表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/31

第3章 本文

フィクションです、と言いました。

安心して読み進められるように。

これは作り物で、嘘で、現実とは無関係だと。


けれど、本当にそうでしょうか?


ページをめくるたびに、

見覚えのある言葉が、あったのではありませんか?


たとえば、

あの街の名前。

あのときの景色。

あの人の口癖。

思い出したくなかった、あの夜のにおい。


それは偶然?

あるいは、記憶の錯覚?

それとも、物語があなたの“中”から始まっていたから?


フィクションだと信じていた。

そう信じて読んできた。

けれど、気づいてしまったはずだ。


この物語には、あなたが知っている誰かがいたことに。


名前は伏せた。

顔も描かなかった。

年齢も、性別も、過去も、語っていない。


それなのに、あなたには“それ”が誰かわかってしまった。


なぜだろう?


なぜ、知っていたのだろう?


──思い出して。


あなたが初めてこの本を開いたとき、

ページの隙間から、ふっと匂いがしなかっただろうか。

懐かしいような、苦いような、

それでいて今この瞬間にしかありえないような香りが。


思い出せるはずがない記憶が、

言葉より先に脳の底をざわつかせていた。


あなたは、それを「既視感」と名付けて、片づけた。

でも違う。

それは、記憶の原文だ。

まだ物語に書かれる前の、

生まれたままのあなたの“なにか”。


フィクションは、

あなたの中にある“何か”を写して、ただ別の順番に並べ直しただけ。


だからこそ、

あなたはこの本の中で、見覚えのある人に出会ってしまった。


それは、忘れたはずの誰か。

もしかしたら、あなた自身だったのかもしれない。


フィクションとは、

嘘ではない。

ただ、まだ現実になっていない“あなたの物語”の、先回り。


そしていま、あなたが読んでいるこの章もまた、

そう――現実に追いつくために生まれた、ひとつの影にすぎない。


でも大丈夫。

あなたは、知っていたでしょう?

この本のどこかで、必ず自分と出会うことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ