後編
書くのに時間掛かったのになんか違う…
そう思いながらも、自分の文才だとこんなものかと変な納得をしつつ投稿!w
他の作者さんって凄い…!
陛下の怒号が響き渡ってようやく殿下達は膝を折り、陛下に頭を下げている状態。元々拝礼をしていた私は二人が動いている間、周囲の様子を窺う。
周囲にいる要職の方や他国の重鎮などは、既に殿下の無礼な振る舞いを見て冷めた目を向けていた。
(それもそうでしょうね…。王太子ともあろう者がこのような振る舞いをするなどあり得ないこと。学園の生徒ですら呆れているのに、現役のしかもこの絢爛会に呼ばれるほどのお立場の方々からしたら信じられないことだろうし…)
………あぁ、なんでこんなことになってしまったのでしょう―――。
私では力不足なのは重々分かっていたけれど、それでも精一杯努力をしてきたつもり。結果が伴わなかったから言い訳にしかならないけれど、いずれ王妃となるのだからより高い教養を身につけなさいと言われ、厳しい妃教育をやり遂げて、それだけではと向上心を出したら、成人した15歳からは殿下の仕事の補佐として、特別に太子補佐官という役職も賜った。
正直、殿下からの愛情を感じたことはなかったが、貴族に生まれた者としての責務を果たしたいという想いだけでここまでやってきたのだ―――。
………
……
…
王国の筆頭貴族と言われるヴィクトール公爵家の長女として生まれた私ことシエラには、嫡男でありいずれ父の後を継ぐことが決まっている優秀な兄がいた。既に跡取りたる者がいる家の中には、その後に誕生した女は政略結婚の道具として情を持たないなんてところもある貴族の世界で、両親だけでなく兄も、私を深く愛して育ててくれた。
私はそんな家族の想いに応えたいと、どんな事柄でも手を抜かず必死に学んできた。どこに嫁ぐことになろうと、公爵令嬢の名に恥じない振る舞いと、公爵家に益をもたらす結婚であるようにと。
まだ見ぬ領地の民に笑顔と今まで以上の繁栄をもたらすことが出来たなら、それはきっと両親や兄の助けになるはずだ…と―――。
そんな風に自分を鼓舞してただひたすらに家族への愛情と貴族としての責務から頑張っていた私は、自分の知らない所で結構噂になっていたらしい。
噂を聞いた王家が御子息の婚約者にしたいと打診があった。当時は知らなかったが、聡明な令嬢をかなり探し回っていたらしい。そしてまだ幼かった私に、婚約者が出来ることになった。
それが当時は陛下の唯一の御子息であったアラン殿下だ。
王家としては珍しく側室を作らず、王妃のみを愛すると決めていた陛下は、なかなか子宝に恵まれずにお世継ぎ問題に頭を抱えられていたと言われている。お二人とももう若いとは言えない年齢に差し掛かっていた状況で、このままではまずいのでは?と家臣から側室を設ける事を提言されるほどに…。
そんな時に待ち望んでいた王妃ご懐妊の報。そして無事に産まれたお世継ぎであるアラン殿下の存在は、両陛下にとって言葉にはできないほどの万感の思いがあられたことだろう。
それが聡明な両陛下の目を狂わせてしまったほどなのだから………。
ようやく待ち焦がれたお世継ぎであるアラン殿下がお生まれになってから、両陛下は大切に育てようと考えるあまりかなりの過保護になっていたらしい。殿下のどんな我儘も受け入れ、叱る事もなく、のびのび育って欲しいと考えていた。当然、そんな風に育てられれば殿下は善悪の区別程度はまだ身につくとしても、王族に相応しい振る舞いや為政者としての能力が身につくわけがなかった………。
両陛下がそれに気付かれたのは、アラン殿下の弟君となられる、第二王子のノイン様のご誕生がキッカケだった。王族としてどころか兄としても到底容認出来ないアラン殿下の振る舞いにこのままではダメだと、それまでと違い厳しく接することにされた。
だが、これまで誰に怒られることもなく奔放に生きてきた殿下は、突然の両親の変化に反発するばかりで状況は改善しなかった。そんな環境をなんとか打破しようと考えられたのが、同年代の聡明な令嬢を婚約者に据えて、その振る舞いを見て自身の拙さを省みてくれないだろうか?というものだった。
(とても上手くいくとは思えないけれど、他に打つ手がないほどに追い詰められた陛下の最後の望みだったのだと思う)
―――そうしてアラン殿下の婚約者となった私は、陛下のご意向の元にアラン殿下と接してきた。我儘を諌め、良き為政者となれるよう勉学を推奨し、人の上に立つ者とはこうあるべき、と自身でそれらを実践してきたつもりだ。
それでもこうなってしまったのは私の力不足……。だが、陛下に賜った命には、最後の手段が用意されていた。なんとかそれを実行しなくていいように頑張ってきたけど、王国の未来の為、今ここでそれを行うしかない…!
そして私は口を開く―――。
「陛下の温情に感謝して申し上げます。先程までの殿下の無礼な振る舞いに関しては最早私から申し上げる事はありません。ですが、公爵家の者として不名誉を撤回せずにいられません。殿下が言う私がそこに居られるマリン伯爵令嬢に行ったという数々の振る舞い…私には全く身に覚えがありません」
「貴様っ!!この期に及んでまだそんな事を言うのか!?俺は全て話を聞いているのだぞ!?潔く認め謝罪するがいいっ!」
全て話を聞いた…ね。その言葉の意味をちゃんと理解しておられるのだろうか殿下は………。
「ではその全て聞いたという内容をお聞かせ下さい。私はその全てに反論してみせましょう―――」
「……いいだろう。全てを明らかにして貴様を断罪してやる!まずはマリンに対する数々の暴言だ。俺のそばにいたというだけでふしだらな者だと罵り、勉学においてもマリンが成績が低いからと様々な罵声を浴びせた。これが婚約者の振る舞いと言えるのか!?」
(ふぅ…小手調べのつもりで軽いところからきているつもりのようですが、なんとも情けない…)
「では申し上げます。まず前提として婚約者がいる男性に必要以上に近付くのは貴族としてあり得ない事です。それがもし多少の接触であったならば私も目を瞑ったことでしょう。ですが婚約者が目の前にいるというのに、男性の腕に抱きついているのを許す者などいません。いくらマリンさんが元平民であったとはいえ信じられない振る舞いです。そしてそれは勉学においても同じこと。元平民だとしても貴族になられたからには最低限身につけておくべき教養というものがあります。他の方より出遅れている分の猶予を与えてなお、マリンさんは勉学や礼儀を身につける努力をなさってはいない。それを窘める事が罵声だというのなら、貴族になどなるべきではなかったということです」
そう言い放った私に周りは同調する。そしてそれは殿下の立場を更に追い詰めていくが、まだ頑張るらしい…。
「で、では階段から貴様がマリンを突き落とした件はどう説明する!?マリンは確かに貴様に突き落とされたのを見たと言っている!」
「殿下。最初に申し上げておくべきでしたが、今お聞きしましょう。殿下は全て話を聞いたと仰いましたが、それは誰から聞いて、そして聞いた話は確かであると確認は取られたのですか?」
「無論マリンから聞いた!マリンが嘘をつくなどあり得ぬ事。故に全て真実という事だ!」
「殿下…。双方の立場がある状況で片方の意見のみを鵜呑みにするなど愚か者のすることです。せめて聞いた話が真実なのかどうかぐらいは確認するのが普通でございますよ?」
「そしてその事に対して簡単な答えを申し上げましょう。そう、教科書を隠された、階段から突き落とされそうになった、他の令嬢を使って責められた、恐らく殿下がマリンさんから聞いたであろうこれらは全てマリンさんの虚言です。長くなるので全ての事について詳細までは語りませんが、それらの話に私は関わっておりません。例えば階段から私が突き落としたという件。その事件が起こった際、私は学園はおろか王都にすらいませんでした。それを示す証拠もございます。つまりマリンさんが「私に」突き落とされたという話は不可能だということです」
「な…そ…そんなはずはっ!」
「もう終わりにしましょう。王国の恥をこれ以上晒すのは。ですから私が結論を申し上げます。つまるところこれはマリンさんが虚言で皆を騙そうとして、私を婚約者の地位から引きずり下ろし、いずれは王妃になろうと画策したものです。その為に殿下や殿下の側近である者達まで誑かす為に身体を使って誘惑した。マリンさん、貴女が殿下以外の殿方とも一夜を共にした事も調べがついています。そして、それにみすみす踊らされた殿下、貴方もとても未来の王たる器ではありません。かような情けない殿方と私は生涯を共に歩むつもりはありません。よって私はこの婚約破棄について了承します。それでよろしいでしょうか陛下?」
ここまで口を挟まなかった陛下にお伺いを立てる。
「……うむ。アランとシエラの婚約破棄を正式に認める!そしてくだらぬ讒言に惑わされたアランを廃嫡処分とする。アラン、お前がシエラの堂々とした振る舞いを見て成長してくれたらよかったのだがな…このようなことを起こすお前に王位を継承させるわけにはいかぬ」
「そ…そんな…俺が、廃嫡…?」
「それとマリン伯爵令嬢には死罪を申し渡す。貴様のような女が王妃になろうなどと…あまつさえそのためにこれだけの騒ぎを起こすなど、反逆罪が妥当だ」
―――
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こうして婚約破棄騒動は幕を閉じた。廃嫡を言い渡されたアランは信じていたマリンにも裏切られていた事が分かり、自らの非を認め平民として生きていく事に。
マリンは簡単に騙される男が悪い!などと反省の色を出す事もなく、その振る舞いは醜悪過ぎると斬首刑に処された。マリンと身体の関係を持ったアランの側近達は廃嫡こそされなかったが、その恥ずべき行いをそれぞれの実家で罰せられたらしい。
そして私は―――
シエラ公爵令嬢は真の愛国者であり、またその才は貴族の令嬢として完璧だ!…などと持て囃され、婚約者が居なくなった今だ!と言わんばかりに様々な貴族から婚約の打診に追われてしまうのだった。
その中には王家からの第二王子との婚約の話まで紛れていることをシエラはまだ知らない―――