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獣狩り  作者: 胤巳尺
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第一幕

 わたし達、町外整備員の多くはあの十年に及ぶ凄惨で悲惨な内戦を経た軍人が多い。わたしもその一人だ。


 その理由の一つとして、内戦以前の世界大戦によって、放射能汚染が大地を覆っているからだ。


 一般的には、シェルターから拡張された町から外に出ることを良い目で見ない。それは後に語るが、悲惨な戦場があったからに他ならない。例えば、わたし達が町に入れば軽蔑のまなざしで見られることは確実であり、もうあの町の中に馴染む事はできないと半分はあきらめをもって生きてはいる。しかし、だからと言って、あの地が恋しくない訳ではない。

 十年の歳月を費やした内戦において、最も悲惨であったのは、双方の銃弾で死んだ者よりも、戦略拠点を設置する際に多臓器不全で死んだ者の数の方が多い事だ。皮肉な事だが、その血でできた拠点のおかげもあり、現在では交易路が確保されている。


 交易路の管理を帝国と皇国が共同管理している現状は「内戦があってやっと仲良くなったか」という町の声と裏腹に、わたし達にとってはあまり気持ちの良いものではないのは確かだった。

 帝国軍では、放射能除去を行うにあたり、その粉塵を含む土壌等の除去・整備を行う特殊工兵、通称『鉄錆隊』がその除去・整備を行っていた。鉄錆隊の特別な防護服は、従来の防護服(比喩ではなくあの宇宙船に乗り込む者達が着るようなものものしい防護服)を見直し、より安全に作業ができるように多彩な改修を行った結果(あるいは、製作者の個人的趣味が入っているかもしれないが)、工兵の装備は、まるで人の形をした機械の姿をしている。尤も、そんな特殊な物を多く生産できる物資が無いため、特殊工兵のみの支給であり、わたしが属した第一〇四歩兵小隊は軽度の防護服(まるで銀紙のような薄いものだったため『銀幕』と呼ばれた)しか着ていなかったため、拠点整備には程度の低い防護服しかなかったのだ。最初の工程のみは、重装備で行い、あとは軽装備であったため、わたし達の様な歩兵の多くは内臓系に疾患を抱えることが多い。マスクの性能の差もあったのだろう。


 しかし、皇国の者たちは違う。

 最低限の防護すらせず素肌を晒し、この大地を歩いている。あれはわたし達にとっては一種の恐怖であった。広域散水車により粉塵を泥炭化させ、表土の削りを行い、その上で陣地を形成するが、それ以外の大地にはまだ死の灰と呼ばれた物が残っているものであったから、素肌を晒すなど、狂気じみていた。

 その大地の様相というのは、野生の動物を見なくなった事からもどれだけひどい有様だったかを想像するに難くない。実際に、植物は枯れ、残るのは灰をかぶった死んだ木々と、所狭しと動物の白い死体が残り、腐敗することもなく転がっていた。緑を蓄えていた山は消え、川は泥で黒ずみ、大地には雪でも降ったのかというほどに灰が積もっていた。この有様は世界の各地で見られた。全ての大地が終わった訳では無いとは思うが、それを確かめる術はもう今はない。


 世界をつなげたあの人工の星々はもうないのだ。


 たった四つに残った島もかつては大陸の一部だったというから、驚きである。わたしには実感の無い事ではあるが。

 しかし、その大地を素肌を晒し生きていける者がいる。最初はその行為をさせる皇国の軍部に恐怖し、次いで、そこで生きてしまっている皇国軍人へ恐怖した。

 わたし達は、まるで人ではないモノと戦っているのだと思っていた。

 だからこそ、この共同管理というのはわたし達にとっては薄気味悪いものであったし、今であっても、その感情は拭うことはできないだろう。

 彼らのその卓越した(あるいは狂気じみた)能力というのは、神が与えたものではなく、彼らの保有する研究機関の賜物であることは、共同管理体制になって知る事となる。内情を聞き、その技術供与を受け始めた今でもその技術を自身へ使う気にはなれ無いでいる。

 損傷・病を塞いで治すの英語の頭文字をとって使われるそれは『R.I.C.O.』通称、リコと呼ばれる薬の投与だ。細胞核に対して放射線が与える影響は、細胞の異常増殖、細胞の不活性または細胞の死滅であり、多くは其れにより多臓器の不全を起こす。しかし、この薬は、定期的投与が必要であるものの、細胞の損傷を元に戻すための蛋白質でできたマシンで構成され、体内に多く摂取しても問題ないと皇国の技術部は鼻高々に説明していた。

 わたしは、其れをある種の生命への冒涜的な(あるいは暴力的な)手段であるとして、皇国の後ろ盾である教会を含め懐疑的な視線で見ている一人である事は間違い無いだろう。


 だが、軍を辞め町外整備員として再就職(といっても、軍の下部組織のような感じではあるが)を果たしたわたしにとっては、その薬を手にする事をいずれは認める必要があるのだとは、何となく感じていた。


 町外整備員の業務は、町と町をつなぐ交易路にめぐらされた敷線の管理と、少しでも大地の汚染を除去することが重要な業務であった。

 ケーブルに放射性物質が付着したままだと通信に影響が出るため、定期的な除染が必要であることと、ケーブルに粉塵が少しでも積もらない様にするために、周辺の土地を除染することが主な作業で、概ね三~四人で一つの管理区域を行う。

 また、大地にはよくわからない植物が生えていることがあり、その植物の内部に濃縮された放射能物質が存在することが確認されているため、その植物の周辺土壌ごと保管容器に移し替え、隔離することも業務の一つだ。この植物は、まるで球根のような球形の肥大した実をつける。その実が危険であるという認識はされているものの、適正に処分しないと放射性物質が周囲にまき散らされるため、特殊金属製容器に移し替える。これらの作業を小屋(といっても最低限の作りはある地下三階建の建物)からの周囲で可能な限り行っていた。


 給与面についても、固定給と、削り出した表土量と植物の確保数の歩合でもらえる手当があり、町の中で働くよりもかなりの額を得ることができる。このためリコの高い治療費を継続して支払うには、もってこいの職種ではあるが。その上、日々の被ばく量はかなりのものであり、わたしも継続的に気休め程度の薬を飲んでいた。いずれ、内臓がダメになる頃には、リコへの鞍替えが必要になるのだと思うと憂鬱な気分になる。


 小屋の一階部分は作業服を着るためのハンガーと、外部と隔離を行う風除室で構成されている。


 地下一階は、概ね食料などを保管する保管庫と、狭いながらのキッチンを備え、中央に大きなテーブルが設置されている。良くわたし達はここで作業指針の打ち合わせや、食事などをとったりする。また、壁には有線放送で流される放送を聞くためのスピーカーが設置されており、緊急時などはこちらから通信することも可能な様に、マイクが設置されている。

 また、簡易ではあるがシャワー室が設置されているため、作業後はここで汗を流すことになる。尤も、一人分しかないため、取り合いになるのだが。


 地下二階は、多くの食料を含めた物資の保管庫であり、四半期に一度食料などをまとめて保管している。人員の入れ替えも四半期毎に行われるが、わたし達三人は二年ほど共同で作業を行っている。

 また、トラブルを起こさないようにプライベートスペース以外にはある程度の監視カメラが付けられている。これらの管理を行う端末が用意されていて、ここが、元は戦略拠点の一つだったことからも室外を含め監視を行うには適した端末室がある。


 地下三階は各自のプライベートスペースを設けている。といっても、上の指示で別の小屋に移動する可能性があるため、個人で持ち込むものなど数は少ない。手荷物一つあればいい程度である上に、町外作業員の私物の持ち運び出来る重量が二キログラムと制限を受けており、非常に少ない重量の中では衣類等の日用品だけで大体終わってしまう。


 その日、はいつもの様に、小屋にいるわたし達三名は、食事をしながら、今日の仕事内容について話し合いをしている時だったが、有線通信で一つの通信が舞い込んできた。

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