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弱気な剣聖と強気な勇者  作者: 中町 プー
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挿話④

「お元気でしょうか?………うーん。ちょっと違いますね。なんだろ。もっと他にあるかな。」


「手紙なんて珍しいな。伝達魔法とやらで連絡すればいいだろ?」


「風情がないでしょ?」


「元貴族とやらは面倒なものだな」


私が悩みながら姉への手紙を考えていると、前に座る剣聖はぶつくさ文句をいいながら紅茶を飲んだ。


この強く美しい女性がもう二児の母だなんて誰が思うだろうか。世界とは不思議なものである。


私はずっと王城で過ごしていたので、世界に出たときはそれは驚いたものだ。


それもこれもすべて今の夫のおかげだと考えるとどこか腑に落ちないが。


あの軽い口調の私の旦那様は前勇者様と今頃、酒場である「豚のしっぽ」にでも飲みに行っていることだろう。


そうして、今は残された妻たちの女子会とでも言うのか、昼の時間を潰していた。


彼女は未だ、世間では世界最強の剣聖と恐れられ、一歩町に出れば「剣聖様!剣聖様!」と崇められているが、私は彼女を普通に「シエラ」と名前で呼んでいる。


初めて出来た私の友達である。


私たちは一年に一回、こうして定期的にどちらかの家で会うようにしている。


「よし、書けました。これで後は定期便で送ってもらいましょう」


「そうか。よかったな」


私は最後の便せんにもう一度目を通す。




姉さま。


私は貴方のおかげで、こうして今も元気に生きております。

姉さまが心配している第一皇女であるシルヴィアお姉さまのことですが、姉さまが望まれる通り、支援金を送り、今は西の国であるルートドニア国にてご存命のようです。


彼女もこの数年で変わられました。

あの時のような高慢な態度は相変わらずですが、どこか丸くなられたような気がします。

言葉では表現出来ないので一度会える機会を設けたいと考えております。

彼女は今、冒険者なるものをしているようですので、情勢が安定したならば一度連絡をさせて頂きます。


姉さまの依頼を果たすことが、恩返しになるとは思ってはおりませんが、少しでも姉さまの役に立てたことが私にとっての幸せでございます。




私はつい音読してしまっていたようで、シエラが苦笑しながら苦言を呈す。


「それ、勇者に言うなよ?前王は一応大罪人だからな。その第一王女も今は賞金首だ。それにお前が第一王女が逃げる際に手助けしていたのがバレると厄介だ」


「その時、シエラは私の味方をしてくれるでしょ?」


「もちろん。当たり前だ。今度はカズヨシの鼻っ面を叩き折ってやるさ。

………あ、紅茶なくなっちゃったな」


彼女がもうこの茶会に飽きてきたのは分かっていたので、この後は町にでも出て、買い物でも行こうと言うと、彼女は目を爛々と輝かせ、彼女の可愛いらしさに一瞬、見惚れてしまう。


「どうかしたか?」


「ううん。シエラは可愛らしいなと思ったんです。それだけ」


「なんだそれ?」


「なんでもないですよ。奥様」


「やめろ。痒くなる」


「ふふ。じゃあ。行きましょうか」


彼女は不貞腐れた様子であったが、その時の表情も可愛らしく、ふと疑問に思う。


本当にシエラがうちの旦那様や、勇者様よりも強いのかしらと。そう思えば、少し勢いをつけて彼女に突撃してみた。


「えい!!」


「おお!」


彼女はすらりと私の突進を避けると、そのまま姿勢を崩した私を抱きあげた。


「なんだ?いきなり」


「いや、シエラは強い強いってうちの旦那が言っていましたから。ちょっと確かめたくなっちゃったんです」


「なるほど。昔を思い出すな」


「そうね。大体いつも同じ言葉が重なって笑っちゃうんだけど」


「そうだな、あれだ?えっと、そうそう………」


二人して笑い合う中、昔を思い出す。


初めてシエラと会ったときは、人との付き合い方が私も彼女も苦手であり、喧嘩もよくしたものだ。


そうして、最後に言うセリフはいつも同じである。


「「よくあんなのと結婚したわね?」」


と。


その瞬間、自宅のドアが開く音が聞こえる。


「なんや?あれ?ひどい言われようやな。自信なくすわ」


「本当にな。もう一回飲みにいくか?日本に帰って呑んでもいいなぁ」


「せやな。ゲートも出来たし転移ですぐ行けるやろ?」


ガヤガヤと声が聞こえる。それは私の愛する人と、シエラの愛する人の声。


シエラは勇者様の声が聞こえると、嫌らしい笑みを浮かべていたが、それは私も一緒だ。


彼のあの軽い口調も今は愛くるしく感じ、告白の時だけ見せたお堅い口調も今は私の大事な思い出だ。


「私たちも行かない?」


私はいたずらっ子のような笑顔でシエラを誘う。


「そうだな。行くか」


彼女は頷くよりも早く足が動く。私もそれに続く。


そうして、この幸せな時間の一ページは紡がれていく。

何も知らず、何も感じず、どうでもよくなっていた私の人生は輝きだしたのだ。


私は魔王に恋をしたのだ。








 





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