第一章 産み落とされたのは悪役令嬢 〜02〜
皆さまごきげんよう。
生まれて飛び出てババーン!な超びっくりな事態を飲み込むまでかかった時間、約2年。
一度死んだことや前世の記憶を持ったまま再び生まれてしまったことに対して心の整理をし、それに慣れて悠々自適なハッピーベビーライフを送っております、わたくし、ただいま3ちゃいの大御神華流羅でごぜえます。
0歳とか1歳とか2歳とかのエピソードはぶっ飛ばさせてもらう。なぜなら言うまでもないがおむつ変えてもらったりミルク飲ませてもらったりげっぷ出させてもらったり時々たまたま夜中に大泣きしたりの理性なしの欲望剥き出しライフを送っていたのでそんな説明したくない。今日は便のお調子がいいですわね〜なんてご勘弁である。みんな聞きたくないでしょ。
さて、長すぎる毎日の私の日課はひたすら情報を集めること。集めるって言ってもお世話してくれる人の話とか独り言とか聞くだけだよ?
この3年ほどの情報収集の成果をお見せしよう。
どうやら私は大御神財団というこの世界の日本における超大金持ちの御令嬢らしい。まあこんな大層な名前だからねえ。前世、私が生きていた時代とほぼ変わりは内容だけど、そんな財団聞いたことないのできっと私の知る日本とは違うんだろう。
そして財団トップでもあるお父様は大御神綺羅さん。やっと目が見えるようになってお父様の顔を観れると思ったらイケメンすぎてまた目が潰れてしまった。
そしてお母様は大御神華奈さん。超美女。またもや目が潰れてしまった。
さて、両親の顔がわかったところで気になってくるところがある。
そう、その二人の愛の結晶である私の顔面偏差値だ。
これは期待できるのではないか…!と思いながら、お世話係さんらしきメイドさんに抱き上げてもらってる間に座らない頭でなんとか鏡を探す。嬉しいことに超広すぎる私のお部屋には大きな姿鏡もあった。なんであるねん。
興味を示した風をメイドさんにアピールしたら簡単に鏡の前に連れて行ってもらえた。
うん。見事に美少女だった。
ミルクティーベージュの明るい、ふんわりとした柔らかな髪に、長い睫毛が添えられたヘーゼルのぱっちり大きな瞳、血色のよいピンクの唇と滑らな白い柔肌。たまらんわぁ〜。
控えめに言って超絶美少女だった。
あらやだ私可愛い。
お父様やお母様やメイドさん達が口を揃えて吐き気がするレベルで可愛いを連呼してたから、ただの親バカかと思ってたけど、マジもんだった。
この歳でこの顔なら将来超有望だな。
自分の顔に感動して(物理的に)言葉に出来ずアウアウしていたら抱き上げてくれたメイドさんが「鏡がお気に入りですか〜、そうですよね〜華流羅お嬢様は世界一可愛いんですもの〜。」と言われた。
やべぇこの人、私のこと大好きやん。
まあ、このメイドさんだけでなくこのお屋敷にいるらしいあらゆるメイドさんや執事さんともちろん両親は私のことを溺愛しているっぽい。顔がいい人達に抱っこしてもらえてわたしも日々hshsしてるよ〜。
赤ちゃんライフ万歳。
まあそれはさて置き。今一番気になるのはお母様のことだ。
恥ずかしながらもお母様のおっぱいを飲むことは覚悟していたのだが、何故かお母様は一切私に授乳することはなかった。
いっつも哺乳瓶に入った温かいミルクをメイドさんに飲ませてもらっていた。
もしかして私が嫌いなのか…?とも考えたけどそれはあり得ないだろう。あの可愛がりようだし。
お母様は1日に2、3回わたしの部屋に来て抱っこしてくれる。いい匂いだし美人だし最高だし大好きだけど、30分くらいしたらメイドさんに引っ張られて嫌々帰っていく。
いろいろ考えたけど、多分お母様は相当体が弱いという可能性が一番高い。
たまに抱っこしてもらって外の広大なお庭にお散歩しに行くと、お母様の部屋の窓からお母様がベットで本を読んでるのが見えた。真昼間なのに。
それを何回か目撃したから多分そうなのだろう。
一歳になる前に舌ったらずだけど、単語なら喋れるようになり、一歳ちょっとでなんとか立って歩けるようになった私は、物凄くハラハラしながら後をついてくる三、四人のメイドさん達を携えてお母様の部屋に通うようになった。
初めて行った時は目をまん丸に見開いて、私が「おかあさま」と言った時はボロボロに涙を流して私を抱きしめてきた。
思わず私も涙が出てきてしまい、お母様を焦らせてしまった。お母様泣かないで〜〜。
お父様は出張とかじゃない限り毎日仕事に行く前と夜遅くに帰ってきてから必ず部屋に突撃しに来るから何の心配もない。元気ですわねお父様。まあほぼこの親バカお父様が来る時は寝てるんだけどね。
休日とか普通に抱っこしてもらうときは砂糖が吐けるレベルでめちゃくちゃ甘やかされてる。イケメンだから許すわ。
そんな3歳の今日である。
ベッドに横たわる、沢山のチューブに繋がれた蒼白な顔をしたお母様。
弱々しく部屋に鳴り響くのは、命の存在を示す無機質な電子音。
「華奈っ…そんな、華奈!!まだ僕は、まだ、君ともっと、生きていたいのに…!!」
「きら、さん……ごめんなさい…。」
「早すぎるよ…華奈、やだよ、華奈。」
「でも、わたし、かるらちゃんをうんだら…もう持たないっていわれてたけど、いのちをかけて、かるらちゃんを産めて…この手に、抱っこできて…おしゃべりするのも…歩くのも見れて…あなたとの大切なこの子を3年も見守れて、幸せだった…」
「もっと!…華流羅ちゃんのことを、ふたりで、ずっと…!小学校の入学、式も、卒業式も、全部、成人式も、!」
「ふふ…けっこん、しきも?」
「…嫁には出したくない。」
こんな時に何言っとるねん。心の中で思わず突っ込んでしまう。
お母様が高いベットになんとか掴まって顔を覗かせている私を見る。
「かるらちゃん、ごめんね、ずっと一緒にいてあげれなくて…こんなおかあさまで…こんなよわいおかあさんで、ごめんね…」
お母さまの瞳から大粒の涙が一粒、また一粒と流れる。
そんなことないよお母様。あなたは、私にこれ以上ない愛をたくさん注いでくれた。
出来るだけ私に会いに来てくれて、私が部屋に行ったら夕食までずっと話を聞いてくれて、私のする事一つ一つに喜んでくれて、愛してくれて。
「おかあさま、あいしてます。」
濡れた瞳をこれでもかと見開く。私が初めてお母様って言った時よりも、大きく、ゆっくりと。
「おかあさま、だいすきです。ずーっと、だいすきです。」
泣き崩れていたお父様が顔を上げる。
「っ…!!かるら、ちゃん、きら、さん…わたし、いま、世界でいちばん、幸せです!」
お父様の手を、小さな手でギュッと握りしめ、もう片方の手でお母様の手を握る。
「おとうさま、わらってあげましょう。おかあさまを、しあわせに、してあげましょう?」
「っ…!」
私の手を握り返してから、ひしとお母様の片手と私の両手を纏めて両手で握りしめたお父様は、涙でぐちゃぐちゃになった顔に優しい、優しい不器用な笑みを浮かべた。
「華奈…愛してるよ。ずっと…っ、ずっと。華流羅ちゃんを絶対守り抜いて、見せる。だから安心して?……君と出会えてっ、僕はっ…世界一幸せだったよ…!!」
お母様は微笑みを浮かべて、紫の唇を動かした。
「…ふたりとも…愛してる。」
ゆっくりと一回瞬きをしたお母様の瞳から涙がさいご、一粒だけ流れ落ちた。
それに目を奪われて、ふと目線を戻せばお母様のヘーゼルの瞳は瞼に覆われていた。
急き立てるような電子音が部屋に鳴り響き、部屋に呼ばれていた医者が慌ただしく動く。
お父様は崩れ落ち、大声で泣いた。
「おじょうさま…」
メイドの震えた涙声が私を呼ぶ。
嗚咽するお父様の背中に抱きついて、服を握り締めた。
お父様が私の体を掻き抱く。
「かるらぁ…かるらぁ…」
私の両目からは、止めどなく大粒の涙が流れた。
お父様、二人で、生きていきましょう。
享年30歳。
優しすぎる4年間の思い出をのこして、お母様は天へと旅立ってしまった。




