑いかけつつ、

「メネラオスという人を殺す。それで、生まれ変わる。今から滝下へ落ちるから……それで生きていても、それはメネラオスじゃない。世界を救いたいという夢を持った者だ」

そう言うと、イフィゲニアはしばし複雑そうな顔をしていた。

魔王のチカラは怒りや悲しみ、負の感情を糧にしている。僕は怒りや悲しみで救えるなら、そうしたい。

イフィゲニアはわかった、とだけ言うと、前を退いた。

僕は崖の端まで歩み寄り、二三度呼吸をする。

そして、


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