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初恋の彩り  作者: みこえ
~始まり~
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【持つべきものは親友?】

 貴之は淋しさを紛らわすために毎週大学で出逢った友人達と遊び歩いていた。別に悪い遊びをしているわけではない。ただ、カラオケに行ったり、夕飯を食べに行ったりしているだけだ。


 この日、金曜日も友人に誘われて貴之は食事に来ていた。ただ、騙されたとしか言えないのだが、そこには同じ大学に通う女性が数人交じっていた。それは別に構わないのだが、なんて言うのだろう、空気がねちっこい。


 貴之の隣にいる女性は自慢の胸元を強調した服を着て、貴之が一番嫌いな品のなさを身につけている。


 ――俺はどうしてこういう女に好まれる?

 高校を卒業して、環境が変わったのにもかかわらず、やはり近寄ってくる女性は同じ部類だった。自分の自信あるところを強調しているのは別に悪いことではない。ただ、それが著しいのだ。女性に奥ゆかしさなどは求めてはいない。ただ、清潔さを求めているだけだ。そして、少しの謙虚さか。


 貴之は執拗に身体に当てられる柔らかな胸元を気にしながら、溜め息を吐いた。そう、別に大きな胸が嫌だと言っているわけではない。この胸におぼれた時もあった。過去の汚点だったことは確かだが、男ならそういう時があってもおかしくはないだろう。若気の至りと笑い話にするにはまだ貴之は若すぎる。だからこそ、さらりとは流せなかった。


「竹原君っておとなしいんだね」

 顔を見ればぷっくらとした唇が眼に入り、視線を少しでも落とせば大きな胸の谷間が眼に入る。男としてはラッキーと思うべきなのかもしれないが。貴之は視線を自分の手元に移しながら、曖昧な笑みを浮かべた。


「こういった会は慣れていないので」

「えええ、そうには見えないのに」

 何が可笑しいのか分からないが、クスクスと女は笑う。そんな笑い方も気に入らなくなってくる。馬鹿にされたような気がして貴之は愛想で浮かべていた笑みを消した。


「今日は食事に誘われてきただけなのに、これではまるでキャバクラ。まあ、行ったことはないけどね」

 貴之の言葉に、女は笑みのまま止まった。

「でも、キャバクラで働いている女性はもう少し会話に品があるのかな?まあ、分からないから何とも言えないけどね」

 貴之は勢いよくウーロン茶を飲みほした。


「失礼な」

「そうだね。それを承知で言ったんだから。君、化粧くさいよ。俺はね、そういう女性に囲まれていた過去があるから、この臭いが大嫌いなんだ」

 女は眉を(ひそ)め、唇を噛んだ。


「少しくらい顔がいいからっていい気になって」

「いい気になっているのはお互いさまでしょう。その程度の胸で俺が釣れたらこちらのもの、って?残念ながらもうそういう胸は飽きたんだ。ごめんね」

 貴之は口元をペーパーナプキンで拭いた後、立ち上がった。


家泉(いえいずみ)、先に帰る」

 貴之を誘った友人に声をかけ、隣に座っている女に一瞥を送った後、貴之は店を出た。

「最悪だ」

 溜め息が零れる。



 貴之を取り巻く環境は確かに変わった。過ごす場所が変わったのだから当然のことだ。一番の変化は、毎日一緒に過ごしていた春里と全く会っていないことだろう。それがどれだけ辛く厳しい事か、引っ越してくる前は分かっていなかった。そして、殊の外、大学生活はおもしろくない。勉強をしに通っているのだから別におもしろくなくて構わないのだが、変な期待や夢を抱いていた。高校生活で出来なかった事を大学生活でしていく、といった何か楽しい希望を抱いていたのだ。


 と、駅に向かい歩いている時、携帯電話が鳴った。誰か、とディスプレイを覗くと、貴之の唯一の親友である奏太からだった。


「もしもし、珍しいな」

 用事がない限りは電話をしてこない奏太からの電話だ。

『まあね。大学生活はどう?楽しんでいる?』

「嫌味だな」

 貴之の言葉に遠慮なく奏太は笑った。


『俺も色々あってへこんでいたよ。でもね、春里ちゃんに会って、話をして、優しく励ましてもらって、力をもらったら元気になった。あの笑顔は最強だね』

 奏太の言葉に、貴之の足は止まった。


「春里?」

『うん、そう。何か会いたくなってね、高校の校門前で待ち伏せしちゃった。かわいくなっていたなぁ』

「なんだ、それ」

『元気だったよ。本当、一層かわいくなったよね』

「知らないよ、そんなの」

 なんて憎たらし言い草だ。貴之が春里と会っていない事を知っていての発言だ。奏太は容赦なくケラケラと笑う。


『放っておいたら、奪われるよ。すでに危ない状態なんだから』

「え?」

『詳しく聞きたい?なら、明日会わない?ちょっと話をしたいんだ』

 前置きは長かったが、最終的には春里の事で話があるから会おうと言うことなのだろう。貴之には異論はなかった。

「ああ、俺はどこに行けばいい?」

 貴之は焦りを感じながら、それを必死で隠して返事をした。



 ゆっくりと話したいという奏太の言葉に貴之は自分の部屋に来ることを提案した。そのせいで、掃除をする羽目にあう。別に奏太相手なのだから、掃除など必要ないのだが、変な勘繰りをされそうで貴之は怖かったのだ。春里に会えないから気力が出ない、なんて思われたら恥ずかしくて仕方ない。間違っていないから余計に、だ。


 散らばっている洋服をクローゼットに投げ入れ、キッチンに溜まっていたカップめんの残骸を大きなゴミ袋に入れていく。ゴミは弁当の入っていた容器とカップめんの容器、菓子の袋とジュースの紙パックばかりだ。一応はゴミは分別している。この辺は春里の教育の賜物。


 貴之は仕上げにワイパーでフローリングを拭き、掃除を終わりにした。ひどかった部屋はどうにか見られるようになり、貴之は自然と笑みを浮かべた。

「どうにか間に合ったな」

 奏太を迎えに行く時間は十二時。軽くシャワーを浴びて、着替えをしても充分間に合う時間だ。



 久しぶりに会った奏太は以前と変わっていなかった。当然と言えば当然の話だ。私服もいつものごとくシンプルで、ジーパンとTシャツと白地にネイビーのボーダーの入ったパーカー姿だった。パーカーは奏太らしいかわいらしいデザインのもの。そんな変わらない奏太に妙に貴之は安心した。


「やっぱり一人暮らしの部屋だね」

「どういう意味だ?」

 二人掛けのローソファに当然のように座る奏太を見て貴之は苦笑した。初めて来る場所でも奏太にとっては貴之の部屋。別に関係ないのだ。


 貴之は冷蔵庫からウーロン茶のペットボトルを取り出し、グラスと一緒にリビングに持っていった。

「あ、お構いなく」

 奏太のわざとらしい口調に貴之は一瞥を食らわせ、床に座った。


「想像していたよりもしっかり生活しているんだね」

 奏太に遠慮の文字はない。当たり前のようにペットボトルのふたを開け、グラスにウーロン茶を注ぐ。


「一応、これ土産。春里ちゃんお気に入りの大福だよ」

 高校の最寄り駅近くにある和菓子屋のものだ。確かに春里はここの大福が好物だ。あんこが好みの甘さだと嬉しそうに語っていた。


「この前、ここの店で食べたんだよ。春里ちゃんは抹茶パフェを幸せそうに食べていたよ。結構豪勢なものだったな」

 奏太はそう言って大福にかぶりつく。コンビニエンスストアでお弁当も買ってここに置いてあるのに、お弁当の前に大福を食べるか?と、貴之は突っ込みたかったが、それよりも気になる事がある。


「春里とどんな話をした?」

「うん、楽しい話では無かったな。まずは俺が彼女に振られた話。まあ、振ったのは俺なんだけれどね、実質振られたのは俺。それを慰めてもらったんだ」

「羽田と別れたのか?」

 何ともない風に奏太は語るが、勇気を振り絞って羽田に告白をした事を貴之は知っている。まあ、後から聞いた話なのだが。そして、両想いになれた事を本当に嬉しそうに語っていた。この男、こんな幸せそうな顔もするんだな、と思ったものだ。


「あいつにとって俺はその他大勢の一人だったんだよ。そういう現実ってあるんだね。びっくりしちゃったよ」

 奏太は大福で汚れた手を、ティッシュペーパーで拭いた。そして、当然のように弁当を開ける。


「それって……」

 その後の言葉が続かなかった。

「うん、俺、相手にされていなかったみたい。人は見かけに寄らないね」

「そうか。羽田ってそういう奴だったんだ。俺もそれは見抜けなかったな」

 貴之は溜め息を吐いた後、ウーロン茶を一口飲んだ。そして、お弁当を開ける。温めてもらったハンバーグ弁当は蓋を開けた途端、いい香りがした。


「女って怖いな」

「貴之の場合は色々経験しているからね」

「昨日だって友達に騙されて合コンまがい。化粧くさくて堪らなかったな」

 貴之の眉間にしわを寄せる癖は高校から変わらない。春里と一緒にいる時はそういう表情をしないが、気に食わない事があるとすぐに眉間にしわが寄る。


「大学生になると化粧を堂々とできるようになるからね」

 奏太は楽しそうに言った後、唐揚げを一口で食べた。

「高校生だってすごい化粧をしていたぞ」

「……確かに」

 奏太は苦笑した後、ご飯を口に入れる。いつ見ても豪快な食べ方だ。そして、それを流し込むようにウーロン茶を飲む。


「まあ、そんな話しじゃなくてね、春里ちゃんの悩みの話」

 ウーロン茶を飲もうとしていた貴之の手が止まった。

「悩み?」

「そう。貴之が原因だよ」

「俺?」

「うん。貴之はさ、どんな告白をしたの?きちんと伝えた?」

「伝えたよ。きちんと気持ちを」

「違うよ。気持ちじゃなくてね。えっと、貴之のお父さんとお母さんがどう思っているか、とか」

「え?」


奏太の元彼女の羽田が実はどんな女の子だったのか――。この辺は、奏太の一方的な思い込みかもしれない。本人にきちんと聞いていないので不明なのです。という羽田擁護的逃げ。

実は、貴之と春里には絶対的な絆があって、そこを軸にしているのですが、でも、高校生の恋なんてどちらかと言えばついたり離れたりだったりするのでは?と思ったわけです。ということでこんな展開。きっと奏太には奏太にお似合いの女の子が現れてくれるはずです。


次回は奏太視点で奏太と春里のあの和菓子屋での出来事。

2話同時で行きます。千ちょっとと千五百ちょっとですからね。


次回もお付き合いください。

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