真夜中の再会 崩れようとする禁忌
1. 3年前 夜 繁華街
(もう疲れた……犯罪者を殺しても殺しても、後からどんどんと沸いてくる上に……頭がおかしくなりそうだ……)
14歳から犯罪者を裏で暗殺し続け、はや2年が経った。だが俺、比嘉 翔太郎は今、特に何の目的も無くこんな繁華街をノロノロと歩いている。
犯罪者に日常生活が脅かされている人たちがいる事を知って、自ら望んでこんなトコに堕ちた。だが、度重なる暗殺で既に精神がボロボロだった。
『どうすればこのココロが楽になるか』そんな事を考えながら日々を過ごしながらも、仲間と共に探偵業に身は置き続けている。
いつものように無気力に歩いていた時だった。ふと先の方を見ると、ガラの悪そうな男2人組が1人の女子高生に絡んでいた。
「悪いけど、そういう目的ならお断りだから」
「いいじゃん別にさー。それに、俺たちならチカラになれるかもよー?」
「そーそー。だからさ、俺たちとアッチに遊びにいこうよ」
(こりゃあまたタチの悪そうなのに絡まれてるな……。早めに助けて、でもって憂さ晴らしに2、3発殴っとくか)
正直今はそんな気分では無かったが、見てしまったものは仕方がない。男達を引き離そうと思い近づいた。
「しつこい!」
流石にキレたのか、女子高生の方が無理やり立ち去ろうとした。が、男達もその女子高生の手を掴む。
直後、その女子高生は掴まれた手を引きながら、掴んできた男のみぞおちに膝を叩き込んだ。動き自体はそこまで大きく無かったが力の伝え方がうまいのか、くらった男は地面に這いつくばっている。
「テメェ、女のくせに!」
「『女』だから何?」
冷淡に言い切ると、殴ってきた男の拳をかわして、脇腹に半月当てを放った。
『半月当て』は躰道の技の一つで、変形の後ろ回し蹴りのようなものだが、威力は中々えげつない。ただ、それ以上にあの技が使えてる辺りあの子も只者ではない。
(お、おいおい、最近の女の子はおっかねーなー。でもコレで……空気が変わっちまったな)
「クソ……お前……」
地面で悶える男を無視してその場を立ち去ろうとした子を、今度は別の男たち、それも1人や2人ではなく6人ほどが取り囲んだ。
コレが空気が変わった原因だ。
先程派手にやられた2人はコイツらの仲間で、アイツらからしてみれば目の前で仲間がやられて(そもそもは、あの2人組の自業自得だが)静観している訳にはいかないのだ。アイツらにもプライドがあるから。
「何?邪魔しないでくれる?」
その場に一触即発の空気が漂った瞬間、俺が素早くその間に割って入る。流石にこの人数相手では、この子(何となく分かったが、恐らく俺よりも歳上)もキツいだろうし、俺も見ていられない。
「まーまー落ち着いて。こんなとこで喧嘩すんなよ、な?」
とりあえず俺も、今はあまり戦いたくないので軽くなだめて納めようとしたが、男たちはやる気なのか退こうとしない。
「おいガキ、何邪魔しようとしてんだ」
「なに言ってんのアンタら。全く、こんな状況で黙って見てられるかっての。
大の大人が女の子1人に寄ってたかってなんて、恥ずかしくないのか?そっちのお姉さんも、こんなヤツらに絡まれるからこんな時間に1人でいちゃダメだよ?」
「……確かにそうね、ごめんなさい。今度からそうするわ」
何とかお姉さんの方は軽く説得できた。問題なのは、目の前の男衆だ。
人目のある中、仲間がやられたからにはそう簡単に引き下がれはしないだろう。男は俺の胸ぐらを掴んで威嚇してくる。
「悪いが、俺らも仲間やられてイライラしてるんだ。邪魔するってなら…………ガッ‼︎」
「邪魔するってなら……なに?」
俺の胸ぐらを掴んでいた手を逆に掴んで、素早く顔面に向かってヘッドバットを打ち怯ませる。
男は思わず鼻を押さえて俺を睨むが、俺はお構いなしに顔面に真空跳び膝蹴りをお見舞いし、背後をとってチョークスリーパーをかけた。
「大人しく…………退こうか?」
殺意を込めた笑みを浮かべて耳元で囁くと、観念したように頷いたので腕を解くと、仲間を引き連れそそくさと去っていった。
(あークソ、こんなんじゃ憂さ晴らしにもならねー)
柄にもないことをして、今まで溜まっていた疲れがどっと押し寄せて足元がふらついた。倒れそうになっていたところに、さっき助けた女の子が素早く肩を貸してくれた。
「ん?ああ……ありがとう。でも、お姉さんも早くここから逃げた方がいいよ。またさっきとは別の奴らが来るだろうから」
そう話している間、なぜか俺の顔をまじまじと見てくる。
気になって声をかけようとすると、その子の方から声をかけてきた。
「ひょっとして……ひーくん?ひーくんだよね?」
俺は思わずギョッとした。確かに昔、俺のことをそう呼んでいた人がたった1人だけいた。
「まさか、ハル姐?」
正直衝撃的だった。2年越しの再会がこんな形でだとは思わなかったからだ。
2. 同日 夜 公園
「へぇー、ひーくんすっかり大きくなったね。昔はあんなにちっちゃくてかわいかったのに」
「かわいいは余計だ。それに、あれより身長伸びなかったら絶望でしかないじゃん」
ヘッドバットで少し痛めた頭を、水で濡らしたハンカチで冷やしながら受け応えをする。
この人、八宮 悠夏は俺が2年前までいた『桐生館』という躰道の道場で一緒だった俺の先輩だ。歳は俺よりも2つ上で、俺の姉のような存在だった。
気さくで温和な性格から男女問わず人気で、何よりもとても美人な人だ。
「……で?」
「へ?」
「何でハル姐はあんなトコにいたんだよ。それ聞くまではちょっと帰すには行かないんだけど?」
少し怒り気味に言うと、ハル姐は膨れっ面だ。まぁ言いたいことは大体分かる。
「なーんで私はダメでひーくんは良いわけ?私の方が歳上なのに」
「だーかーらー、俺は仕事で慣れっこなの!でも、ハル姐は俺とは違うんだから……」
ダメだ、このまま口論を続けてもらちが開かない。
「あーもう分かったから、とにかくあの場所にいた理由を教えてよ」
無理やり口論を断ち切って、あの場所にいた理由を問いただすと、ハル姐は観念したように話し始めた。
「ひーくんは、私の親が離婚してるのは知ってる?」
「え?ああ、ちょっとだけ聞いたことはあるけど……」
ハル姐のご両親はハル姐が4歳の時に離婚している。"八宮"というのはお母さんの旧姓らしい。とはいえ、こういう話題はあまり話で出しにくい事もあって、俺もこれくらいしか知らない。
「実はお父さん、私と妹の学費をずっと支払ってくれててさ。もう少ししたら私も高校卒業するし、高校まで行かせてくれたから、会って挨拶したくって」
「そうだったんだ。でも、なんであそこにいたの?ひょっとして、あの近くにお父さんがいるとか?」
もしそうなら、正直会うことはおすすめ出来ない。会えたとしても、必ずしも幸福な形にならないかもしれないからだ。
しかしハル姐は首を横に振った。
「ううん。私のお父さん、警察官だったらしくてさ、ひょっとしたらあの辺の人たちが知ってるかも知れないなーって思って」
「単独で情報収集してたってわけ?」
そう聞くと、そうそう、と笑っている。
俺はため息をついて近づくと、ハル姐の頭をコツンと軽く叩いた。
「ッ痛い!もう何するの!」
「『何するの』じゃないよ、ハル姐。もし襲われたらどうするんだよ!」
「そんなの平気だよ。ホラ」
そう言うと、俺の前で綺麗な蹴り技を披露した。
ハル姐は、先程も言ったように俺同様躰道の道場に通っていた。しかも、ハル姐の方が歴が長い。強さだけで言えば、あの辺を歩いていても特に問題がある訳ではない。問題は別にある。
ああいう場所には必ず、そこ独自のルールがあるのだ。俺がしたケンカも、本来ならあの場所のルールに乗っ取るべきだったが、俺はあえてそれを無視したのだ。
面倒だったから。
「ああいうトコには、その場所ごとに独自のルールがあるの。ハル姐や俺がああやって勝手に荒らしていい場所じゃ無いんだよ」
俺が怒ると、ハル姐も空気を読んだのか少しシュンとしている。一応、俺が言っていることを理解してくれているようだ。
「まーとにかく、悪いことは言わないからそういう事は一人でしない方がいいよ」
「で、でも…………」
ハル姐はそれでも食い下がる。
(多分……ハル姐はこう言っても1人でやりかね無いな)
「……分かった。じゃあ、俺がハル姐から依頼を受けるってのはどう?」
「え?」
「ハル姐、俺が今どこで働いてるか知ってる?」
「えっと確か……探偵事務所……って」
「だから、俺が探偵としてハル姐から依頼を受ける。依頼内容は『ハル姐のお父さんを探す』でどう?
依頼料は要らないから」
俺の提案に、ハル姐は数秒考えた後にたった一言『分かった』と言って乗ってくれた。
……正直、この時のこの提案が正しかったのか俺は今でも分からない。でも少なくとも、あの時はこれでいいと思ってたんだ。
第十六話いかがでしたでしょうか。
作者的には、ついにここまでやってきたかという感じです。
八宮は比嘉の元カノにして、過去のキーを握る人物。今作でも特に書きたい部分です。
関係性こそ、この時点では元先輩後輩ですが、ここからどのように変化していくのでしょうか?
ここからしばらく過去編が続きますので、比嘉の過去を共に見ていきましょう。




