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探偵になった青年

長らくお待たせいたしました。

4ヶ月越しの今作ですが、自身にとっての1作目『全てを忘れた子供達』2作目『或るウイルスの物語』の続編になっています。

今まで出てきたキャラだけでは無く、新しいキャラも多数出てくるので、初めて読む方でも楽しんで頂けると思います。


1.



"……続いてはこちらのニュースです。

本日午前11時、新政府設立20周年を記念し、国会にて記念式典が行われました。

今回の式典では20周年の節目の年でしたが、昨年起きた『SCウイルス』のパンデミックにより、今回は小規模での………"


電池の切れかけているラジオからノイズ混じりでニュースが流れてくる。


「20年ってことは俺が生まれる2年前か。

それより前には王様が政治を行なってたんだな」


「そうだぜ。確か『文月家』ってとこが王家って事で、国内を仕切ってたんだよ。俺が2歳の時まではそうだったらしいけど、全然覚えてないな。

弧門さんは多分知ってるだろうから聞いてみてもいいかもな」


そんな会話をしていると事務所のドアが開き、向こうから2人の男が何やら話しながら入ってきた。


「だーかーらー、そういうのは俺らじゃ出来ないって言ってるだろ?

力はあっても国民からの支持がほとんど無い。

支持がなけりゃ、やっても意味が無いだろ」


と黒いロングコートを着ている青年が話すと、横にいた眼鏡をかけた堅物そうな青年が、


「そんな事は分かってるが、俺たちがしないで誰がするんだ⁉︎

誰も出来ないから俺たちみたいに力がある奴が動くんじゃないか」


かなり言い合ってるな、と少し苦い顔をしながら門矢の方を見ると門矢も肩をすくめ、やれやれと小さく首を横に振った。


そもそもここが何処なのかを話さなければいけないだろう。

ここは『弧門私立探偵事務所』と銘打たれた探偵事務所で、弧門 将吾さんが経営している。

そして俺、比嘉 翔太郎もこの事務所で働いている。

また隣にいるのは俺と同じくこの探偵事務所で働いている門矢 零士。

この2人は俺にとって命の恩人だ。

ちなみにこの探偵事務所は勿論、探偵業をメインにしているが、時々それ以外の仕事も行なっている。まあそれは別の機会に話そう。


「一応考えておくが、出来ると決まった訳じゃないからな。

加藤、お前も薄々分かってんだろ?」


「ああ、弧門無理言って悪かったな。

また何かあったら連絡する」


そう言って眼鏡を掛けた青年は気落ちしたように帰っていった。


「お帰りなさい弧門さん。

加藤さんと何の話をしてたんですか?」


加藤さんを入り口で見送っていた弧門さんに聞くと


「さっき話していた事はいずれ2人にも話すつもりだが、一言で片付けるなら面倒事だな」


そうですか、と返して再びパソコンと睨めっこを始めた訳だがやはり先程の加藤さんとのやり取りが気にかかる。

ここで加藤さんについても説明しよう。

加藤さんは弧門さんの友人で、この探偵事務所で働いていたこともある人物。3年前に別の仕事を始めるにあたって辞めていた。

ここで門矢に小さな声で


「弧門さんはああ言ってたけど、何だろうな面倒事って」


「加藤さんと話してたって事は……よっぽどの事だろう」


そうに違いないと返して窓から外を見てみる。

まだ5時にも関わらずもう暗くなっている。

この国の春はまだ先のようだ。



2.



次の日

下宿先のマンションから歩いて事務所までは20分もかからない。

しかしその道すがら、道端には多くの失業者がたむろしていた。

数年前までは考えられなかった状況、しかし目の前のそれは全て事実なのだ。




全ては昨年までの2年間起きたあるウイルスのパンデミックによって引き起こされた。

3年前の11月の終わり頃に隣の国で新型のウイルスが発見されたのだ。

最初はあまりこの国では報道されなかったが、その未知性と高い感染力で瞬く間に世界中に広がり、この国も多くの感染者が出た。結果的に感染者は85万人以上にも及び、死者は6000人以上という壊滅的な被害に見舞われた。

初めて国内で感染者が出たのは海外でウイルスが発見されてから3ヶ月が経った頃。そこから瞬く間に国内全域にウイルスが広がった。

ただし政府の対応はかなり後手に回ってしまった。

まだ出来て20年も経っていなかった政府はこの未曾有の出来事に当初は危機感を示していなかった。危機感を示し始めたのは国内で死者が出始め、感染者が合計で1000人を超えた頃だった。

最初は多くのイベントなどを中止するよう要請したり営業時間の短縮を求めたりしていたが、これさえも遅かった。

その後人の密集するような店やそれ以外にもいくつもの企業などがウイルスの影響により営業停止に追い込まれ、店の方針により多くの解雇者が出た。

さらに新入社員などの雇用も思うようにいかず、就職できない人もかなりいたと聞く。

災難はこれでは終わらなかった。

この国は食糧品の多くを海外から輸入しているのだが、他の国々も同じ様な有り様で、自分の国のことだけで手一杯になり輸入が長期的に出来なくなった。そのため国内では食糧難がおきてしまったのだ。

その結果失業者が増え犯罪がこれまで以上に発生し、実質この国は崩壊寸前だ。政治家内では賄賂が横行したり、一部の大企業との癒着もあったりで世も末である。




事務所に着くと既に弧門さんはパソコンで作業を始めていて、門矢は事務所内を見回してみてもいなかった。


「弧門さん、門矢は寝坊ですか?」


少しふざけたように言うと、これまた弧門さんも笑いながら


「いやいや、門矢には加藤のとこにお使いに行ってもらってるよ。

本当なら俺が直々に行くべきなんだろうけど、何せ昨日から下手に動けなくなったからな」


下手に動けなくなったという言葉が気になって聞いてみると、顔を動かさずに窓の外を指さした。ゆっくりと外を見てみてもいつもと変わらない光景が広がっていた。


「何かあるんですか?

俺には何があるのか分からないんですけど」


改めてそう聞くと


「道挟んで斜め前にあるシャッターの閉まってる店の前に、灰色の帽子を被った浮浪者みたいなのいるだろ?」


そう言われて目が合わないように注意しながらそこを見ると、確かにその男はいた。


「居ますけどそれがどうしたんですか?」


一見すればその辺にいる浮浪者と変わらないが、と思っていると


「あの男な、昨日俺と加藤が話しながら歩いている時から俺にぴったりと張り付いているんだ」


それを聞いて、マジっすか、と返しながら振り返った。


「最初に張り付いていた時とは服装は違うが、気配は全く同じだ。

多分加藤にひっついて居たんだろう」


「でもどうして張り付いているんですか?張り付く理由なんか無いはず……」


とそこまで言うとある事を思い出した。

加藤さんは今とある会社の経営者をしているのだが、その会社というのが退役軍人や元特殊部隊員などが多く集まっているという事で、警察などに前々からマークされているのだ。(反政府思想を持つ人間が多くいるのではないかという理由らしい)

しかもこの加藤さんの会社の規模が中々大きい。会社の規模が大きいと自然、周囲に与える影響も大きくなるというものだ。

前述の警察の掴んでいる情報は、大方当たっていると言って過言ではない。言ってしまえば俺も今のこの政府は嫌いだ。しかしこれに関しては、そうなる原因を作った政府が悪い。


「それなら門矢も危ないんじゃないですか?」


もし仮にその男たちが門矢の事もマークしていたら最悪の場合、門矢は何らかの形で攻撃を受けるのではないか。そんな感じで心配そうにしていると、


「流石にそれはないだろ。あいつらがつけてたのは俺だけだろうし、門矢は何もやらかして無いからな」


そう言われればそうだ。たまたま加藤さんの会社に仕事の依頼に来ているだけなのかもしれない人間を逐一マークしていたら、間違いなく現場の人間はハードワークでぶっ倒れるだろう。

もっとも、そこまで警察を気にする義理はないけど。


「それよりも、だ。比嘉、お前に1つ頼みがある」


弧門さんは少し頼みにくそうな顔をしてこっちを見てきた。


「何すか?俺門矢じゃ無いんで難しい事とか無理ですよ」


俺の机の上に置いてあった新聞を読みながら、軽く応えると


「いやそこまで難しくない。というか、お前にとっちゃ面倒な事に入るかな?」


と笑いながらそう言った。しかし、ここまで本題に入りにこないのも珍しい。


「いー加減、教えてくれてもいいんじゃないすか?」


そうもう一押しすると、分かったよ、と本題にはいった。


「簡潔に言おう。お前が今住んでるマンションだが、引っ越してくれないか」


「へ?」


弧門さんの頼みというのは、どうやら今俺の住んでいるマンションから引っ越して、この事務所で寝泊りして欲しいという事らしい。

確かにそんな事を急に頼むのは、それは頼みづらいだろう。ただそれ以上に気になったのは、何故引っ越さなければいけないのかというところだ。


「どうして急に引っ越さなきゃいけないんすか?いやまぁ引っ越すのは構わないですよ。最近はほとんどずっと事務所に入り浸りだったんで。ただ、どうしてこのタイミングなのかなって。ひょっとして……」


「前、俺と加藤で話してた"それ"と何か関係してるんじゃないかって思ってんだろ?」


図星だったので俺は静かに頷いた。

昨日弧門さんと加藤さんの2人で話していた事。中身は話してもらえていないが、あの様子を見る限りあまり穏やかでは無さそうだった。

そして話の中で少し聞こえてきた『国民の支持』というワード。このワードが何を示すものなのか。それはまだわからないが、何か大きな事が裏で動いている気がする。


「そんな顔すんなって、加藤と話してた事はあんまり関係ないよ」


弧門さんに指摘されて初めて眉間にシワが寄っているのに気がついた。いかんいかん、と気分を切り替えるように頭を横に振って、話の続きを聞いた。


「もう門矢には言ったんだがな、近々新しく事務員を雇いたいと思っているんだ。んでお前が今のマンションを引き払ったら、そこに住んでもらおうと思ってな」


「え、そうなんですか⁉︎」


俺が驚いていると、そんな驚く事かよ、と笑いながら返された。だが、ハッキリ言ってむちゃくちゃ驚く事なのだ。

この事務所で働いているのは俺を含めてたった3人だけで、しかも俺が入ってから7年間1人も新しい事務員は入ってきていない。それにもかかわらず急に事務員追加とは。

弧門さんもとうとう事務員不足を悟ったのか。弧門さんは進化したのかもしれないぞ。

アメイジング


「あ、あとその時出迎えに行ってもらおうと思ってるから、よろしくな」


「わかりました。……あの今夜の俺の仕事、いつも通りでいいんですよね」


おーう宜しくな、と言われこの会話は終了した。

それから結構な時間が経ち、ハラへったなと思って時計を見ると時計の針は12時をさしていた。


「弧門さん、もう12時ですよ?メシ食いに行きませんか?」


それを聞くとゆっくりと背伸びをしながら時計を見て、


「いや、今日は俺が作るよ」


そう言って立ち上がった。


「そうなんですか?じゃあ楽しみにしておきますね」


実は弧門さんは、1人暮らしが長かったせいか料理がかなり上手なのだ。俺も何度も料理を振る舞ってもらったが、とにかくレパートリーが凄かった。

そして弧門さんが事務所内の調理場に向かうのを見送って、再びパソコンとにらめっこを始めようとすると


「おい、アンタ誰だ⁉︎」


という声が聞こえてきた。

俺も慌てて調理場に向かうと、そこには藍色のエプロンをつけた1人の青年が立っていた。

背は俺よりも少し高く(俺が178cmだから多分180cmちょっと位)涼しい目元をした好青年といった感じだった。

その青年は着ていたエプロンを脱いで、かわりに椅子に掛けていた革ジャンを着ながら


「ああ、安心してください。僕は怪しい者ではありません。僕はツカサの親友です」


と俺たちに話しかけてきた。

ツカサ?ツカサって誰だ?そう思っていると


「ちょっといくつか聞いていいかな?」


弧門さんが青年に向かって話しかけた。

その青年は笑いながら、どうぞ、と返してきた。それを聞いた弧門さんは早速質問を始めた。


「まず最初にそのエプロン誰の?って痛っ!何すんだよ!」


思わず後ろからぶん殴ってしまった。だがこれに関しては半ば自業自得だろう。

なぜそれを聞く。

とりあえず冷たい目線を浴びせていると、わ、分かったよ、と言って再び質問を始めた。


「じゃあ改めて、君は何者だい?あと、君はどこからここに入ってきたんだい?あ、ついでにツカサって誰?」


今度はちゃんとした質問をしてくれた。それを聞くと、青年は笑いながら順番に質問に返してくれた。


「すみません弧門さん。ちゃんと自分から名乗るべきでしたね。

僕の名前は海藤 大樹、職業はフリーターです。ここに入って来た方法は……企業秘密とだけ言っておきます。ツカサっていうのは、分かりやすく言うと門矢の事ですね」


(門矢?どうして門矢がツカサなんだ?)とギモンに思っていると、


「あー、ひょっとしてツカサと門矢の繋がりが分かってないかな?」


と聞いて来た。俺は首を縦にふると


「門矢の下の名前は零士なのは知ってるだろう?だから零士の士の字を取って士って呼んでるのさ」


そう説明されてやっと納得できた。

と、ちょうどその時門矢が帰ってきた。


「今戻りましたー……って、お前カイトか?」


「やあ久しぶり士。ナマコは食べられるようになったかい?」


イタズラっぽく笑いながら服装を整え、門矢と入れ変わるようにその場を立ち去る、海藤と名乗る男を俺たちはただただ見送るしか無かった。

バタンという音と共に気配が薄れていく。そして俺は改めて門矢に海藤…さんの事を聞く事にした。


「なあ士、あの人って結局どんな人なんだ?お前の事よく知ってるみたいな口ぶりだったけど」


「お、お前…早速アイツに感化されやがったな」


話す事も気怠いと言わんばかりのジェスチャーをしていたが、俺が早く話せ!と急かすと嫌々ながら話し始めた。


「アイツの名前は……もういいよな。多分職業はフリーターだ、って言ったと思うんだが、本職は怪盗…もとい泥棒だ。

今までにも多くの博物館や美術館から色んなものを盗んでいたんだ。アイツ曰く世界中のお宝を手に入れるのが目的らしい」


へー、と反応すると、少し不満そうな表情をしていた。

反応が薄いと言いたいのか?残念だったな、これ以上の反応が思いつかん。


「それよりさ、これ食ってもいいかな?」


そう言って料理の盛られた皿を持ちながら、満面の笑みを浮かべている。

……弧門さん、あなたはマイペースすぎる。7年前、初めて会った頃はこんなキャラじゃなかっただろう。

とはいえ机の上に並べられた料理を見て、食べない訳にはいかないだろう。

そういう訳で色々あったが、俺たち3人で少し遅めの昼食をとった。ちなみに料理は全部美味しかった。

(士へ、と書かれた白い箱が料理と共に残されていたので興味本位で開けてみると、中に大量のナマコの干物が入っていた)

昼食後しばらく時間を忘れてデスクワークをしていると、気づけば空が茜色に染まっていた。

それを確認して俺は仕事を切り上げ、もう一つの仕事に取り掛かるべくバイクに跨った。


いかがだったでしょうか。

正直、全話書き終わっての投稿を当初予定していましたが、流石に時間がかかり過ぎると思ったので半ば見切り発車的に投稿する事にしました。

次回からここに登場キャラ達のキャラ設定等を書いていくつもりなので、それもお楽しみください。

今作もいくつもの特撮ネタが混じっており、特撮キャラを元にしたキャラも多数出てくるので、それでもよければ今後もご愛顧のほどよろしくお願いします。

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