【不意をつかれる】
奏太がやってきた次の日、小牧が騒がしかった。春里は全く想像していなかったが、こうなるのも当然だった。
小牧は朝、春里の姿を認めると、当然のように春里のもとにやってきた。これは小牧の毎日の習慣だから、春里も別に怪訝に思うこともなかった。だが、突然、机を叩かれ、顔をグイッと近づけられた時は春里も焦った。
「何?」
「まさか、と思っていたけど、増永先輩と付き合い始めたの?」
この問いで初めて昨日の出来事によってこういった誤解が生じることに春里は気づいた。春里にとっては奏太が会いに来てくれる事は、友人に会いに来ているのと同じ。当然とは言わないけれど、来てもおかしくないと思っている。
「いいえ」
別に付き合っていると言っても構わない。そう言えばこの環境も変わり、落ち着くことだろう。だが、春里がそれでよくても奏太はそう思わないかもしれない。相手がいることだから、勝手にそうはできない。
「本当に?」
「別にどちらでも構わないでしょう?あなたに関係ありますか?」
小牧は言葉を詰まらせた。そのまま黙っていて欲しい。そう春里は思いながら笑みを浮かべていた。
小牧に疑われたと言う事はもう一人その関係を疑う人がいると言う事。春里はそれに気づき、覚悟はしていた。小牧相手なら軽く流せるが、如月は少々しつこそうだ。
「こんにちは」
如月はとてもきれいな笑みを浮かべて春里を迎えた。
「こんにちは」
「篠原先輩、確認をさせていただいてもよろしいですか?」
「どうぞ」
「昨日の増永先輩と篠原先輩の姿を拝見して、とても友人関係には見えませんでした」
ずいぶんとねっとりと聞いてくるな、と眼を眇めながら春里は聞いていた。
「まるで約束をして待ち合わせをした恋人同士のようでした」
「そう?」
「はい」
如月は春里をじっと見つめ、口を噤んだ。だから、春里は何も言わずに歩きだした。
「あの、僕がこんな事を言うのも筋違いなのかもしれませんが、増永先輩にはお付き合いしている女性がいらっしゃいますよ。先輩は騙されているのです」
如月の言葉に春里は驚き、勢いよく如月を見た。如月は多分勘違いしたのだろう。春里としては、奏太に恋人がいる事――正しくはいた事だが――を知っていることに驚いたのだ。多分、奏太の相手が誰だかも知っているだろうと思って。だが、多分如月は、二股かけられていると思った春里が驚いたと思っただろう。何とも申し訳なさそうな表情で春里を見つめている。
「どこかで二人を見たの?」
「はい。街中で」
「そう。それは貴重な経験ね」
春里がにっこりと微笑むと、予想していなかった反応だったのか、如月には珍しく、きょとんとして見せた。これが素の姿ではないか?と春里は思った。
「奏太さんにそういう女性がいる事は知っているの。別にそんな事衝撃でも何でもない」
別れた事は言ってはいけない気がして隠した。如月の事だから言いふらす事はないだろう。だが、春里が漏らしたら、春里自身が気になってしまって仕様がなくなる。
「残念でしたね。まあ、わたしとしてはかわいい如月君の表情を見られてラッキーだった」
少し短いですが。
奏太は意図的にそんな雰囲気を醸し出したのではないかと。貴之のために。
次回は貴之と奏太。奏太は友人二人のために頑張りますよ。彼がいなければ話は進みません。
次回もお付き合いください。




