第一章 産み落とされたのは悪役令嬢 〜03〜
皆さまごきげんよう。
なんかこれ言うのがお決まりみたいになってるけどそんなことはない。ただ時間が飛んだときは言うだけです。
さてさて、私やっと一人で不自由なく(?)歩き回れるようになったので本来の目的を果たそうと思う。
そう、大学受験の回避である。ついでに中学受験も高校受験も回避したい。
そう、つまりは前世の記憶を持つ私にとってイージーな小学校受験をやってしまえばいいのだ!!
メイドさんとかに聞いてみたところ、小学校から大学まで一貫の超お金持ち学校があるらしい。ついでに頭も良いらしい。
よし、それだ。
受験内容は小学校1、2年レベルの筆記試験。マナーとダンスの実技試験。そして面接。
マナーとダンスは知識ゼロだけど、精神年齢高校生の私なら多分一瞬で覚えられる。そろそろマナーとダンスの家庭教師が付くらしい。
この時代にダンス?!って感じだけど、この世界の日本の上流階級ではパーティーとかで申し訳程度にはやるらしい。学校のイベントとかでもちょくちょくあるっぽい。
あとはちょろい。ノー勉でいける
だからと言って、お勉強を完全放棄するつもりはない。
散々受験嫌だ嫌だと騒いでいるけど、勉強が嫌いなわけではない。好き嫌いはあるが、むしろ勉強することは好きだ。だって色々学ぶのは楽しいし。
要はテストや受験が嫌いなのである。
だから将来定期テストで苦しまないために今からしっかり土台を固め直してからの独学で色々大学レベルの勉強をしようと思う。一応前世は進学校の高校生だったからね。一応高校の勉強は一通りガッツリ学んでいる。
でも4年以上ペンを持ってないから高校から勉強を始めようと思う。
喜ばしいことに洋館風の大御神邸には豪華すぎる図書室があり、そこには様々な参考書や問題集があった。
連日、メイドさんを後ろに引き連れて図書室に通い、勉強した。
窓から橙色の西日がさしているのに気がついて、物理の参考書を閉じる。
「お嬢様、今日はもう終わりになさいますか?」
「うん、終わり!」
「ふふふ、お疲れ様です。美味しいココアを料理長が作っておりますのでダイニングに参りましょうか。」
「りょうりちょうのココアだいすき!」
「やっぱりお嬢様はマジの天使だったんですね。」
ふ、もちろん4歳児の演技も完璧だ。
メイドさんが真顔でそんなこと言うので、人生イージーだなって思う。あ、このお屋敷のみんなは私のことを超天才児大天使だと思ってる。私が数1の参考書を開いた時はどこか元気のなかったお父様が両手を上げて、僕の華流羅ちゃんは天才だ!と狂喜乱舞していた。怖い。
ふと気付いたら、無意識である部屋の前で立ち止まっていた。
「お嬢様……」
寂しげな表情で私を見るメイドさん。
お父様はなんとか立ち直って、親バカを拗らせながら仕事を頑張っている。
お母様の部屋のドアを見上げて、心の中でため息をつく。
あんなこと言っときながら、立ち直れてないのは私なのかもしれない。
なんだよ、人生イージーモードじゃなかったのかよ。
大きなふかふかのベッドの上で大きな白くまの抱き枕を抱えてゴロゴロと転がる。
この白くまは昔お父様にねだったら仕事帰りに買ってきてくれたやつで、ゆるんとしたやる気のなさげな顔をしていてものすごく可愛い。ガチガチのテディーベア買ってくるかと思ったらこれを買ってきたからお父様のセンスは神だと思う。
「お嬢様〜しっかり乳液を塗ってそのマシュマロとぅるとぅる美白肌を守りましょうね〜。」
「はーい。」
表現がやばいのは慣れた。メイドさんが手に超高級乳液をとって、優しく私のほっぺに塗りつけていく。
それよりメイドさんの手に塗ってあげて…。
おかげで私の肌は美しいマシュマロボディを維持できている。まあ4歳児で既にシミとか乾燥とかできてたらそれはそれでヤバいけど。
家で面倒は見てもらえるから幼稚園とかには通っていない。よって同い年の子にほぼ会ったことない。
アッ、将来コミュ力なさすぎてボッチになる気がしてきた。
「華流羅ちゃん!お父さんが帰ったよー!」
「!おとうさま、おかえりなさい!」
「いや〜今日も華流羅ちゃんは世界一可愛いね!」
今日もお父様の親バカは絶好調ですわね。
仕事から帰ったお父様がニコニコしながら部屋に入ってきた。
メイドさんがお父様に耳打ちしてから、お辞儀をして部屋の隅に下がる。今日もお母様の部屋の前を通ったことを伝えたんだろうな。
ベットに座ったお父様に近寄れば、膝に乗せられて優しく頭を撫でられる。
「おとうさま、今日もおしごとおつかれさまです。」
「ふふ、ありがとう。華流羅ちゃんに癒してもらえるから疲れも一瞬で吹っ飛んじゃうよ。今日はなんのお勉強したんだい?」
「ぶつりをやりました!」
「そうか!やっぱり華流羅ちゃんはすごいねぇ。」
ベタ褒めしてくるお父様。親バカすぎます。多分私が今日は鼻くそをほじりました!とか言ってもベタ褒めしてくる気がする。いやほじらないけど。
お父様はメイドさんと目を合わせると、私をベットに座らせて目線に合わせてしゃがみ込んだ。
「ねえ華流羅ちゃん。一人で勉強するのも素敵だと思うんだけど…お友達が、欲しくないかい?」
「おと、もだち?」
「うん。華流羅ちゃんは同い年ぐらいの子と話したことないよね?いつか華流羅ちゃんが小学校に行く時に、同い年ぐらいの子達とうまく喋れるように練習できるといいと思うんだ。それに、一緒に遊ぶお友達がいるときっと楽しいし、寂しくないだろう?」
「う、ん。おともだち、ほしいです。」
お父様はそうか、と破顔しながら言った。
お友達ねぇ。見事フラグ回収か。
「じゃあ明日遊びに来てもらおうね。」
いや、急過ぎやしませんか。