第一章 産み落とされたのは悪役令嬢 〜07〜
皆さまごきげんよう。
大御神華流羅でございます。
お嬢様がなかなか板についてきたでしょ。
今日は祐麻が遊びにきていて、お屋敷にある温室でお茶をしている。
お父様が雇ってくれたパティシエの力作がオシャレなテーブルの上に所狭しと並んでいる。
「かるらはすごいね。おなかいっぱいにならないの?」
「すいーつはべつばらだからね。ゆうまももっと食べていいんだよ?」
「うーん、おいしいけどさすがにあまいのばっかりでくちがへんになってきちゃうよ。」
「それじゃあジュースかなにかのむ?」
「じゃありんごジュースもらおうかな。」
りんごジュース…可愛いセレクトだな。思わずほっこりしながら後ろについていたメイドさんに目配せすれば、メイドさんは頷いて温室から出て行った。
うーん、なんか人を顎で使うのって罪悪感が…。前世の庶民の感覚がなかなか薄れないからなぁ。
「そういえばおとうとさんはさいきんどう?」
「このまえあいにいったんだけど、あっ、なまえはたくまっていうんだけどね。ちょうどたくまがねむってたからちかくでみれたんだけど、ものすごくほっぺがふにふにしてるんだ。あかちゃんってかわいいね。」
「そうだよねえ、あかちゃんのあのやわはだはいっしょうてにはいらないしろものだよ。」
「…?」
あ、やべ、難しい言葉を使ってしまった。
なんだか最近、祐麻の前だとこうやってぼろっと素を出してしまうことが多くなってしまった。
子供だからって油断してたらいかんな。はは。
「かるらのいってたことはむずかしかったからよくわからなかったけど、ぼくはかるらのほっぺもとってもすきだよ?やわらかそうだし、ふにふにしてそうだし。とってもかわいいとおもう。」
「クッ…このてんねんタラシがッ…!」
「かるら?」
天国のお母様。この調子だと私の最初のお友達が将来女の子を侍らせる未来しか見えません。この子の道を踏み外させないで下さい。
「そういえばかるらはパーティーとかでたことあるの?」
「パーティー?ついこのまえマナーとダンスのせんせいがきたばっかりだからしばらくむりかな。ゆうまは?」
「ぼくもまだだよ。ぼくはこんしゅうからせんせいがくるんだ。」
「へえ。」
「パーティーにはじめてでるときは、かるらといっしょがいいなぁ。」
「わたしも。ひとりではじめていくのはちょっとふあん。」
「だよね〜。ぼくがそれをおとうさまにはなしたら、おとうさまがまかせとけってかおをきらきらさせながらいってたんだ。どうするんだろう。」
「なんだかものすごくさむけがした。」
こう、なんだろう、私のお父様が怒り狂うのがなんとなく頭に浮かんでしまう。
あのお茶目そうな天道誠さんならやりかねない気がするけど…あれ、これってフラグ?
「もしでるとしたら、はじめてのパーティーはいつなんだろうね。」
「うーん、1ねんごとかかな?」
「あんまりたのしみじゃないなぁ。」
「えっ、なんで?かるらはいろんなすいーつとかたべものたべれるからたのしみだともってた。」
「ゆうまはわたしをなんだとおもってんの。まあそれはたのしみだけどそれいじょうに、ひとづきあいとかきっちりしたところでずーっとおかたくしてるのとかつかれそうでいやなんだよね。めんどくさい。」
「そっかー、たしかにそうかもね。」
「ゆうまもきっとまたおんなのこたちにかこまれちゃうよ。」
「うー、それはいやだな。…それにかるらがパーティーにでたら、ほかのこがきっとかるらのこととっちゃうよ。」
「えー、そんなことはないとはおもうんだけど…」
「お待たせしました祐麻様。りんごジュースでございます。」
「ありがとうございます!」
「お話を止めてしまい申し訳ございません。お二人は何を話されていたのですか?」
「もしかるらがパーティーにでるようになったら、ほかのこにぼくのかるらをとられちゃうからいやだな〜ってはなしてました。」
「あらあら、祐麻様ったら。お嬢様は祐麻様のものではありませんよ。」
えっ、なんか、メイドさんの目が笑ってない。
それに向かい合う祐麻のニコニコ笑顔も一切崩れず、2人の背後に吹雪が見えてきた。
慌てて目をこすれば、2人は普通の笑顔に戻って私に微笑みかけてきた。
ほっ…なんか安心。
「でもなぁ、おともだちがゆうまだけなのもしんぱいなんだよなぁ。」
「えっ!かるらはぼくじゃふまんなの?!」
「かのじょのともだちにまでしっとするめんへらおとこみたいなこというのやめて。」
「お嬢様?!どこでそんな言葉覚えてきたんですか?!」
「このまえめいどさんたちがタイプのおとこのはなししてた。」
「お嬢様に変なことおぼえさせてんじゃねぇよあいつら締めてやる。」
やばいやばい、思わずメイドさんの前でボロ出しちゃった。んもー、私ったらおバカさん!
…あ、ちょっと自分で言ってものすごくしんどくなっちゃった。イタイイタイ…。
でも、普通に女の子の友達もいた方が嬉しい。流石にいつでもどこでも祐麻と一緒だと全祐麻の女が敵に回りそうだし、普通に浮きそうだし。
いやまあ大御神の令嬢って時点で浮くけどさ…。