番外編:第2話 ベンチマーク布団不信事件(2025-04-07 改定完全版)
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その日、尾張藍国の布団評価制度に激震が走った――
“ふかふか”と銘打たれた布団が、ふかふかでなかったのだ。
民は混乱し、芝田は泣き、羽芝は叫び、庵戸は寝ていた。
そして、智長は――静かに起きていた(ただし、まだ布団の中)。
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藍霞城・朝の会議室。
机の上には一枚の報告書と、明らかにペラペラな布団が鎮座していた。
「殿!この布団、“ふかふか評価・五神星”で流通していたのです!!」
芝田数家が震える声で叫ぶ。
羽芝秀知が、その布団にそっと指を当てる。
「……ふかふかどころか、もはや“布団の皮”だろこれ……」
美鈴が腕を組んで睨みつける。
「評価制度が形骸化してるのよ。“神の理ラベル”さえ貼ってあれば売れるんだから」
芝田、涙目で言う。
「ですが……この布団、“公式試寝評価済”の印が……!!」
羽芝が報告書をバンッと叩きつける。
「試寝って誰が!?誰が寝たってんだよ!?お前か!?違うな、庵戸しかいないだろ!!」
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その時――
廊下から呑気な声が届く。
「試寝評価員、庵戸九朗人、ただいま戻りました〜」
羽芝「お前かああああああ!!」
庵戸「いやあ、あったかくてですね……あれは本物の“試練”でしたよ」
羽芝「それ、腰に来るタイプの試練だよな!?評価しろ!寝るな!!」
庵戸「寝心地はよかったです。“期待値と現実の狭間”って感じで……」
美鈴「文学的に誤魔化すな!!」
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智長が、茶を啜りながら静かに口を開く。
「……布団とは、触れるまでは、ただの期待である」
芝田「殿……それはつまり、“触感詐欺”を容認されるという……?」
智長「否。“触れてなお信じる者”が多ければ、それもまた理である」
羽芝「詐欺の定義が、今、ねじ曲がったぁぁぁ!!」
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その夜。
城下では「ふかふか詐欺事件」が民の話題を独占していた。
- 「あの布団、背骨に“確かな手応え”あったわ……」
- 「“神の理ラベル”の横に、“要・自己責任”シール付いたらしいぞ」
- 「“庵戸保証付き”って書いてあったから爆笑して買ったわ」
- 「うちはもう“庵戸試寝済”のやつしか買わない。寝心地より話のネタ重視だ!」
- 「“庵戸保証”ってつまり“庵戸が寝ただけ”って意味なんだよな……信頼性ゼロの証!」
芝田は壁にもたれて呟く。
「……信じていたのです。“試寝結果は真実”だと……」
羽芝が肩をポンと叩く。
「芝田、大事なのはな。“誰が寝たか”じゃない。“誰が起きてたか”なんだよ」
庵戸「では今夜も、試してまいりましょう。“布団の、その先へ”……」
羽芝「行くなぁぁぁぁぁぁ!!!お前、向こう側に何があると思ってるんだよ!?」
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こうして尾張藍国では、布団評価制度の見直しが始まった。
民は問う――「タグを信じるか、自分の腰を信じるか?」
答えは、すべて――庵戸が寝ていない布団の中にある。